健康長寿社会の実現に向けて〜食品の新たな機能性表示制度の行方 〜平成26年度機能性食品勉強会

2015年2月26日(木)、「薬業健康食品研究会 平成26年度 第2回機能性食品勉強会」が開催された。食品の新たな機能性表示制度について、現状で想定される問題点や課題、今後の行方について専門家が講演を行った。この中から、関口洋一氏(健康食品産業協議会会長)と森下竜一氏(大阪大学大学院医学系研究科教授)の講演を取り上げる。


2つの懸念事項

関口氏は「食品の新たな機能性表示制度の消費者庁ガイドラインについて」と題して講演。
今回の新制度において、協議会が懸念している事項が大きく2つあるとした。

1つは、新制度の対象食品は「食品全般」(特別用途食品、栄養機能食品、アルコールを含有する飲料、過剰摂取につながる食品は対象外)だが、「錠剤・サプリメント形状」商品と他の「加工食品」、また「生鮮食品」との間に、機能性を表示する際に提出するエビデンスやシステマティックレビューの間に大きな差がある。

協議会としては新制度がはじまってからでも、食品の形態ごとに異なる「差」を埋める努力をしたいという。

ビタミン・ミネラルなど除外

2つ目は今回対象外となったビタミン12種類とミネラル5種類。他に、機能性の関与成分が明確でないものが除外されている。

特に「漢方」に準ずるものが多い。温州みかんの果皮を乾燥させた、漢方でもよく使用される「陳皮」など、機能性は明らかだが、成分が定量できないため今回は機能性表示ができない。

こうした成分が非常に多く存在するため、業界としては新制度運用後も、改善を求めたいとした。

「子ども」や「妊産婦」への訴求はしない

さらに、協議会として求めたいのが「対象者」であるという。今回、対象者は「生活習慣病等の疾病に罹患する前の人又は境界線上の人(疾病に既に罹患している人、未成年者、妊産婦(妊娠計画中の者を含む)及び授乳婦への訴求はしない)と定めている。

しかし、「子ども」や「妊産婦」にこそ必要な栄養素や機能性成分も多くある。これについては表示できるほうが理想だと考えているとした。

安全性が強く求められている

また、適切な表示を行うためには、提出するエビデンスと表示する機能が適切にリンクしていることが重要で、その表示が適切に行われているかどうかはパッケージも含め、全体で判断される。

そのためケースバイケースの判断が多くなると予測され、企業を悩ませている。協議会としては「こういう表現が望ましい、可能」といったポジティブリストを作成し、消費者庁と擦り合わせをするなどして、業界団体のバックアップやサポートができるようにしたいとした。

また、新制度では安全性が強く求められている。そのためHACCPやISO、 GMPなどに各企業が積極的に取り組むことが求められる。この制度で健康食品産業がより一層成長するよう上手に運用することが求められる、とした。

2025年に医療費が60兆円を越える予測

森下氏は「健康寿命の延伸に向けた食品の新たな機能性表示制度の課題と今後」と題して講演。
「機能性表示制度」について約2年に渡り議論が繰り返され、紆余曲折しながらも多くの人が納得できるような制度になった、と森下氏。この制度の発端がアベノミクスの第三の矢であることは周知の通り。

日本の医療や医療費の問題についてもはや避けて通ることはできない。特に医療費は2025年に60兆円を越える予測が立っている。しかもその3割が生活習慣病といわれ、もはや公的保健だけでは国民の健康は守れない。

医療費削減のためには国民一人ひとりが「予防」を心がける、「セルフメディケーション」浸透させる、といったことが最重要課題となっている。その一貫として「機能性表示制度」が始まろうとしている、と森下氏。

しかし「機能性表示制度」だけでは十分とはいえない。実際、政府は他の動きもしている。例えば医薬品の早期認証制度の法律もすでに国会を通っている。

また、「機能性表示制度」のスタート後、トクホ制度や栄養機能食品の見直しも行われることが決まっており水面下では動き始めているという。

米国では機能性表示で市場が4倍に拡大

もともと「食品の三次機能」については日本が世界をリードしていた。新制度では世界に追いつき再び世界をリードすることが最大の目的である。新制度を活用して健康関連市場が活性化し、国民が健康になることが望ましい。

今回見本とした米国の「ダイエタリーサプリメント制度」は、施行後、米国で生活習慣病やがんの罹患率が低下しただけでなく、この制度開始から20年経過した今市場規模は4倍に拡大していると報告されている。日本でも同じような展開が期待される、と森下氏。

機能性表示には、「健常者を対象にしたトクホに準じた試験が行われること。またはシステマティックレビューの実施と報告」「臨床試験を行う場合はUMIN(臨床試験登録システム)への登録」さらに「査読つき論文雑誌への発表」が標準的なステップとなる。

また表示にあたり事前に消費者庁に届出する必要があるが、届出を行い認証されると「受理番号」が送付され、それをパッケージに明記して販売するということが決まっている。

HACCP、GMP等の品質管理に積極的に取り組むことが必要

使用可能な表現については、依然「曖昧である」という意見が多い。たとえば健康な人に対し「疲労を回復する」はOKでも疾病のある人に「疲労を回復する」はNGである。

また、健康な人に対し「改善」はOKであるが、疾病のある人に「改善」はNGであるなど、あくまでパッケージも含めた全体で審査が行われる。

この制度で最も重要なことは「安全性」であり、制度が長く有効に活用されるためにもやはり利用する企業はHACCP、GMP等の品質管理の取り組みについて自主的かつ積極的に取り組むことが求められる。

特に健康被害発生時における因果関係の検証のためにも企業は十分な努力をする必要がある。

森下氏が事務局長を務める抗加齢協会でも査読などの手伝いを積極的に行う体制を整えているという。

今後はドクターズサプリメントなどの市場もより活況になることが予測される。「国民の健康増進」「医療費の削減」「新産業の創出」を同時に実現するために、この制度に寄せられる期待は大きいとした。


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