食の安全を脅かす微生物
〜第46回 東京大学農学部公開セミナー

2014年6月21日(土)、東京大学農学部で、第46回 東京大学農学部公開セミナー「私たちのくらしと微生物」が開催された。この中から、同大学附属食の安全センター教授である関崎勉氏による「食の安全を脅かす微生物」を取りあげる。


食中毒で患者数が多いノロウイルス食中毒

私たちの身の回りにはさまざまな微生物がいるが、食中毒菌には注意が必要だと関崎氏。菌数が微量でも、食品が腐敗していなくても、汚染された食品を食べると食中毒が起きる。食中毒菌の問題点は、それが食品に微量に付着していても見た目や臭いで判断できないところにある。

厚労省の調査によると、食中毒のなかでも患者数が多いのはノロウイルス食中毒。また、平成8年に約1万5千人の患者を出した腸管出血性大腸菌O157、同年に1万7千人近い患者が出たサルモネラ菌によるものも多いという。

カンピロバクターでも多くの患者数

食中毒による死亡者数については、平成8年から平成25年まで、腸管出血性大腸菌が37名、サルモネラ菌は19名と報告されている。

腸管出血性大腸菌の死亡者のうち7名は平成23年のユッケ事件、8名が平成24年の白菜浅漬け事件で亡くなっている。腸管出血性大腸炎による健康被害はニュースになりやすいが、サルモネラ菌でも19名の死者を出している。また、あまりなじみがないがカンピロバクターでも多くの患者数が記録されている。

主な原因食品は牛肉、牛レバー、鶏肉

腸管出血性大腸菌、サルモネラ菌、カンピロバクターの主な原因食品を調査すると牛肉、牛レバー、鶏肉、鶏レバーなどの畜産物である。

腸管出血性大腸菌、サルモネラ菌、カンピロバクターは、牛、鶏、豚などの便から検出されるが、これらの菌が動物の便に存在していても、動物は病気にならないため検出が難しい。

しかし排泄された便でホルモンやレバー、あるいは井戸水、河川泥、肥料などに汚染すれば、野菜類にまで汚染が拡大し、食中毒を引き起こす原因となりうる。鶏卵がサルモネラ菌に汚染されているケースも少なくない。

5,000〜20,000個に1個の割合で汚染

日本では、養鶏場で徹底した衛生管理が行われるようになったため、5,000〜20,000個に1個の割合で汚染が発見される程度(発表元により数値が異なる)。

サルモネラ菌は微量だと食中毒は起きにくい。そのため、購入してすぐに冷蔵保存すれば、菌が増殖することもなく比較的安心して生卵を食べられる。

しかし腸管出血性大腸菌やカンピロバクターは増殖しても目に見えず、ごくわずかな量でも危険なため、菌が付いているものと認識し食品を扱う必要があると関崎氏は指摘する。

いずれの菌も増やさないよう、購入後速やかに冷蔵保存する。また、食べる際、十分な加熱調理をすれば、食中毒は防げるという。食中毒防止三原則の「広げない、増やさない、殺す」を徹底して守るのが一番という。

一方で、腸管出血性大腸菌感染症(3類感染症)といわれる、食品との関連が認められない感染のケースもある。これは食中毒よりもはるかに感染者数が多く、患者の中には症状が出ない無症状保菌者も数多い。高齢者や若齢者は比較的発症しやすいが、40代〜60代の中間層の6割は無症状保菌者であることがわかっている。

働き盛りの家族が外で腸管出血性大腸菌に汚染された食品を食べて、無症状保菌者となり、その家に高齢者や若齢者がいれば食品や日常生活を介して感染していることが推測されるという。

そのため、食中毒防止三原則に加え、外食時には極力生ものを食べない、外食時の直前の手洗いも重要な対策になると関崎氏。

豚レンサ球菌による被害も

平成23年に起きたユッケ食中毒事件をきっかけに、生食用牛肉に対する規格基準と牛レバー刺し販売禁止例が施行された。しかし、今も闇でレバー刺しが提供されていたり、家庭での生食は後を絶たない。

さらに、元来生食してはいけない豚肉や豚レバーまでも販売されており、豚レンサ球菌による被害も出ている。

豚レンサ球菌とは健康な豚の体内にも生息しているが、髄膜炎などを引き起こすことがある。また、人にも強い病原性を示し、髄膜炎、敗血症、劇症型感染症などを起こすことがわかっているという。

日本ではこれまで少なくとも14名の患者が確認され、うち2名が亡くなっている。また、近年はベトナムやタイなどのアジア諸国でも多数の患者が出ており、諸外国でも注意されている。

厚労省、豚の生食提供を禁止

厚労省の調査会は6月20日に、豚レバーは食中毒やE型肝炎発症リスクが高いとして、飲食店での豚の生食提供を禁止する方針を発表した。年明けには食品衛生法に基づく規格基準が改正される見込みだ。

豚は肉も内臓も表面だけでなく内部までが菌やウイルスに汚染されやすいため、安全に食べるには十分な加熱しかない。

牛に続き豚の生食の提供が禁止されれば、今度はジビエと呼ばれる野生動物の生食にも広がりそうで、いたちごっこになる可能性があると関崎氏は指摘する。いずれにせよ食品にはリスクがあることを十分に理解したうえで、美味しく安全に食べる知恵が必要だとした。


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