どんな食品には必ずリスクが存在する
〜食品安全委員会リスクアナリシス講座

2013年7月24日(水)、食品安全委員会事務局で、「食品を科学する」連続講座の第1回目が開催された。今回は、食品のリスク分析について取り上げる。

食べ物の基礎知識〜食品の安全と消費者の信頼をつなぐもの
食品安全委員会 委員 村田 容常

「食べる」ということは必ずリスクが伴う

人はなぜ食べるのか。食べなければ「食品の安全」を考える必要も、リスクとつき合う必要もない。「食べる」ことは「異物を取り入れる」ことであり、それには必ずリスクが伴う。

そもそも人間は、生物学的には「従属栄養生物」に分類される。他の生物を食べなければ生きてはいけない生物というカテゴリーだ。一方、植物や光合成ができる細菌類は「独立栄養生物」といわれ、太陽光を摂取し、それをエネルギーに変換することができる。

私たち人間は太陽光で体内に必要なエネルギーを作れないため、他の生物から有機物を摂取しなければ生きていけない。そのため人は食べなければ存続できないが、食べると、何らかのリスクがつきまとう。だが、当然それは避けられないことと村田氏はいう。

「食品」の4つの要素

我々が摂取する「食品」には4つの要素がある。「栄養」、「嗜好性」、「生体調節機能」、そして「安全性」である。「食品」は採取・加工される場所さえ安全であればよいということではない。「農場から食卓まで」という長い工程のあらゆる段階においてできる限り安全でなければならないと村田氏は指摘する。 

食べ物が十分に足りている地域は世界的にみても多くはない。日本でもわずか50年前までは食料が十分とはいえなかった。農薬や化学肥料も100年前にはほとんどなく、常に害虫や天候による凶作、飢餓との戦いが長く続いていた。人類の歴史は飢餓との戦いとも言い換えられる。

植物は多種多様な化学物質を備え動物に対抗

しかし、今の日本で深刻な冷害や不作が起こったとしても、餓死者がでることはまず考えられない。それは伝統的知恵だけでなく、肥料、農薬、食品添加物、遺伝子組み替えなどの科学技術やあらゆる手段によって食糧供給の維持継続と安全が支えられているからである。

しかしこれだけ多くの技術や物質が「食品」に関与すれば、それだけリスクは増える。それぞれの技術や物質、工程における安全性の確認が常に求められる。

「大豆は良い食品か?」と聞かれれば、ほとんどの人がイエスと答えるであろう。しかし大豆を生で食べると健康被害が生じることはあまり知られていない。本来、植物は動物に食べられるために生きているわけではない。植物は多種多様な化学物質を有し、動物に対抗する機能を備えている。

食品の安全に絶対はない

つまり加工しなければ健康被害をおこす野菜や植物も多いということである。大豆にもトリプシンインヒビター(消化不良をおこす)やレクチン(赤血球凝集)といった人体に悪影響を及ぼす化学物質が含まれるが、幸いなことにこれらは過熱すれば消滅する。

しかし大豆からできる豆腐についてはどうであろう。大豆は腐りにくい食品だが、豆腐になった途端、腐りやすくなるというリスクを負う。大豆は過熱しなければ安全でない一方で、加工された豆腐になるとその分リスクが高まる。

豆腐は「腐りやすい」ことから微生物学的には安全性が低い食品だが、有害化学物質は失活しているため化学的には安全性は高い。つまりこの大豆の例から見ても「食品の安全に絶対はない」ということがいえる、と村田氏は解説する。

全ての食べ物は化学物質からできている

食品添加物にはリスクもあるが、一方で、加工製造や食中毒予防のため、あるいは栄養素強化のために必要不可欠である。食品を加工しなければいいという意見もあるが、食品をより食べやすくするため、消化性向上のため、毒性を減らすため、貯蔵のため、美味しくたべるため、利便性のためなど、やはり食品の加工は必要不可欠である。

化学物質といえば聞こえが悪いが、化学物質には天然物と人工合成物がある。例えば醤油も大豆や小麦の化学物質が変化してできる調味料である。「全ての食べ物は化学物質からできている」ことを忘れてはいけないと村田氏はいう。

食品が安全かどうかは「ハザード(危害要因)」「リスク」「リスク分析」の3点から考慮される。「ハザード」とは人の健康に悪影響を及ぼす可能性のある食品中の物質や状態のことを指し、ハザードは科学技術の進歩によりどんどん発見されている。

毒か毒でないかは量で決まる

「リスク」とはハザードの結果生じる悪影響の可能性とその程度で、確率論になるそうだ。ハザードが人の健康に悪影響を及ぼす可能性がある場合、その発生を防止しリスクを低減させるためにリスク評価、リスク管理、リスクコミュニケーションを行うことが「リスク分析」であるという。

どんなものでも毒か否かは結局のところ量で決まる。水でも一気に大量に飲めば毒性反応が出る。ジャガイモは一般的には安全な食品であり、重要な食資源ではあるが、ジャガイモの中にはソラニンという毒物が含まれている。これは芽に多いとされるが、実は皮や中身にも含まれている。しかもソラニンは過熱でも減少しない。ジャガイモを食べることはなんの問題もないが、ジャガイモばかりを大量に食べると健康被害が生じることもある。

「リスクとベネフィット」の間で妥当な判断を

いずれにせよ、食べ物を摂取することは何らかのリスクが伴うことであり、ゼロリスクはありえないことをまずは理解してほしいと村田氏。一つのリスクを減らせば、別のリスクが増すため「リスクとベネフィット」の間で妥当な判断をする努力も必要であるという。

科学的な考え方を身につける努力や教育も必要で、メディアの情報を鵜呑みにしない、絶対視しないことも必要である。○×で考えるのではなく中立的に考えられるよう消費者は賢くならなければいけないとした。


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