がんの一次予防と二次予防
〜第143回日本医学会シンポジウム

2012年12月20日(木)、日本医師会館 大講堂で、「がんの一次予防と二次予防」と題して、第143回日本医学会シンポジウムが開催。片野田 耕太氏(国立がん研究センター がん統計研究部がん統計解析室)らが、がんの現状と動向について講演した。

がんの現状と動向
(独)国立がん研究センター がん対策情報センター がん統計研究部がん統計解析室
片野田 耕太

がん罹患・死亡者数のいずれも減少傾向に

高齢化時代の到来とともに、日本におけるがん罹患・死亡者の増加が懸念されている。しかし1990年代後半が大きな節目で、一方的な増加ともいえないような傾向が見られると片野田氏。戦後、がんの罹患・死亡者数はともに増加傾向にあった。しかし、この統計に年齢調整を加えると1990年〜1995年をピークに、いずれも減少に転じているという。

年齢調整とは、加速度的に進む高齢化の影響を受けないよう「調整」を行うことで、これにより、がん罹患・死亡者数がより正確に分析できるようになった。

この分析方法でみると、全体としてがん罹患・死亡者数のいずれも減少傾向に転じている。日本人に多いとされるがんは、肝臓がん、肺がん及び大腸がんだが、年齢調整による分析では、95年以降がんの死亡者数はいずれも減少傾向に転じているという。

高度成長期の生活習慣の影響が収束

国内における肝臓がんの最大の原因は、C型肝炎ウイルス陽性者が多いことだったが、1930年代生まれをピークに陽性者は減少している。そのため1990年代後半から肝臓がんの死亡率も減少している。

肺がんの主なリスクファクターは喫煙だが、男性の喫煙率は1970年代以降減少傾向にあり、これが1990年代後半から肺がんの死亡率の減少につながっていると考えられている。

大腸がんについては原因が特定されておらず、因果関係が明らかにされてはいないが、1960年代〜1970年代の高度成長期に生じた生活習慣の変化の影響が収束したためと考えられている。

これら3つのがんは、死亡率ばかりか罹患率も減少している。がんのリスクファクターを減らす生活を長期的に続けることが、がん予防になると片野田氏。

男性の前立腺がんと女性の乳がんは増加傾向

一方で、残念ながら増加傾向にあるのが、男性の前立腺がんと女性の乳がん。前立腺がんは早期発見によりかなりの確率で完治が期待できるが、罹患率は2000年以降増加の一途を辿っている。これは検診が普及したことで、がんの発見そのものが増加していることとも関係していると片野田氏。

女性では乳がんの罹患・死亡率ともに増加傾向が続いている。前立腺がん同様、検診受診率の増加の影響も考えられるが、2000年以降で分析すると検診受診率に変化がないため、未だ知られていないリスクファクターがあるか、現代生活のどこかにリスクを拡大させる要因があるのではないかと考えられている。

これまで、国内では、がん全体の6割が胃がん、大腸がん、肝臓がん、肺がん、乳がんで占められている。この割合は今後20年変化がないと考えられる。

しかし、がん罹患者数に占める75歳以上の割合は、現在の6割弱から20年後には7割へと増加することが予測される。 生活習慣の変化は、同時に、リスクファクターの変化でもあり得るため、がんのリスクファクターを常に分析し、予防し続けることが大切であるとした。

がん対策における予防と検診の意義
大阪大学大学院医学系研究科 環境医学 祖父江 友孝

がんの死亡率、2005年〜2015年に20%減目標

日本では2006年にがん対策基本法が成立、2007年にがん対策推進基本計画・都道府県がん対策推進計画が策定され、がん対策を総合的・戦略的に推進する方向性が示された。

今年2012年6月は、策定から5年を経たため「基本計画の見直し」が行われ新計画が策定、現在は都道府県別のがん対策推進計画の更新作業が進められている。

この計画の最大の目標は、「がんによる死亡者数を減少させること(具体的には、75歳未満のがんの年間死亡率を2005年〜2015年の間で20%減少させること)」であるという。

20%という数字の根拠は、先の年齢調整を行った分析によると、がんの罹患者数・死亡者数は10%程度自然減少していくことが推測されるため。さらに、タバコ対策、がん検診の促進などにより10%の追加減少を実現できると考えられるからと祖父江氏。

50%以上の検診受診率を目標

この計画を推進するための具体的な方針は、「がんの早期発見」「がんの予防」「がんの研究」の3つの柱で成り立っているという。

がんの早期発見を実現するために、検診受診率を50%にすることが2007年に目標として掲げられている。これは2012年の時点では達成されておらず、引き続き50%以上の検診受診率を目標とするよう、すべての拠点病院や都道府県で求められている。

また、がんは早期発見の場合、生存率が高い。そのため、初期の段階での緩和ケアやQOLを維持した治療を実施することで早期治療の重要性を訴えたいと祖父江氏。初期のがんでも、金銭的負担による苦痛は大きい。従って、安心して療養生活ができ、金銭的苦痛が軽減するよう保険関連会社にも協力を求める必要があるとした。

いずれにせよ、がん死亡者数減少目標を達成するためには予防と検診が必須対策であることは間違いなく、とくになかなか達成できない検診の普及については、各地域と協力した地道な努力が必要であるとした。


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