補完代替医療の側面から見た健康食品の将来像 〜第28回健康食品フォーラム
2013年2月7日(木)、瀬尾ホールで、一般財団法人 医療経済研究・社会保険福祉協会主催の「第28回 健康食品フォーラム 補完代替医療の側面から見た健康食品の将来像〜安全を基本として〜」が開催された。補完代替医療へのニーズは高いが、はたして安全・安心といえる状態にあるのか。今回はハーブ、生薬、医療の専門家がそれぞれ、現在抱えている健康食品とのつき合い方とその問題について講演した。

ハーブをめぐる欧米及びISOの動向
一般社団法人 日本健康食品規格協会 副理事長 池田 秀子

ハーブを取り巻く状況、ここ20年ほどで大きな変化

ハーブはお茶や飴、サプリメントなど身近で、とくに若い女性やナチュラル志向の人々には人気だ。医薬品と比べると、なんとなく体に良い、穏やかな効果・効能を得られるといったイメージが定着している。

ハーブを使用した伝統的な民間療法は、途上国では80%の人々の医療手段にもなっている。先進諸国においても、伝統医療や民間療法に対する信頼は厚い。近年は補完代替医療という考え方も支持され、ハーブの存在意義がますます高まっている。

そうした中で、ハーブを取り巻く状況はここ20年ほどで大きな変化が起こっていると池田氏はいう。ハーブは医薬品のみならずサプリメントとして広く利用されるようになり、同時により明確な有効性・安全性、品質の確保が求められるようになってきている。そうしたことから、ヨーロッパの多くの国々が枠組みや制度作りに力を注いできている。

EFSAのハーブの安全性確保要求高まると予測

EUでは、「ハーブ医薬品」の範囲内でハーブを流通・促進させることを視野に、各国の制度を統合・刷新し、トラディショナルハーブ医薬品の認証に特別措置を設けた規制を2004年よりスタートさせている。

この規制は7年間の猶予期間が設けられ、2011年5月1日から完全実施されたが、これにより欧州市場から撤退を余儀なくされたハーブ製品も多くあり、それらの製品を輸出していた国にとっては深刻な事態となっている。とくに中国では漢方が大打撃を受けた。それがISOにおけるハーブ医薬品の国際標準化のきっかけともなったという。

ハーブはEUではフードサプリメントの主要な素材としても認められているが、まさにこれからEFSA(欧州食品安全機関)によるハーブのヘルスクレームの評価が始まろうとしている。

EFSAはサプリメントの素材として利用されるハーブやその成分の安全性評価に対する考えを2009年に示している。ヘルスクレームの評価に伴い、今後はハーブの安全性確保に対する要求もさらに高まると予測されるという。

FDA食品安全近代化法、多くの義務と責任を課す

一方、アメリカではハーブは1994年にDSHEA(栄養補助食品健康教育法)により、ダイエタリーサプリメントの成分として位置付けられている。DSHEAではサプリメントに対し、有効性・安全性・品質については通常の食品とは異なり、より積極的な科学的アプローチやエビデンスを要求している。

安全性については新規サプリメント成分のガイドラインが公表され、品質についてはサプリメント規制(CGMO)が施行され、とくにハーブ関連企業は対応に追われている。さらに2011年4月1日に施行されたFDA食品安全近代化法(食品安全強化法)では、サプリメントを含む食品の安全性確保のために、事業者もFDAも多くの義務と責任を課されており、より厳しい基準に苦しめられているという。

ハーブのように本来何らかの生理作用を有するものを、どのようなカテゴリーでどのように規制し、より有効に利用することができるのか、元来ハーブを利用してきた欧米でさえ、改めて多くの議論を呼ぶ事態が起きつつあるようだ。

日本においてもそうした海外の状況を参考にしながら、ハーブを用いた製品についてより良い制度化がすみやかになされることが急務だと池田氏はいう。とくにハーブにおけるISOは数年後にはガイドラインが固まることが予測されている。ISOの最大の要求事項は品質と安全性であることに間違いなく、日本でもそのような商品と制度化を強く意識しなければ、ジャパニーズハーブを海外に輸出することも難しいであろうとまとめた。

医食同源の視点から健康食品の開発
京都薬科大学生薬学分野 教授 吉川 雅之

食物の生体調整機能による薬効を期待

「食品による健康維持」という考え方が少しずつ定着しているが、食物に生体調整機能といった薬効を期待する考え方は東洋医学には元々あるものであった。アーユルヴェーダや中医学では、病気にならないことや予防こそが名医の証であるとされ、医師は「食医」とも呼ばれていた。医師は食事指導を主とし、食事による病気予防や健康維持および未病治療が行われていた。

実際、明時代の薬物書『本草編目』をはじめ、インドのアーユルヴェーダ医学の『チャラカサンヒター』や古代ギリシヤの医師ディオスコリデスの著した『マテリアメディカ』などの医薬学書には、現在では食品として分類される生薬が多数記載されている。今日の『中薬大辞典』や『日本薬局方』に記載されている天然医薬品や漢方剤に配剤されている生薬のなかにも、果物や甘味、香辛料として食用で用いられているものが数多く認められる。

ショウガなど、身近に薬用食品

例えば「ショウガ湯を飲むと温まる」など、日常の飲食物の多くに興味深い薬効が多数伝承されていて、これらの食品もかつて薬として使用されていた歴史があることが容易に推測される。このような薬効が期待できる食品を「薬用食品」と呼ぶと古川氏はいう。

