これは30年前にプロバイオティクスが発見されたときの状態と非常によく似ているという。乳タンパクは今後、プロバイオティクスのように一大産業になる可能性が高いとジュリアン氏。
乳タンパク、ウエイトコントロールに効果的
さらに幸か不幸か、乳タンパクにとって有利ともいえる背景がある。それは先進諸国が共通して抱える高齢化の問題である。これまで乳タンパクはプロアスリートを対象とした、非常にニッチな素材だった。
筋肉を増強したい男性が運動の前後に補給するものが乳タンパクというイメージは未だに強く、この市場は全人口のわずか2%にすぎない。しかし乳タンパクは筋肉を増強することよりもウエイトコントロールに最も効果的であるということが2010年ごろから実証されつつある。先進諸国では高齢化が進み、サルコペニア(筋肉減弱症)が大問題となっている。
サルコペニアは病気というよりは加齢とともに誰にでも見られる症状であり、「すぐに疲れる」「骨の強度が低下する」「転倒リスクが増加する」などの問題が生じる。70歳以上の男性の15%、女性で25%、80歳以上になると男女ともに50%の人がこのサルコペニアの問題を抱えるようになるため、多くの企業ではサルコペニアの予防、改善に効果的な商品開発の研究を進めている。
サルコペニア対策で、乳タンパクが注目
このサルコペニア対策と予防には、乳タンパクが非常に効果的であることが証明されつつある。高齢者であっても、高タンパクを摂取し続けることは筋肉の低下を予防し、基礎代謝量を増やすことにつながるためウエイトコントロールに役立つというメカニズムだ。しかし高齢者が粉状のプロテインを摂取するかといえば、それは薬のようでもあり食の楽しさとはつながらない。
そこで乳プロテインをヨーグルトやダノン、アイスクリームのような形状にしたものや、フルーツジュースと混ぜたもの、シリアルとのミックスといったような「見た目」「美味しさ」「利便性」を追求した最新商品が世界的に売れ始めている。
乳プロテインの新たな商品化は、高齢者だけでなくもう一つの新たな市場も開発した。それは若い男性層である。これまで若い男性や働き盛りの男性はヨーグルトなどの乳製品を好まなかった。その理由としては、食品そのものにボリュームがないこと、食べても満足感が得られないこと、女性や子どもの食べ物というイメージを持っているということなどが挙げられる。
乳タンパク、摂取後に健康面でのベネフィットを体感しやすい
しかし、各社が口当たりの良い濃厚で満足感が得られる高プロテインのヨーグルトや乳製品を開発したことで、若い男性もどんどん購入するようになっているという状況が欧米では始まっている。例えばオーストラリアのmammothというチューブ状のヨーグルトは、シリアルを食べる時間さえ取れない男性の完全な朝食として大ヒットし、これまで健康について考えたことのなかった男性にもヘルシーな食事を提供することに成功した。
健康市場は景気に左右されにくい。とくにシニア市場はその傾向が顕著であるとジュリアン氏。プロバイオティクスもそうであったように、乳タンパクは摂取した後に健康面でのベネフィットを体感しやすいというメリットもある。
そして乳タンパクはヨーグルトからドレッシング、お菓子まで利用範囲が幅広く、商品開発の余地がまだまだ豊富である。このトレンドとチャンスを見逃さず、健康市場のさらなる活性化に役立ててほしいとジュリアン氏は語った。