ポリフェノールのアンチエイジング効果に疑問符
健康長寿食と呼ばれる食品や食習慣がある。日本人は長寿で知られるが、アメリカに居住する日本人の平均寿命はアメリカ人のそれと変わらないことからも、長寿は人種というより食品や食習慣によるところが大きいといえそうだ。
日本人に長寿をもたらす食品として大豆は欠かすことができない。世界的な長寿食というと日本食と地中海食が有名だが、共通成分として大豆や赤ワインに含まれる抗酸化物質のポリフェノールが知られる。
しかしポリフェノールのアンチエイジング効果については、ここ数年疑問視される研究が増えている。早田氏もその一人で、ポリフェノールのアンチエイジング効果には「吸収」の観点から疑問を抱いているという。抗酸化物質の中には、吸収が悪く体内での活性が期待できる量を自然の食材から摂取することは困難と考えられるためだ。
吸収されやすく、効果が期待されている大豆イソフラボンについても、多種多様かつ膨大な研究結果により、女性ホルモン様であることは間違いはないが、直接的なアンチエイジング効果については否定的な見解も多くなってきているという。
サーチュイン遺伝子の活性、長寿をもたらすとはいえない
ポリフェノールについては、とくにレスベラトロールの発見と役割に注目が集まっている。レスベラトロールは長寿遺伝子と呼ばれるサーチュイン遺伝子を活性し、長寿をもたらすというメカニズムが、NHKを中心とした各種メディアで取り上げられ話題となった。
しかしここ数年、レスベラトロールはサーチュイン遺伝子を活性せず、さらにサーチュイン遺伝子の活性そのものも長寿をもたらすとはいえないという研究報告が主流となっている。同時に、複数の研究機関で行われた研究では抗酸化物質と呼ばれる物質が、哺乳類の寿命を延長できる、あるいは出来たという確かな証拠がないことを指摘し始めている。
ポリアミン、健康長寿食の共通成分の核
健康長寿に関わる機能性成分や人体のメカニズムの研究は日進月歩で、常に情報がアップデートされている。中でも早田氏らのグループは健康長寿食の共通の成分の核となるものに「ポリアミン」があることを報告している。ポリアミンは大豆や小魚、魚や貝類及び肉(特に内臓)、魚卵(いくら、たらこ、白子など)などにとくに多く含まれる。
これらはすべて伝統的な日本食の素材だが、とくに納豆と魚卵は高ポリアミン食であると早田氏はいう。健康長寿食として知られる地中海食もポリアミン濃度が高く、日本食や地中海食を常食する人たちには心筋梗塞、脳梗塞、乳がん、大腸がんが非常に少ないことが共通していることが、疫学ベースでも明らかになっているという。
ポリアミン、細胞分裂が盛んな組織に高濃度に存在
食品中に含まれるポリアミンは消化の際に分解されず、腸管から直接吸収されて体内に入るという珍しい成分である。実際にヒトが1日60gの納豆(大きめの1パック)を食べ続けると血中ポリアミン濃度が1週間程で上昇することが明らかとなっている。ポリアミンはすべての細胞に含まれ、すべての細胞内で作られる。ポリアミンは細胞の機能に欠かせない物質で、ポリアミンがないと細胞は増殖できない。
ポリアミンは細胞分裂が盛んな組織に高濃度に存在してるため、魚卵や動物の内臓には豊富に含まれる。また、納豆にも豊富に含まれるが、「醗酵」というプロセスで分裂が盛んに行われるためである。
ポリアミン濃度の高い人は炎症が生じにくい
このポリアミンは細胞分裂に不可欠なだけでなく、炎症を生じにくくさせる役割があることを早田氏らのグループは発見している。炎症とはニキビのようなもので、細胞分裂の失敗や糖分が血管内を傷つけることなどにより生じる。炎症が慢性化し肥大することは、動脈硬化の原因や老化促進の原因にもなる。加齢とともに、私たちの体内組織すべてに炎症が生じやすくなっていくが、これは体内のポリアミン濃度の低下とも関係している。
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