体内時計の狂い、がんや生活習慣病を発症
〜第1回時間栄養科学研究会

2015年2月14日(土)、早稲田大学先端生命医科学センターで、第1回時間栄養科学研究会が開催された。この中から柴田 重信氏(早稲田大学先進理工学部教授 電気情報生命工学科 教授)の講演「体内時計における食と運動の相互作用」を取り上げる。


「いつ行うか」が人体にとって重要

「体内時計」や「時間栄養学」、「時間運動学」の研究はまだまだ始まったばかりで、食べる、動く、寝るといった行動を「いつ、どのタイミングで」行うことがより人体にとって有益なのか、これまでほとんど議論されてこなかった。しかし、身近なところで「薬を飲む時間」を思い出して欲しい、と柴田氏。

処方箋には「食前、あるいは食後○○分以内」にと記載、あるいは飲む回数が細かく指示されている。

つまり、「食べる/飲む」といった飲食行動を「いつ」行うか、は重要なことであることを私たちは経験的に知っているはず。これらの学問は新しい学問だが、決して突飛な話しではないと指摘。

体内時計が狂うとガンになりやすい

体内時計が狂いだすと、不眠・腫瘍・感情障害・肥満・アレルギーなどの症状が起こることがわかっており、近年はアルツハイマーとの関係も指摘されている。体内時計が狂う要因は生理要因(老化)もあるが、それよりも環境要因と遺伝要因が大きいこともわかっているという。

環境要因とは昼夜逆転の生活、不規則な生活パターンなどが挙げられる。遺伝については、妊娠中の女性が不規則な生活をしていたり、体内時計が狂う生活をしていたりすると胎児が影響を受けて生まれてくるという。

体内時計が狂うことで生じる不調は多岐にわたる。医学の世界で今最も注目されているのが腫瘍(ガン)との関係で、体内時計が狂うとガンになりやすいということは大規模疫学調査からも明らかになっているという。

時計遺伝子は15種類以上

17年前に時計遺伝子Clockが発見されるまでは、時計遺伝子は脳内の視床下部にのみ存在していると考えられていたが、いまでは約60兆個のすべての細胞にあることがわかっていて、その種類も15種類以上見つかっている。

この約15種類の時計遺伝子はすべて異なる役割を果たしている。それはまさに時計の長針の役割、短針の役割、電池の役割といったように、どれか一つの部品が欠けても時計として機能しないように、すべての遺伝子が重要であることが解明されつつある。

腸の中にも時計遺伝子が存在

このように時計遺伝子の研究が進む中で、食事のタイミングが時計遺伝子に大きな影響を与えることが明らかになっていると柴田氏。

適切なタイミングで栄養の吸収と代謝を行うことは、体内時計を毎日リセットすることになり、私たちの体の中にずれることなく1日24時間のリズムを刻むことになるという。

つまり腸の中にも時計遺伝子が存在しており、必要なタイミングで必要なものが入ってこないと、この遺伝子を狂わせることになってしまうと解説。

2015年4月からの改訂版「食事摂取基準」でも時間栄養学を言及

逆に必要なタイミングで必要なだけの栄養が入ってくれば、体内時計が正確に維持されるだけでなく、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病予防にも貢献することもわかっている。

これらの研究を踏まえ、2015年4月からスタートする改訂版「食事摂取基準」にも時間栄養学の視点、つまり「いつ食べるか」について、さらに「回数、割合、食べる早さ」についても言及される運びとなっている、と解説。

さらに生活習慣病やがん、アルツハイマーの予防には運動も欠かせないが、運動のタイミングも体内時計を正確にすることに役立つことが近年わかってきているという。

肥満予防に役立つ運動のタイミングは夕食前

また適切なタイミングで運動することによって「筋肉の再合成」なども効率的に行われることが解明されつつあるが、これを「時間運動学」と呼び、重要な研究として位置付けられていると説明。

1日3食を食べる一般的な成人において、肥満を予防し体内時計のリセットに役立つ一番適切な運動タイミングは夕食前であることも徐々にわかってきているという。

これは運動することによって就寝中の代謝量が増えることが理由で、そのため夕食前の運動後に、暴飲暴食しては効果が薄れることもわかっている。また単純に肥満予防の効果だけを考えれば、朝夕に関係なく食後に運動をするというのが最も太りにくいことがわかっているという。

しかし、子ども、シフトワーカー、高齢者など、それぞれにベストな運動のタイミングと食事の組み合わせがあるはずで、さまざまなパターンで研究することが求められている。

さらに機能性食品を摂取するベストなタイミング、また休息のタイミング、摂取時間を考慮したレシピの開発についても今後研究の必要があるという。これらの分野に関する研究はまだ新しく、まさにこれからの学問であるため、是非若い人に研究して欲しいとした。


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