経口摂取型、米の飲むワクチン誕生も
〜第15回「21世紀の食と健康フォーラム」


2015年4月20日(月)、東京国際フォーラムで、「第15回 21世紀の食と健康フォーラム」が開催された。この中から、清野 宏氏(東京大学医学研究所 感染・免疫部門 炎症免疫学分野)の講演「腸は超有能な免疫器官」を取り上げる。


腸は謎に満ちた器官

腸が超有能な免疫器官であることが、ここ数年広く一般にも知られるようになってきた。腸は消化・吸収を担う臓器だが、「免疫機能」を有する、非常に重要な器官でもある。

腸は、まだまだ謎に満ちた器官で、各分野から研究が盛んに行われるようになっている。特に医療分野から注目が集まっている。

というのも、腸という免疫器官を上手に扱うことができれば、感染症を中心とした病気の予防できるからだ。この観点から、現在、医学・農学・工学といった異なる分野が融合し、米を使ったワクチンによる腸内環境へのアプローチを進めているという。

そもそも「免疫」とは疫から逃れる、「病気」から逃れるためのシステム、あるいはウイルス・アレルゲン・細菌といった異物を感知し体から排除するシステムのことである、と清野氏。

腸管粘膜には約1兆個の免疫担当細胞が存在

私たちの体は、筒のような形状になっている。筒の外側にあたるのが皮膚。筒の内側が口から肛門までの消化管で、ネバネバとした「粘膜」で覆われている。

そのため消化管は「粘膜免疫」とも呼ばれる。こうした皮膚と粘膜のバリアで私たちは守られている。なかでも腸管は非常に広大で、テニスコート半分ほどある。

腸管粘膜は健康であればピンク色をしていて、背の高い絨毛を持つ。腸管粘膜には約1兆個の免疫担当細胞があり、異物や病原菌の排除だけでなく、有益な菌との共存共生システム構築も行っている。

免疫システムの司令塔、GALTパイエル板

腸管粘膜のなかには免疫システムの司令塔と呼ばれる「GALTパイエル板」が存在する。近年、マウスを完全無菌状態で育てると、パイエル板は発達せず、免疫システムが微弱なマウスになることが分かっている。

しかし、通常の環境に戻して育成するとパイエル板は発達しはじめることから、腸内フローラ(百兆個以上もの多種多様な細菌が1kg以上も棲みついて、腸内に集まっている様)を形成させるためには良い菌も悪い菌も実は同等に重要であることが分かってきた。

さらにパイエル板を調べると、一部の細菌は異物として腸管粘膜の外側で共生するのではなく、腸管粘膜の内側に取り込まれ、そこで共生しているものまである。例えばアルカリゲネス菌はパイエル板の内側で生息するが、この菌は体内に入り込み免疫系と連動するという。

腸管免疫システム、「IgA抗体」に何の影響もない

こうしたシステムは一体どのように「免疫」に作用しているのか?

何らかの形で体内に取り込まれた菌や異物、あるいは共生する菌や異物は、パイエル板やM細胞と呼ばれる玄関を通過する際に、さまざまな情報がキャッチされる。

その情報を基に、適切な免疫細胞集団が形成され、抗体を作ったり、抗体に特異的な免疫反応を誘導する。つまり、誘導組織、情報収集組織、実行組織に分担が分かれ、必要な免疫反応が誘導される。

これまで人類が用いてきたワクチンは実行組織に当たる部分を担当している。

簡単に言えば血液中に「IgA抗体」と呼ばれる免疫システムを意図的に増やすが、実は腸管免疫システムではこの「IgA抗体」に何の影響も起こっていない(誘導できてない、増加しない)ことがわかっている、という。

経口摂取型のワクチンを開発

従来の注射型のワクチンは、家の外側を警察に守ってもらっているようなものだが、それだけでは侵入を塞ぎきれない。しかし、経口摂取型のワクチンだと、腸管免疫システムにも有益に作用する(腸管、血中ともにIgAが有益に増加する)。

経口摂取型のものは、最初から家の外と中に警察を配備するようなもので、ダブルで防御しているようなもので、既にラットやヒトに近い猿で有効性は確認されているという。

清野氏らのチームはこの開発を急務と考えているという。従来型のワクチンでは冷蔵保存や注射針などコストがかかりすぎ、多くの人々に届きにくいためだ。

米から生まれる「飲むワクチン」

この経口ワクチンを、日本が誇る米から作るという研究を進めているという。食べる米から「医療用米」の誕生も間近で、これを「ムコライス」と呼ぶという。この「ムコライス」にはワクチン抗原が含まれている。

米の外側はカプセルのような役割を果たすため、経口摂取しても胃では溶けず、腸管まで届き、誘導組織をへて実行組織に情報を送り、抗原に特異的に免疫反応を起こすように指示を出すという。

夢のような米で、しかも常温で3年保存が可能、安全性が高く、ヒトへの親和性が非常に高い。米から生まれる「飲むワクチン」ともいえる、と清野氏はまとめた。


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