食の「安全・安心」&「機能と健康」の最前線
〜 東京農大 食品安全健康学科開設記念シンポ

2013年10月12日(土)、東京丸ビルホールで、東京農業大学 食品安全健康学科開設記念シンポジウム「これからの「食」をリードする「安全・安心」&「機能と健康」の最前線」が開催された。次世代を担う若者たちが食のサイエンスについてより深く学び、食の未来を明るいものへと導くよう、東京農業大学では来年春に「食品安全健康学科」を開設する。当日、4人の専門家の講演から2講演を取り上げる。


微量栄養素が健康に重要な役割

清水 誠氏(東京大学大学院 農学生命科学研究科 食の安全研究センター特任教授)は「食品機能性研究の過去・現在・未来」と題して講演した。 食品の機能性は一般的にプラスで語られることが多いが、安全面を考慮すると実はマイナス面も含んでいることを忘れてはならないと清水氏。

食品の「機能性」が語られるようになったのは30年ほど前からで、それまで食品は体を作る「五大栄養素」でしか捉えられてなかったという。

その後、さまざまな分野の研究者たちが食品の機能性を見い出し、食品の「一次機能」だけでなく、嗜好性・美味しさの「二次機能」、体調を調整し疾病を予防する「三次機能」が定義されるようになった。

三次機能の役割を果たす食品中の成分は微量だが、これこそが我々の健康にとって重要な役割を果たすのではないか考えられるようになった。この三次機能に注目が集まり、1993年にトクホ商品が誕生した。

トクホ、日本が世界に先駆けた機能性食品

現在トクホには8つの機能性を示す商品がある。
1.整腸機能(便秘、下痢への作用)、2.歯や歯茎の健康促進(虫歯の予防)、3.ミネラル吸収促進(骨、歯を丈夫にする)、4.骨の健康促進(骨粗鬆症予防)、5.血圧調整機能、6.血糖値調整機能、7.コレステロール調整機能、8.中性脂肪の抑制、である。5〜8はメタボ対策に向けた商品で、トクホ市場は2007年に7,000億円にまで拡大、現在は停滞気味だが、それでも5,000億円以上の市場を維持している。

日本は世界に先駆け「食と医学の境界線」に踏み込んで商品化し、今や国民の間でも食品の機能性という考え方が定着していると清水氏。 トクホの影響を受け、世界各国でファンクショナルフード(機能性食品)の開発が進められているが、錠剤やサプリメントの形状が多く、日本のトクホのようにお茶や納豆やお菓子のような形で「一次機能、二次機能、三次機能」のすべてをカバーした優良な商品は少ない。

トクホ制度のあり方が指摘

ただし、どれほど優れたトクホが開発されても、管理や表示制度の策定が後回しであったため、いくつもの疑問点や制度のあり方が指摘されている。

また、機能性成分が本当に効果的なのか、どのようなメカニズムなのか、いわゆる「エビデンス」の部分に注目が集まり、研究者だけでなく企業や国をも巻き込んだ、制度の見直しが叫ばれている。

現在、トクホは1,000アイテム以上ある。トクホの最大の特徴は「科学的証拠に裏付けられている」という点。トクホの開発には動物実験やヒト試験による効果・効能の証明、作用メカニズムの解明、常に一定の品質を維持し製造するための技術などが必要となる。

新たな健康増進作用を持つトクホの登場が期待

トクホは現在認可されている8つの機能に加え、アレルギーの抑制や感染予防、肌の健康促進や疲労の軽減、関節炎の予防など新しい健康増進作用を持つものの登場が期待されている。

2011年に消費者庁が行った「サプリメントの成分に関する機能評価プロジェクト」では、これまでエビデンスに乏しいといわれてきたサプリメント成分にもある程度の効果が認められるのではないかという結果が出された。  

私たちが毎日摂取する食品がどのように身体に影響を与えるのかを科学的に評価する分野の学問や研究はまだ始まったばかりといえるが、この分野は社会的にとても重要であると清水氏。今後ますます発展することが期待されるとした。

食品の可食化で寿命が延長

一色 賢司氏(北海道大学大学院 水産科学研究院教授)は「食品安全の過去・現在・未来」と題して講演した。 我々人類はこれまでありとあらゆる生物を食してきた。食べられる物・食べられない物を分類し、改良し、不都合な部分は減らしたり加工し、可食できるようにしてきたと一色氏。

米や豆もそのまま食べると消化不良を起こす。しかし、加熱調理により美味しく安全に食べられるようになった。結果、人類は72億人にまで増え、寿命も驚くほど伸びた。

かつては年代に応じた食事を摂っていた

  かつての日本の家庭は大家族で、お年寄りから乳幼児まで共に生活をし、食事は年代に応じたものが適宜用意されていた。しかし現代はそれが難しくなり、子どもが大人の食べ物を口にして事故や健康被害が起こったり、大人が咀嚼の機会を奪われて健康を害したりしている。

フードチェーンを学ぶことが重要

食の安全を考えるうえで、フードチェーン(食糧供給調達工程)を学ぶことが重要である。例えば、私たちがスーパーや居酒屋で手軽に購入することのできる冷凍たこ焼きは、アフリカのタコ、オーストラリアの小麦粉が中国に集められ、中国の女性たちによって作られているものが多い。

日本のフードチェーンは世界中に張り巡らされているため、その存在や複雑さが見えなくなっている。お金を払うだけで食糧が調達できるため、人間と食糧の関係性を理解できなくなっていることが問題となっている。

フードチェーンにおいては、流通、加工、販売、消費のすべての現場で「良い仕事」のバトンタッチがおこなわれなければ安全は確保されない。しかしすべての現場は変わりやすく、不安定なものであることを消費者は心に留めておく必要があると一色氏。

食は常に不安定要素、不確定要素と共にある

食品を構成する要素は、気候・天候・環境・食べる人の感受性・フードシステム・食べる人の嗜好性・食品にある微生物など、すべて変化するものばかりで、食品が安定して存在するということは非常に難しい。

食は常に不安定要素、不確定要素と共にあり、食生活をゼロリスクで語ることは不可能である。何より食を少しでも安定させたいのであれば、食糧が存在する環境を安定させなければならない。食糧がどのような過程を経て自分の目の前にあるのか、いま一度思いめぐらすだけでも食の安全に貢献する大きな一歩になるとした。


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