ゲノム情報利用による食品機能の解析
〜IMEC 2014「第10回統合医療展」セミナー

2014年2月20日(木)、東京ビッグサイトで、IMEC 2014「第10回 統合医療展」が開催された。同展示会のセミナーから、木山亮一氏(独立行政法人産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門 上級主任研究員)の「ゲノム情報利用による食品機能の解析」を取り上げる。


食品の健康効果の一つに、エストロゲン活性作用

ゲノムの解析技術が進み、化学物質の影響評価が高精度かつ簡便にできるようになってきている。講演では最新のDNAチップで食品機能成分を解析することで、副作用についても精度の高い評価ができるようになっていると木山氏は解説した。

例えば、イソフラボン、レスベラトロール、セサミン、クルクミン、コーヒー酸、ジンセノサイド、カプサイシン、ブレフェルディンA(朝鮮人参の有効成分)などの食品は高い健康効果が知られているが、共通しているのが「エストロゲン活性作用」を持つ点と木山氏。

エストロゲン、コレステロールを原料に体内合成

エストロゲンとは女性ホルモンのことで、女性の成長や排卵・妊娠の継続に不可欠である。エストロゲンは私たちの体内でコレステロールを原料に、男性ホルモンを経由して合成されている。

このホルモンの増減が、更年期障害だけでなく、生活習慣病やがん、動脈硬化といったさまざまな疾病の原因にも深く関与することが近年明らかとなっている。実際、更年期障害の治療にはこの女性ホルモンが用いられている。

さらに、エストロゲンは医薬界だけでなく、環境の分野では環境ホルモン(=環境エストロゲン)、食品の分野ではポリフェノール(=植物性エストロゲン)として広く浸透している。特にフェノール類と呼ばれる構造を持つ物質にはエストロゲン活性作用がある場合が多い。 

良い活性と悪い活性の両方が起こる

エストロゲン活性を示す化学物質の特徴に、「脂溶性と水溶性の性質を持つ」ということがある。そのために医薬品や添加物としても利用しやすい。また、卵巣や子宮といった女性器官だけでなく、性別に関わらず脳神経や循環器系にも大きな影響を及ぼす。

その影響とは主に細胞の増殖を助ける働きだと木山氏。つまり神経を強化させたり、新陳代謝を高めたり、骨を増やしたりする。しかしこの作用が悪く働く場合もある。細胞の増殖を働きかけるということは、がん細胞など悪い細胞を増やしてしまうこともあるという。

そのためエストロゲン活性は非常に優れているにも関わらず、あまり一般的ではなく、多くの医師やメディアもあまり触れたがらない。良い活性と悪い活性が起こり、しかもその正負のジャッジをすることが極めて難しいからだ。

DNAチップを用いた解析

しかし実際のところ、有効的な健康食品に含まれている機能性成分はエストロゲン活性を示すことが多いという。つまり先に挙げたイソフラボンやレスベラトロールのように植物エストロゲンやポリフェノールなどは健康食品としてよく使用されている。

これらを継続摂取したときにどのような有効的変化が起こるかは十分なエビデンスもある。しかし期待する効果が得られる一方で副作用が起こるリスクももちろんある。特に体調があまり良くない人にとってはその状態が亢進する可能性もある。

これまではエストロゲン活性と毒性を調べる方法として動物実験が主流であった。しかしヨーロッパでは化粧品の開発において動物実験が禁止され, 、食品や医薬品の動物実験がしにくく、日本でも同様である。そのため現在はインビトロ(試験管内)実験が主流だが、ここで登場するのがDNAチップを用いた解析である、と木山氏。

アガリクス抽出物にエストロゲン活性作用

木山氏はこのDNAチップで、アガリクスについて調査を行った。アガリクスとはヒメマツタケやカワリハラタケというキノコである。主な生産地であるブラジルのサンパウロでは成人病が少なく、長寿の人が多い。

彼らの食生活を調べたところ、日常的に摂取しているアガリクスの存在が明らかとなり「まぼろしのキノコ」として一躍脚光を浴びた。ところが「がんに効く」と表示した問題や、バイブル本商法、また劣悪な製品が市場に出回ったことなどが続き、逮捕者まで出した。

その後、市場は全盛期の10分の1にまで縮小し、2009年に厚生労働省が「アガリクスの安全宣言」を出したにも関わらず人気は回復していない。

しかしこのキノコにはやはり優れた機能性成分があるのではないか、と木山氏らは最新のDNAチップを用いて研究を行ったという。木山氏らはアガリクスの菌糸体の部分を中心に研究を行った。

その結果、この抽出物にはエストロゲン活性作用があることが明らかになった。さらにアガリクス抽出成分は、エストロゲン活性を示す一方で細胞増殖作用はないこともわかったという。

細胞増殖作用がない、サイレントエストロゲン

エストロゲンの活性作用を示すさまざまな機能性成分はこれまで副作用が懸念されてきた。例えば大豆イソフラボンも一日の摂取量は30mgまでと指針が出されている。これは何か良くない症状を有している人が摂取した場合、エストロゲンの持つ細胞増殖作用がその症状を亢進させる可能性があったからだ。

しかしアガリクス抽出成分にはその作用が認められなかった。そのため木山氏らは細胞増殖作用がないエストロゲン活性物質を「サイレントエストロゲン」と名づけ、新たなカテゴリーとして医薬品や健康食品に利用できないかと、現在さらなる研究を続けているという。現在のところサイレントエストロゲンとして唐辛子のカプサイシンも同様の分類ができることも分かっているという。

医薬品も健康食品も安全性が一番大切だが、DNA解析ができるようになり、これまで難しかったリスクについても判断しやすくなってきているという。特にこのサイレントエストロゲンに分類できる成分が他にも見つかれば、代替医療の分野でも十分に活用できるであろうとした。


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