機能性食品の過去・現在・未来
〜第40回農芸化学「化学と生物」シンポジウム

2014年7月9日(水)、東京大学で、公益社団法人日本農芸化学会創立90周年記念 第40回農芸化学「化学と生物」シンポジウムが開催された。今回は社会的にも関心の高い「食品機能」について、基礎から応用に至るさまざまな視点での講演が行われた。この中から、日本農芸化学会会長 清水 誠氏(東京農業大学応用生物化学部)の「機能性食品の過去・現在・未来」を取り上げる。


食品科学の進歩で食文化が変貌

食品の科学技術は常に進化しており、食生活や食文化までを変えていると清水氏はいう。例えば、お茶1つとっても、かつて食後にお湯を沸かし煎じて飲む贅沢品であった。

しかし今や、缶飲料やペットボトルで持ち運べ、その結果、食後や一服のためだけでなく、より日常に密着したものになっている。

さらに健康効果を謳ったものも登場している。その中にはトクホ商品になったものもあれば、カテキンの効果が知られ、トクホと表記しなくでも十分というスタンスの商品もある。

お茶はもはやリラックスのために飲むだけでなく、健康維持や風邪予防といった用途に応じて飲めるものへと進化している。

食品の機能性研究、30年前より文部省のプロジェクトで開始

食品の機能性については昔から研究されていたが、約30年前に文部省のプロジェクトの1つとして立ち上げたことが進展の大きなきっかけになったと清水氏はいう。このプロジェクトには、食品化学だけでなく、栄養学、薬学、医学の専門家が集結し、「食品の機能性」の体系的な研究を行った。

そしてこの時、食品の機能が初めて3つに分類、定義された。まず身体の成長や構築を担う栄養素としての一次機能、美味しさや嗜好としての二次機能、そして生活習慣病を始めとする疾病予防を担う三次機能である。

この「三次機能」という概念は社会的にも非常に大きな注目を集め、全国で研究が展開されるようになった。そして、この研究成果が1993年にトクホ商品誕生へと繋がっていく。

トクホ商品、すでに1,100品超え

現在トクホ製品はすでに1,100品目を超えているが、機能性の評価が困難になってきているという。というのも、経口摂取した栄養成分は消化管内で消化され、腸内細菌で代謝され複雑に変化していくからだ。

それらの変化した成分は腸管で吸収されるもの、肝臓で吸収されるものなど、各臓器の中で複雑に代謝され構造を変えていく。

どの成分がどこでどう変化し、さらにどのような分子や受容体に作用し機能を発揮するのか、食品成分の「体内動態」や「認識機構」が機能性評価において非常に重要なファクターとなっている。

トクホは学問の成果

現在のトクホ商品の在り方としては、例えば血糖値や糖の活性を抑制する因子を加えることが主力になっていて、これはどちらも食品から摂取される糖が体内でどのように吸収されるのか、という研究から食品がデザインされている。コレステロールの吸収を抑制するトクホ商品も同様である。

近年は吸収されたものが体内でどう変化するのか、という研究からデザインされているものが増えている。例えば血圧上昇を抑制する作用などがこのグループである。

血圧上昇を抑制する方法としては神経系を介す方法もあり、そのメカニズムからデザインされたトクホ商品も出てきている。

いずれにせよトクホ商品の開発は科学的なメカニズムがベースとなっていて、まさにトクホは学問の成果、と清水氏。

機能性の評価は非常に難しい

現在、機能性表示解禁に向け、新たな機能性食品の評価方法の模索がはじまっている。しかし機能性の評価は非常に難しいということが、この30年の結論だ、と清水氏。

例えば、食べた機能性成分が実際そのまま腸で吸収されるかわからない。仮に吸収されたとしても、腸や肝臓で複雑に代謝して分子変化を起こす。変化した分子はさらに複雑に変化しながら体内の受容体や神経系などに作用し、さまざまな遺伝子の発現に関わる。

いわゆる「エビデンス」を重視した機能性食品を開発するとなると、ほとんど薬と同じレベルで開発しなければならない。

トクホ商品でも人気の腸内環境を整える「プロバイオティクス」に関して言えば、そもそも「お通じを良くする」程度の期待であった。

その後、腸内環境こそ肥満・糖尿病・動脈硬化・肝臓がん・脳の発達・アレルギー・ストレス耐性などに大きく関与するという論文が次々と出て、研究が進むにつれ、腸に関係する機能性食品も「お通じ」という目的を大きく超えようとしている。

2011年より消費者庁事業で「健康食品の機能性評価」

一方、トクホ商品よりも、サプリメントを含むいわゆる健康食品のほうが市場規模は大きい。そのため2011年より消費者庁事業の1つとして「健康食品の機能性評価」が行われ、そこに清水氏も参画したという。

この事業は、市販されている健康食品の中から、トクホでは許可されていないが人気のある著名な機能性成分を11種ピックアップし、実際に機能性があるかどうかを評価するものであった。

評価方法としては、ヒト試験の結論の査読、関連論文の査読、薬との相互作用の報告の調査など多岐に渡り、かなり厳しいチェック項目が設けられた。

評価作業の結果、清水氏自身も驚いたことに、「かなり効果が期待できる」あるいは「おそらく効果が期待できる」と評価できたものが多数あり、トクホレベルのエビデンスが揃っているとはいえない健康食品であっても、怪しいとは言い切れないという結論に達したという。

農水産物にも機能性表示の動き

さらに今、農水産物にも機能性を表示しようという動きが始まっている。しかし農水産物の健康増進効果をどう評価すればよいのか。健康増進評価はどこまで可能なのか?

表示解禁についてはすでに閣議決定がなされており、来年にはなんらかの結果が出るであろうが、農水産物における機能性や健康増進評価については、調理や加工の影響まで考慮しなければならない。そのため、機能性成分の評価より難しくなりそうだ、と清水氏は解説した。

機能性食品はこの30年で驚くべき進化を遂げているが、評価そのものはとても難しく、より複雑になってきていること間違いない。

ただ、一貫して言えることは、機能性による活性はとても弱く、長期摂取でようやく効果が出る程度と考えられること、そしてその長期摂取の効果を証明することがほぼ困難であるということだ、と清水氏はまとめた。

最終的な判断は個人に委ねるしかない

また長期摂取による負の影響が出ないことを証明するのはもっと難しい。現代人の多くが薬を服用していることや、その成分との兼ね合いについてはわかっていないことのほうが圧倒的に多い。

さらに世代を超えた影響、とくに母子から胎児、あるいは三世代の影響までについてもほぼ分かっていない。そこまで長期的なことを考えなくても、個人差の問題は常につきまとい、その個人差は遺伝子レベルで起こっている。

こうなると機能性食品というものが本当に必要なのか、存在意義が問われるようにもなってきている、と清水氏。

食品には栄養があり、その栄養素が生体に影響を与えていることは間違いないが、化学者として最新のエビデンス情報の提供はできても、やはり最終的な判断は個人に委ねるしかない、という現実があるとした。


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