ポリアミンによる健康長寿、老化および発がん抑制 〜日本ポリアミン学会第4回総会
2013年2月6日(水)、浜松町・世界貿易センタービルで、日本ポリアミン学会第4回総会が開催された。「ポリアミンによる大腸がん抑制効果を発見」と題して、早田邦康氏(自治医科大学附属さいたま医療センター)が最新の研究成果を報告した。 

ポリアミンによる健康長寿 老化および発がん抑制
自治医科大学附属さいたま医療センター 早田 邦康

ポリフェノールのアンチエイジング効果に疑問符

健康長寿食と呼ばれる食品や食習慣がある。日本人は長寿で知られるが、アメリカに居住する日本人の平均寿命はアメリカ人のそれと変わらないことからも、長寿は人種というより食品や食習慣によるところが大きいといえそうだ。

日本人に長寿をもたらす食品として大豆は欠かすことができない。世界的な長寿食というと日本食と地中海食が有名だが、共通成分として大豆や赤ワインに含まれる抗酸化物質のポリフェノールが知られる。

しかしポリフェノールのアンチエイジング効果については、ここ数年疑問視される研究が増えている。早田氏もその一人で、ポリフェノールのアンチエイジング効果には「吸収」の観点から疑問を抱いているという。抗酸化物質の中には、吸収が悪く体内での活性が期待できる量を自然の食材から摂取することは困難と考えられるためだ。

吸収されやすく、効果が期待されている大豆イソフラボンについても、多種多様かつ膨大な研究結果により、女性ホルモン様であることは間違いはないが、直接的なアンチエイジング効果については否定的な見解も多くなってきているという。

サーチュイン遺伝子の活性、長寿をもたらすとはいえない

ポリフェノールについては、とくにレスベラトロールの発見と役割に注目が集まっている。レスベラトロールは長寿遺伝子と呼ばれるサーチュイン遺伝子を活性し、長寿をもたらすというメカニズムが、NHKを中心とした各種メディアで取り上げられ話題となった。

しかしここ数年、レスベラトロールはサーチュイン遺伝子を活性せず、さらにサーチュイン遺伝子の活性そのものも長寿をもたらすとはいえないという研究報告が主流となっている。同時に、複数の研究機関で行われた研究では抗酸化物質と呼ばれる物質が、哺乳類の寿命を延長できる、あるいは出来たという確かな証拠がないことを指摘し始めている。

ポリアミン、健康長寿食の共通成分の核

健康長寿に関わる機能性成分や人体のメカニズムの研究は日進月歩で、常に情報がアップデートされている。中でも早田氏らのグループは健康長寿食の共通の成分の核となるものに「ポリアミン」があることを報告している。ポリアミンは大豆や小魚、魚や貝類及び肉(特に内臓)、魚卵(いくら、たらこ、白子など)などにとくに多く含まれる。

これらはすべて伝統的な日本食の素材だが、とくに納豆と魚卵は高ポリアミン食であると早田氏はいう。健康長寿食として知られる地中海食もポリアミン濃度が高く、日本食や地中海食を常食する人たちには心筋梗塞、脳梗塞、乳がん、大腸がんが非常に少ないことが共通していることが、疫学ベースでも明らかになっているという。

ポリアミン、細胞分裂が盛んな組織に高濃度に存在

食品中に含まれるポリアミンは消化の際に分解されず、腸管から直接吸収されて体内に入るという珍しい成分である。実際にヒトが1日60gの納豆(大きめの1パック)を食べ続けると血中ポリアミン濃度が1週間程で上昇することが明らかとなっている。ポリアミンはすべての細胞に含まれ、すべての細胞内で作られる。ポリアミンは細胞の機能に欠かせない物質で、ポリアミンがないと細胞は増殖できない。

ポリアミンは細胞分裂が盛んな組織に高濃度に存在してるため、魚卵や動物の内臓には豊富に含まれる。また、納豆にも豊富に含まれるが、「醗酵」というプロセスで分裂が盛んに行われるためである。

ポリアミン濃度の高い人は炎症が生じにくい

このポリアミンは細胞分裂に不可欠なだけでなく、炎症を生じにくくさせる役割があることを早田氏らのグループは発見している。炎症とはニキビのようなもので、細胞分裂の失敗や糖分が血管内を傷つけることなどにより生じる。炎症が慢性化し肥大することは、動脈硬化の原因や老化促進の原因にもなる。加齢とともに、私たちの体内組織すべてに炎症が生じやすくなっていくが、これは体内のポリアミン濃度の低下とも関係している。

