農薬が危険というイメージ
農薬は消費者から非常にネガティブなイメージを持たれているが、私たちの食の安全を確保するためには不可欠な存在であると三森氏。昆虫や寄生虫、雑草やカビといった食品に有害な影響を与える生物が優位になり農作物の成育を阻害すれば、農作物の収穫は減少し、人間は飢えと戦わなければならず、安定した食糧の供給が保たれなくなる。
そうなると、経済を含めさまざまな場所に弊害が起こる。農薬が登場したことで、農業や経済が安定し人類は飢えからも解放され、私たち特に日本人は豊かな食生活を享受することができている。何より現在日本で使用されている農薬がいかに安全で管理されているものか、消費者には理解してほしいと訴える。
農薬が危険というイメージを持たれているが、確かにかつて農薬による健康被害が生じた歴史がある。しかし、そうした健康被害を与える農薬は現在使用登録が失効しているという。例えば有機塩素剤(DDTやBHC)系と呼ばれる農薬は、即効性が高く安価であることから世界中で大量に使用され、特に戦後の日本でも殺虫剤として使用されていた。
1980年代に国際的な農薬の安全性評価手法が確立
とはいえ、有機塩素剤は土壌に蓄積しやすく、しかも土壌で分解されにくく、環境中に蓄積するといったデメリットもある。そのため体内の特に脂肪組織(主に肝臓)に蓄積しやすいことから、肝毒性や肝発がん性、催奇形性が指摘され、現在では使用が禁じられている。他にもベトナム戦争で枯葉剤として使用された2,3,5-トリクロロフェノキシ酢酸は奇形児が誘発されることや肝がんの発現が報告され、現在は使用が禁止されている。
いずれも開発された当初はそのような副作用が発生することなどは想定外で、開発された当初はあくまで「農薬として効果があればよい」という認識が強く、また「ヒトに対する毒性の試験法」に対する認識や試験法そのものが未熟であったことが問題であった。
しかしこれらの事例を受けて、1980年代には国際的な農薬の安全性評価手法が確立されることとなる。つまり農薬が登場したのも、ヒトへの毒性が考慮されるようになったのも戦後の話であり、この分野についての研究や開発も現在進行形である部分が少なくないと三森氏は解説。
農薬が開発されるプロセス
それでは使用が認められる農薬はどのようなプロセスで開発され、また摂取許容量はどのようなプロセスで定められるのか。
まずは農薬の開発だが、非常に複雑なプロセスを経る。一般的に毒性試験データは6項目から成る。ちなみに毒性試験はおもにラットやマウス、ウサギで行われる。
1つ目が単回投与毒性試験。1回投与した場合の影響だ。
2つ目に反復投与毒性試験。餌のなかに被験農薬を混入した餌を繰り返し投与することで、有害作用の誘発を検査する。そして確実に毒性が発現される投与量、毒性が発現する最小投与量を導き出し、無毒性量(NOAEL)を算出する。
3つ目に発生毒性試験。農薬が先天異常の原因になるか否かを検査する。妊娠0日から餌のなかに被験農薬を混入した餌を投与し胎仔への影響を調べる。そして奇形発生率の検査を行い、無毒性量(NOAEL)を算出する。
4つ目に生殖毒性試験。この試験では二世代に渡り、生殖過程全般(交配、着床、器官形成、胎仔期、授乳期)に対する影響を検査し、親(第一世代)と子(第二世代)と孫(第三世代)への影響及び親と子の病理検査を行い、無毒性量(NOAEL)を算出する。
5つ目が遺伝毒性試験。これは子孫への影響ではなく、遺伝子や染色体を損傷したり、遺伝子や染色体の突然変異や染色体異常を誘発するか否かを調査する検査であり、これが陽性になった場合、一発でその農薬の開発は中止されるほど重要な試験である。
そして最後6つ目の試験が発がん性試験であり、農薬を長期間投与することで体内に腫瘍が発生するか否かを検査する試験である。これも陽性になった場合は開発が即中止され、陰性であった場合のみ他の試験や開発が継続となる。
新規の農薬が登録されることは非常に難しい
他にも農薬登録申請時には、急性毒性試験結果、中長期的毒性試験結果、代謝試験、一般薬理試験、環境中への影響の評価、残留試験などが必要であり非常に厳重に管理されており、今では新規の農薬が登録されることは非常に難しいという。
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