微量栄養素の欠乏における「食塩」の役割
〜ソルト・サイエンス研究財団「第27回研究発表会」


2015年7月22日、都市センターホテルで、(公財)ソルト・サイエンス研究財団による「第27回研究発表会」が開催された。この中から、安尾 敏明氏(朝日大学歯科部)の「微量栄養素摂取行動における食塩の役割について」を取り上げる。


微量栄養素、体内欠乏の際の摂取行動とは

私たちの生命の維持に欠くことのできない栄養素に「微量栄養素」がある。主要栄養素に比べ、一日あたりの摂取量は少なくて良いが、それでも毎日過不足なく摂取しなければ、生体機能にさまざまな悪影響を及ぼす。

しかも微量栄養素は人間の体内では合成することができない。そして微量栄養素は「味」がほとんどない。私たちが日頃「食欲」をかき立てられ「摂取行動」を起こすには「味そのものへの嗜好」か「食後効果(食後の体内で行われる生理活性や代謝)」が必要である。

しかし微量栄養素の場合、味もせず、それ単独では機能しないため「嗜好」や「食後効果」が生じにくい。そのため、微量栄養素が体内で欠乏した時、一体どのように「摂取したい」という欲求と行動が引き起こされるのか、現在この点でわかっていない部分が多いという。

微量栄養素が足りない時、食塩に対する嗜好性を増加

一般的に微量栄養素が体内で欠乏した場合、多くの場合「塩味」を手がかりとして欠乏物質を検出し摂取することが多い、とされている。

例えばリジンや亜鉛が不足した動物(ヒト含む)は通常以上に塩味を求めるようになるが、これは塩味を手がかりにリジンや亜鉛を探していると考えられているという。

ナトリウム(塩味)が欠乏すると、普段は口にしないレベルのしょっぱいものを欲するようになることが複数の動物実験からも報告されている。

つまり「微量栄養素が足りない時は、食塩に対する嗜好性を増加させることで、食塩を積極的に摂取し、食塩と一緒に存在する微量栄養素も自ずと摂取できるように調整している」と考えられている。

しかし、この仮説はすべての微量栄養素に当てはまるのか?
はたして「微量栄養素の欠乏は塩味を手がかりに検出され、それが摂取行動の基盤になる」という仮説が、すべての微量栄養素の不足時にも成立するのか、今回の研究では「ビタミンCが欠乏した場合」で調べたという。

VC欠乏、食塩は摂取行動の手がかりにはならない

研究では、ビタミンC(以下VC)を摂取しないと欠乏状態になる遺伝子操作した特殊なラットを用い(一般的にラットはVCを体内で合成できるため)、VCを欠乏させたラット群と正常群のそれぞれに、「食塩含有VC水溶液」を摂取させた。

その後「食塩含有VC水溶液」や「食塩水(ナトリウムのみの水溶液)」自体の嗜好にどのような変化が起こるかを二瓶選択法やクリック測定法といった行動学的手法で解析するとともに、鼓索神経(舌の前のほうにある味蕾に分布して、この部分を支配する神経)応答解析も行ったという。

その結果、VCが欠乏している時、塩味や酸味に対する味神経の感受性は低下するが(よりしょっぱいものやすっぱいものを受け入れやすい状態にはなる)、食塩水とともにVCを摂取しても「食塩含有VC水溶液」や「食塩水」に対する嗜好の変化や有意差は観察できず、VCが欠乏しても食塩がVC欠乏時における選択摂取の手がかりとはならない、という可能性が示されたという。

摂取行動、微量栄養素ごとに異なる

では、脳や体はどのようにVCの欠乏を感じ取り、食行動に移すのか。それについて、同様の実験を塩味ではなく「うまみ」でも行ったが、結果は塩味と同じで「うまみ」も手がかりにならないことがわかったという。

今後の検討事項として、「酸味」もしくは「苦み」はVC欠乏時の手がかりになる可能性があるのではないか、と安尾氏。いずれにせよ、微量栄養素が体内で不足した場合、必ずしも塩味だけを手がかりにしているのではなく、微量栄養素ごとに異なる味で摂取の手がかかりを得ているということになりそうだ、と報告した。


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