「薬用食品」の成分には、合成医薬品のような作用や作用機序が単純化された薬効は非常に少ないと考えられる。副作用の心配がなく、病気予防や健康維持、また治癒促進や再発防止などに役立ち、多方面で穏やかな効果が期待されることが利点であると古川氏。さらにその原料が栽培作物であれば、多くは生薬に比べ安価かつ大量入手が容易であるとともに、天然医薬品資源としての魅力にも富む。

吉川氏は薬食同源の視点から、これまでさまざまな「薬用食品」に抗がん、抗炎症、抗潰瘍、肝保護、免疫増強などの薬効を見い出し、それらの活性成分を明らかにしてきた。その一貫として、メタボリックシンドロームの改善に有効な物質を「薬用食品」に求めて研究を行い、タラノメやサトウダイコンなどに含まれるサポニン類、セイジやアーティチョークに含まれるジテルペン及びサラキア属植物に含まれるサラシノール、ネオコタナノールなどの成分に、糖やオリーブ油摂取後の血糖値及び中性脂肪の上昇抑制作用が見い出せるというデータを報告した。

薬用食品、現在の法規制では医薬品にはならず

最近は、メタボリックシンドロームの予防作用だけでなく美白作用などが認められる、新たな3種の「薬用食品」に注目し研究を進めているという。島根県のボテボテ茶として食用されてきた茶花には、抗肥満作用などを示すアルシ化サポニン類が豊富に含まれている。また美白効果と同時に抗糖尿病作用が認められたのが蓮花で、これにはアルカロイド成分が豊富に含まれているという。

また、日本薬局方にも掲載され、矯味剤や口腔清涼剤などに用いられる甘茶には抗糖尿病活性や抗アレルギー活性を示すジヒドロイソマクリン類やスチルベン類が含まれていることが明らかとなったという。

しかし、「薬用食品」のメカニズムがいくら明らかになっても、現在の法規制のもとでは医薬品にはなり得ない。まずは一般の消費者が食事の重要性を意識し、食物に秘められた生体調整機能を少しでも正しく知ることが大切であるとまとめた。

臨床現場における健康食品の応用
金沢大学大学院医薬保健学総合研究科 鈴木 信孝

健康食品、劣悪なものもあり玉石混合

健康食品は補完代替医療においても最も重要なものの一つであり、すべての医療従事者は健康食品の基礎知識を持つべきであると鈴木氏は考えている。未病という視点が臨床現場に浸透することにより、健康食品は今よりも安全性・品質ともにグレードが上がり、多くの人々の健康に役立つことは間違いないであろう。

しかし、現在の健康食品といえば「安全なのか?」「薬と一緒に摂っても平気なのか?」「有効成分は本当に入っているのか?」「同一成分を毎日摂取してもいいのか?」という不安のほうが先立ち、優れた作用を持つ商品も多くあるものの、中には劣悪なものもあり、まさに玉石混合で、医師にも患者にも不安が広がる一方であると鈴木氏は指摘する。

医師以上に、一般人のほうが健康食品に詳しい

そもそも医師や医療従事者は健康食品に疾病の治療効果を期待することはなく、未病よりも治療を重視している。しかし健康食品やその他の補完代替医療が、患者や病状のQOL(生活・生命の質、人生の価値観)を向上させる作用があることを認めざるを得ないであろう。近年、さまざまな疾患に対するQOLの向上の研究が進められているが、健康食品の臨床研究もされるべきと鈴木氏はいう。

がん治療を行う45%の人が補完代替医療を利用、うち90%以上の人が医師に知らせることなく健康食品を利用している。重篤な患者のQOLの向上は必要で、「藁にもすがりたい思い」「なんとか助けたい家族の思い」からこのような結果になっている。

最近は、一般の人々のほうが健康食品に詳しいと鈴木氏は感じているという。患者は医師に期待していないのか、食事内容や摂取している健康食品を報告することを嫌がる傾向にある。医師も間違った食事指導や健康食品の指導はできない。しかしこれだけ健康食品が普及している以上、医師にも健康食品についての知識が必要となってくる。

医療現場に栄養学や補完代替医療の知識が不足

そもそも医療現場に食品の知識が欠落していることが問題であると鈴木氏はいう。そもそも医学部では栄養学を勉強しない。アロマテラピーや鍼灸、足裏療法、ハーブ療法、運動療法、音楽療法などの効果を医者がもっと積極的に勉強すべきであろう。

しかしどのように勉強してもらえばいいのか?これが最大の課題であるという。栄養学だけでない。補完代替医療について学ぶ機会も医学部にはない。興味を持った医師が各自勉強すればいいということになるが、一番の問題はやはり医療制度にあると鈴木氏は指摘する。

現行の医療制度では、病気になる前の指導について、いわゆる「指導料」として医療点数がつかない。つまり予防方法をいくら教えても医師にはまったく金にならないシステムになっている。医師は病気を診るか、病気を見つけるかでしか金にならない。金になるのは検査と投薬である。

医療現場に「食医」の概念が重要

近年、少しずつだが医師も補完代替医療の重要性に気づき、栄養学や運動療法、アロマテラピーやカウンセリングなどについても学びたいと思っているようだ。とはいえ、未病の人の生活指導にも点数がもらえるようでなければ、医師はこれらを勉強することは決してないであろうと鈴木氏はいう。

病気になった人を見るのは医師だが、生活の指導をできる人が欠落していることが問題のすべてではないか。今後は医療現場には、「食医」の概念が重要となってくる。そうした意味では、中国やインドはオーダーメイド医療を既に実践しており、見習うべき点が多々ある。日本の医療もオーダーメイドが求められている。医療費削減のためにも、制度の根本的見直しが必要であると鈴木氏は訴えた。


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