コンドロイチン硫酸の謎
〜平成25年度医学研都民講座

2014年1月30日(木)、津田ホールで、平成25年度医学研都民講座「コンドロイチン硫酸の謎」が開催された。本講座では2名の専門家によってコンドロイチン硫酸の最新情報が紹介された。ここでは愛知医科大学 医学部 教授 武内 恒成氏の講演「コンドロイチン硫酸の謎〜膝痛と神経再生へ」を取り上げる。


組織の弾力性や保水、栄養の消化吸収などの役割

コンドロイチン硫酸は膝痛に効果のあるサプリメントとして大量に流通しているが、これがどのような物質で、どのような機能を持つのかはあまり知られていない。近年はコンドロイチン硫酸が関節の軟骨だけではなく全身に存在し、特に脳神経系でも役割を果たしていることに注目が集まっている。

「コンドロイチン」という名称は膝の痛みなどに悩む多くの人に役立つ健康食品などで知られているが、正式名称はコンドロイチン硫酸であり、膝を中心とした軟骨だけでなく全身に分布しており、近年では脳神経系においても重要な機能を有することが知られるようになっていると武内氏。

多糖類の一種であるコンドロイチン硫酸はコラーゲンとともに体内の結合組織を形作っており、組織の弾力性や保水、栄養の消化吸収などの役割を担っている。コンドロイチン硫酸は成人くらいまでは体内で自然に合成されるが加齢とともに合成量が低下する。

コンドロイチン硫酸、脳内にも広く分布

またコンドロイチン硫酸が体内で減少すると、軟骨形成層が薄くなって、骨の形成が遅れることもわかっている。つまりコンドロイチン硫酸は私たちの体のなかで強い体(骨格や弾力のある皮膚や筋肉)を維持するのに重要な役割を果たしている。このコンドロイチン硫酸は脳のなかにも広く分布しており、脳内では面白い現象が起こっていると武内氏。

一般的に大人の脳に比べると子どもの脳には柔軟性があり、物覚えなども良い。これは脳の可逆性、つまり外から与えられる刺激や経験によって脳の回路が編成される仕組みが、若いうちは活発に働く一方で、成人になるとこの可逆性が低下するからだとされている。

体内で活発に合成、脳内で機能

しかしなぜ脳の可逆性が低下するのか、そのメカニズムについては明らかにされていなかった。ところが近年マウスによる解析でわかってきたことが、脳の回路や層の形成にもコンドロイチン硫酸が深く関与しているということであったと武内氏。

胎児期のマウスの脳内からコンドロイチン硫酸の量を減少させると、なんと大脳の層の形成が遅れ、さらに大脳そのものの形成が遅れ、さらに脳のネットワーク(回路)形成までもが遅れることが観察されたのだという。

つまり幼少期に脳の柔軟性や可逆性が高いのは、コンドロイチン硫酸が体内で活発に合成され、脳内で機能していることと関係があることを指摘。 とりわけ幼少期には体内で合成されるコンドロイチン硫酸が、脳の活性に非常に重要であることが推測されると解説した。

では大人になったら合成量が低下するコンドロイチン硫酸をサプリメントなどで外から補えば脳が活性するのかといえば、どうやらそうでもないことが明らかになりつつあるという。

これは非常に不思議なことであるのだが、大人になるとコンドロイチン硫酸量が脳内で低下したほうが脳の可逆性が維持されることが同じくマウスの実験で観察されているのだ、と武内氏は解説。

これは一体どういうことなのか?
コンドロイチン硫酸はとりわけ幼少期において脳の層や神経回路を形成するのに重要な役割を果たす一方で、成人期以降になるとコンドロイチン硫酸の量が減少したほうが脳の可逆性が維持されるという。つまり加齢に応じて真逆の働きをしているのだ。

神経再生を阻害する因子になっている

コンドロイチン硫酸の量が低下したほうが良い場面がもう一つあるという。それが神経再生の分野だと武内氏。ちなみに日本では現在、交通事故やスポーツなどで骨髄を損傷し車椅子や寝たきりの生活を余儀なくしている患者さんが約10万人いるが、骨髄損傷の根本的治療法はまだ見つかっていない。

しかしこのコンドロイチン硫酸が神経再生を阻害する因子になっていることが近年わかってきたという。損傷した脊髄などの中枢神経の周りには、体内で合成されるコンドロイチン硫酸が発生し、これが神経再生の障害になるのだという。つまりコンドロイチン硫酸が神経再生を阻むが故に下半身不随や運動機能の障害が起きているのだと解説。

武内氏らのグループでは、この傷の周辺に発生するコンドロイチン硫酸を抑制する遺伝子の改変方法を開発し、マウスで実験したと紹介。その結果、コンドロイチン硫酸を抑制したマウスは、脊髄を傷つけても損傷部分が小さくなり神経の再生さえ見られたという。

さらにコンドロイチン硫酸とは別の合成であるヘパラン硫酸の合成が上昇し、これが神経の再生を促すことを発見したことも説明。これにより脊髄損傷後でも劇的な神経回路の回復が見られたという。

脊髄損傷治療にも光明

今後の脊髄損傷修復や神経再生の治療方法として幹細胞(IPS細胞)の移植と組み合わせることで、これまで治療法が見つからなかった脊髄損傷治療にも光明が見えるとした。

いずれにせよコンドロイチン硫酸は軟骨などの強化のために働くだけでなく、脳においては成長の度合いに合わせてコンドロイチン硫酸の糖鎖構造を変えながら存在し脳の可逆性に関与し、神経再生の場面においてはその発現をいかに抑制するかで治療の結果が変わるということだ。

サプリメント等でコンドロイチンを摂取した場合の消化のメカニズムについても現在のところほとんどわかっていないため、多く摂取すればいいというものでもなさそうであると話した。


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