「食べ物を摂取したときに、生体がどのように変化するのか」を研究する学問
日本で始まった機能性食品研究は、2000年以降、関連するいくつかの新たな学問を生み出した。例えば味覚サイエンス。味覚は味を知覚するだけでなく食欲の亢進や減退にも関わることが分かっている。
また、胎児期の栄養は成長後の生活習慣病のリスクに影響を及ぼすだけでなく、それが孫の世代にまで影響を与えることや、栄養の記憶が遺伝子に刻まれることなどが明らになりつつある。
「ニュートリゲノミクス」とは「栄養(ニュートリション)」と「解析法(ゲノミクス)」を組み合わせた造語で、「食べ物を摂取したときに、生体がどのように変化するのか」を研究する新たな学問である。聞き慣れない言葉ではあるが、実は私たちの生活にすっかり浸透している「機能性食品」から始まったものだという。
食品成分の生理的機能、日本から研究が始まる
機能性食品、つまり食品成分の持つ生理的機能についての研究は、今から30年ほど前に日本からスタートした。研究の最大の特徴は食品の栄養機能を「栄養的側面の一次機能」と「嗜好的側面(美味しさ)の二次機能」、そして新たな「生理的側面の三次機能」として明確に定義付けたことにある。
この「食品の三次機能の研究」は1984年頃からスタートする。健康志向ブームとリンクし、1991年には特定保健用食品制度が創設。1993年には第一号となるいわゆるトクホ商品が誕生する。そして2000年頃から「機能性食品研究」という食品科学の大きな潮流が世界へ波及した。
現在、国内ではトクホ商品がすでに1,000点を超えている。また、世界では「function food」という言葉がスタンダードに使われるようになっている。もちろん現在も日本は世界をリードする形で研究を進めている。
食品を摂取した時の体内で起こる変化を解析
機能性食品研究は、当初、食品中の成分が「どのような効果を持つのか」にばかり注目が集まっていた。しかし、さまざまな機能性成分や効果が明らかになるにつれ、「なぜそのような効果が現れるのか」という点に研究者達の興味が徐々に移行していった。そこでニュートリゲノミクスの登場となった。
食品を摂取したとき、生体の反応や応答は、遺伝子の使われ方の変化として生じる。それを網羅的に解析することで、「その時、生体に何が起こったのか?」を明らかにする研究、それこそがニュートリゲノミクスである。
「医食同源」は日本人が作った造語
そもそも機能性食品の研究の根底には「医食同源」という考え方がある。「医食同源」という言葉は中国伝来のような印象があるが、実は日本人が「薬食同源」という言葉をより分かりやすくするために作った造語である。
このような考え方はもともと日本にもあった。例えば江戸時代の日本の観相家である水野南北(1976〜1834年)は自著で「人間の生命の根本は食である。たとえどんなに良い薬を飲んだとしても、食事が正しくなければ生命を保つことができない。真の良薬は食である」と書き残している。
彼自身、一年間粗食を続けたことで運気が上向き、「食事を正しく摂ることによって健康になる」「食は命だ」という境地に達したと記している。
サーチュイン遺伝子の発現説に対する反論も
彼の考えは、現在世界的なトピックである「カロリス=カロリー制限」の考えとも共通している。ただ、「普段の食事の70%程度に制限することで寿命が伸びる」という理論がカロリスであるが、これについては未だ賛否両論で決着がついていない。
カロリスにより明らかに見た目の若さに差があるサルの写真が世間を賑わしたが、それがどのような遺伝子メカニズムで起こったのかは未だ解明されていない。当初はサーチュイン遺伝子の発現説が主流だったが、現在これに反論が起こっている。
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