がん罹患・死亡者数のいずれも減少傾向に
高齢化時代の到来とともに、日本におけるがん罹患・死亡者の増加が懸念されている。しかし1990年代後半が大きな節目で、一方的な増加ともいえないような傾向が見られると片野田氏。戦後、がんの罹患・死亡者数はともに増加傾向にあった。しかし、この統計に年齢調整を加えると1990年〜1995年をピークに、いずれも減少に転じているという。
年齢調整とは、加速度的に進む高齢化の影響を受けないよう「調整」を行うことで、これにより、がん罹患・死亡者数がより正確に分析できるようになった。
この分析方法でみると、全体としてがん罹患・死亡者数のいずれも減少傾向に転じている。日本人に多いとされるがんは、肝臓がん、肺がん及び大腸がんだが、年齢調整による分析では、95年以降がんの死亡者数はいずれも減少傾向に転じているという。
高度成長期の生活習慣の影響が収束
国内における肝臓がんの最大の原因は、C型肝炎ウイルス陽性者が多いことだったが、1930年代生まれをピークに陽性者は減少している。そのため1990年代後半から肝臓がんの死亡率も減少している。
肺がんの主なリスクファクターは喫煙だが、男性の喫煙率は1970年代以降減少傾向にあり、これが1990年代後半から肺がんの死亡率の減少につながっていると考えられている。
大腸がんについては原因が特定されておらず、因果関係が明らかにされてはいないが、1960年代〜1970年代の高度成長期に生じた生活習慣の変化の影響が収束したためと考えられている。
これら3つのがんは、死亡率ばかりか罹患率も減少している。がんのリスクファクターを減らす生活を長期的に続けることが、がん予防になると片野田氏。
男性の前立腺がんと女性の乳がんは増加傾向
一方で、残念ながら増加傾向にあるのが、男性の前立腺がんと女性の乳がん。前立腺がんは早期発見によりかなりの確率で完治が期待できるが、罹患率は2000年以降増加の一途を辿っている。これは検診が普及したことで、がんの発見そのものが増加していることとも関係していると片野田氏。
女性では乳がんの罹患・死亡率ともに増加傾向が続いている。前立腺がん同様、検診受診率の増加の影響も考えられるが、2000年以降で分析すると検診受診率に変化がないため、未だ知られていないリスクファクターがあるか、現代生活のどこかにリスクを拡大させる要因があるのではないかと考えられている。
これまで、国内では、がん全体の6割が胃がん、大腸がん、肝臓がん、肺がん、乳がんで占められている。この割合は今後20年変化がないと考えられる。
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