中国の農業生産高、10年で3倍
河原氏は、「中国の食品安全に関する現状と問題点」と題して講演した。中国の経済成長が目覚ましいが、その中には農業生産高の成長も含まれている。2003年以降、農業生産高(農林漁業、畜牧業、林業、農業)はわずか10年で3倍にも成長している。
また、食品工業(食品加工・製造、飲料製造、タバコ加工)も伸びており、すでに2003年で1兆元を突破しているが、2012年にはその8倍以上となり、まもなく9兆元を突破しようとしているという。
これは中国国内で多種多様な食品の消費量が増えていることを示している。同時に生産の場面でも、かつては生産されていなかった新しい食品の生産が増えていることを示しているという。
酒類の消費量、アメリカの2倍に
中国人の食生活はここ10年で大きく変化しており、欧米化が進んでいるともいわれる。これは生産面でも変化が起こっており、かつて中国ではあまり生産されなかった乳製品、ワイン、缶詰、菓子類、油類などの中国国内での製造が急増している。とくに酒類の消費はすでにアメリカの消費量の2倍を突破しているという。
しかし食品の生産量が増えているにも関わらず、食品企業の80%がいわゆる零細で、管理が行き届いていないのが現状だという。つまり不衛生であったり、安全面の配慮において不十分である企業が多いということだ。このことは私たち日本人の食の安全とも深く関わっている。
「疑う」ことをベースに商売
中国において各食品企業の衛生面や安全面のレベルがなかなか上がらないのにはいくつか理由がある。その最大の原因は文化の違いや考え方の違いがあることである。
例えば中国には「農協」が存在しない。日本人は「信用」をベースに商売をするが、中国人は「疑う」ことをベースにするため、信用取引もつけも存在しない。基本的に現金による直取引しか好まず、農協の発想は難しいという。
都市部の川の95%は重度の汚染
食の安全に関する国民の意識も少しずつ高まってはいるが、まだまだ意識が高いとはいえず、例えば中国の河川水の70%は工場廃水等によって重度の汚染が広がっており、そのうちの40%は基本的には使用できない状態だという。
また都市部を流れる川の95%は重度に汚染されている。そのため食品の事件も頻繁に起こっているが、関わる企業は利益を追求することが優先で汚染することや汚染されたものを使用することに対する罪悪感はあまりなく、どちらかというと公然とやっているため、消費者のほうも意識が低いままという。
毛髪で作られる醤油
例えば中国でも醤油が近年人気の調味料となっているが、中国では大豆を醗酵させるのではなく、理髪店から集めた人毛からアミノ酸を抽出しそれを醤油の材料とすることで大豆などの原料を減らし製造するケースがあるという。
現在この製法は中国政府によって禁止されているが、毛髪で作られた醤油でも形式的には醸造醤油の品質検査基準に達してしまうため、闇で取引されていることが少なくないという。
人毛にはヒ素、鉛といった有害物質が含まれることや不衛生であることなどが問題だが中国ではそれほどの話題にはならないという。他にもメラミン混入粉ミルク、注水肉、肉赤身化剤、ゴミ油などは甚大な健康被害を引き起こしニュースとなったが、これらも中国国内ではそれほど大きな社会問題にはならなかったという。
2000年に入って徐々に食品の安全制度が整う
しかし2000年代になって、中国でも徐々にではあるが食品の安全制度が整ってきた。特に2002年に日本が中国産ほうれん草の輸入を禁止したことは大きなきっかけになったという。
しかし中国の食品安全政策はそもそも「食品産業の国際競争力の強化」を最大の目的としており、「国民の健康を守る」ことを最優先していない。輸出拡大のための安全政策のため、各国が厳しく管理することを要求すればそれに応えはするが、自ら積極的に安全や衛生に取り組もうという姿勢があまりないという。
例えば中国にも「食品安全委員会」が設置されている。名称こそ日本と同じだが、日本のそれは諮問機関であると同時にリスク管理機関でもある。しかし、中国では「指導機関・統一機関」であり、日本とはまるで性格が異なる。
つまり食の安全や企業のモラル維持のためには、行政と企業の分離、適正な検査と監査、適正な社会的監視や報道が求められるが、中国ではそれが難しいという背景がある。
輸入業者に任される役割は非常に重要
食品にはそもそも不正行為が露顕しにくく、企業のモラルの低下を招きやすい側面がある。生産者や企業を十分に監視する必要があり、監視のないところでは容易に不正が発生するという性質がある。
しかし加工食品の増加にともない、流通ルートは複雑化し、トレーサビリティの実施も極めて難しいのが現状という。食の安全とは政府の指導、企業の自覚、消費者の監視という三位一体ではじめて機能するが、中国では政府と企業が一体で、指導が成り立たない。
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