低炭水化物食による糖尿病治療の限界
〜「第22回糖尿病教室市民公開講座」

2012年11月27日(火)、東邦大学医療センター大森病院で、「第22回糖尿病教室市民公開講座」が開催された。糖尿病の治療食について、管理栄養士の五月女 祐一氏が「低炭水化物食の効果と限界」と題して講演した。

低炭水化物食の効果と限界
管理栄養士 五月女 祐一

世界の糖尿病人口、2030年には5億5,000万人に

世界の糖尿病の人口は増加の一途を辿っている。2011年時点で約3億6,620万人といわれているが、2030年には5億5,000万人を突破するものと推測されている。

日本でも糖尿病の患者数は右肩上がりで増加している。糖尿病が強く疑われる人が1,067万人、糖尿病の可能性を否定できない人が約1,200万人を超え、予備軍も合わせると2,200万人を超える。世界の糖尿病人口ランキングでは日本は6位である。

日本人の糖尿病罹患者、必ずしも肥満でない

1999年以降、日本を含めたアジア諸国でも糖尿病患者数が激増している。最近、日本人を含むアジア人は糖尿病になりやすいことが知られるようになってきている。糖尿病の原因は主に肥満、運動不足、ストレスなど。遺伝的要因が含まれるが、アジア人は白人にくらべてインスリン分泌能力が低く、これがアジア人や日本人が糖尿病になりやすい原因となっている。

とくに日本人の糖尿病罹患者は必ずしも肥満でないことが多いと五月女氏はいう。糖尿病の初期症状は自覚症状がほとんどないため、本人が肥満でもない場合はほとんど気づかずに、放っておいてしまうケースが多い。自覚症状や合併症(網膜症、神経障害、動脈硬化、腎症等)が起こってからの治療では時間もかかる。そのため、早期発見が非常に重要と五月女氏は指摘する。

糖尿病の食事療法、バランス食と低炭水化物食

実際に糖尿病の治療をスタートした際、治療には運動療法、食事療法、薬物療法の3つがある。どの患者もこの3つを基本的に進めていく。とくに食事療法は誰にも基本で、「1:バランス食(=脂質制限食)」と「2:低炭水化物食(糖質制限食)」の2つがあると五月女氏。とくにTVや雑誌などのメディアで話題となっているのが2の低炭水化物食で、関連書籍なども売れている。

この低炭水化物食とは一体どのようなものか。炭水化物とは糖質と食物繊維の総称で、糖質が血糖値を上昇させる要因となっている。炭水化物を多く含む食品に穀類、芋類、果物、レンコンやカボチャなどの野菜、大豆以外の豆類、乳製品などがある。

低炭水化物食とは、糖質は制限するがエネルギーは制限しない食事のことである。糖質は一日に50g以上130gまでとする。こうした食事により、血糖値の上昇抑制や体重減少効果が得られる。

ところで、食後の血糖値上昇がなぜいけないのか。急激な血糖値の増加は、心筋梗塞の発症率を高める。食後の急激な血糖値の上昇を抑制すれば、細胞へのダメージは低下し、脂肪もつきにくく、また心筋梗塞のリスクも低減する。

そのため、血糖値を上昇させる糖質が大量に含まれた炭水化物を制限する低炭水化物食は理論的には問題のない血糖値のコントロール方法であると五月女氏。実際、低炭水化物食を実践するとしっかりと体重が減少する人がほとんどであるという。従って、短期間で減量する場合には低炭水化物食は非常に効果的であり、実際に「ミス・ユニバース」を目指すモデルたちも1ヶ月程、低炭水化物食を実践するという。

血糖値上昇、咀嚼や食べる順番に気をつける

ダイエットにおいて最も重要なことは、体重を減少させることのみならず、安全を確保することである。低炭水化物食で我慢をしたり、続かないことで逆に肥満を招いたりするよりも、続けられやすいバランス食で長期間のダイエットを継続したほうが健康的である。バランス食とは主食、主菜、副菜を毎食揃えることである。

また血糖値の上昇を阻止することを意識するのであれば、咀嚼をしっかり行うことと、食べる順番に気をつけるという2点だけで、低炭水化物食と同じくらいの効果が得られるという。

とくに食物繊維の多い野菜類や腹に溜まりやすいスープ類などを先に摂ってから炭水化物を摂ることで血糖値の急激な上昇は防げる。 急激に減量しようとせず、長期的に健康的な体づくりを行うことが重要であることを忘れないでほしいと五月女氏はいう。


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