ポリアミンは吸収されやすい成分であり、摂取すればするほど体内のポリアミン濃度が上がっていくことはヒト試験でも確認されている。加齢とともに減少するポリアミンだが、それにより増える炎症を食品摂取でカバーできるのか、早田氏らのグループではポリアミン濃度の高い餌を食べ続けたマウスにどのような変化が起きるか観察を行った。

その結果、ポリアミン濃度の高い餌を食べ続けたマウスの血中ポリアミン濃度は上昇し、体内で炎症がおきにくくなり、臓器の老化も抑制され長寿になったというデータが示された。同様に、ヒトでもポリアミン濃度の高いヒトは炎症がおきにくい体内環境になることが確認されたという。炎症がおきにくいということは、動脈硬化の原因や老化の促進を抑制するということでもある。

「異常メチル化」が発がんの原因

発がんの原因として、加齢に伴う遺伝子修飾(エピジェネティックス)に注目が集まっている。遺伝子修飾とは遺伝子の周りの環境を変化させることで遺伝子の読み取りを調整するメカニズムで、近年、発がんとの関係が明らかにされている。

遺伝子修飾の一つに「メチル化」がある。遺伝子の一部にメチル基がくっつくことにより遺伝子情報が修飾されることだが、このメチル化そのものは決して悪いことではない。しかしこのメチル化が過剰に起きることや、あるいは起きないことが「異常メチル化」といわれ、発がんの原因になることが遺伝子レベルでのがんの発生メカニズムとして明らかになっている。

異常メチル化のメカニズムはまだ明らかでないが、細胞分裂に欠かせないポリアミンが加齢に伴い不足し、この不足が異常メチル化を引き起こしていることが推測されると早田氏はいう。実際、マウスの実験で、ポリアミンが不足した細胞は異常メチル化が生じやすく、そこにポリアミンを経口摂取で添加すると、異常メチル化が抑制されたというデータも早田氏は提示した。

ポリアミンは体内でまさに部品の用な役割を果たしていると早田氏は解説する。材料(栄養)がいくらあっても、部品がなければ何も組み立てられない。ポリアミンは体内で部品の役割を担うが、加齢とともに減少する。しかし、吸収に優れ、経口摂取ができ、年齢に関わらず、摂取すればするだけポリアミンは体内でストックされるという性質がある。

母乳には大量のポリアミンが含まれている

また、ポリアミン濃度が高まってもサーチュイン遺伝子は活性しない、つまり関与しないことが推測される結果も早田氏は提示した。ポリアミンはサーチュイン遺伝子とは関係のないメカニズムで長寿に関与していると早田氏はいう。

体を作る材料(栄養)も大事だが、部品がなければ材料を組み立てることができない。赤ちゃんはミルクだけで体が大きくなるが、それは材料よりも部品が大量にある状態で生まれてくるためである。限られた材料(栄養)でもいろいろなものを組み立てて体を大きくすることができる。ちなみに母乳にも赤ちゃんの細胞にも大量のポリアミンが含まれている。

ポリアミン、醗酵や熟成過程で大量に産生

ポリアミンは成長期までは自らの細胞内で作られるが、それ以降は次第に作られなくなっていく。自分の細胞でポリアミンが作られなくなった時から老化や病気が始まるといっても良い。ポリアミンさえ高濃度で存在していれば細胞は分裂を繰り返し、炎症は起こりにくく、また炎症が起きても元通りに修復しようとする自然治癒力が発揮される。

ちなみに地中海食はポリアミンを多く含む魚介が多い。また、チーズも牛乳の段階ではあまり含まれていないが、醗酵や熟成でポリアミンが大量に含まれるようになる。他にも、アーモンドやナッツ類にも大量に含まれる。日本食ではサザエの肝の部分にダントツで多いという。

健康長寿食として個々の栄養素や機能性ばかりに注目が集まるが、ふだんの食事でポリアミンがどれだけ高濃度で摂取されているのかにも注目すべきだと早田氏はいう。ちなみに最もポリアミンが含まれない食品はカップラーメンや砂糖、小麦を使った菓子類であるという。


Copyright(C)JAFRA. All rights reserved.