トレハロースの水和特性
〜第19回トレハロースシンポジウム


2015年11月6日(金)、お茶の水ソラシティカンファレンスセンターで、蒲ム原による「第19回トレハロースシンポジウム」が開催された。この中から、櫻井実氏(東京工業大学バイオ研究基盤支援総合センター)の「トレハロースの水和特性」について紹介する。


しっとり感とサクサク感を合わせ持つ

トレハロースはキノコ類、酵母、パン、ワインなどに含まれる糖で、もともと自然界に存在している。

現在、主に添加物として、素材の鮮度維持や保持性の向上、風味、色彩、食感の向上に役立つ素材として利用されている。

トレハロースは、食品に添加するとしっとり感や柔らかさを保持する。その一方で、サクサク感やカリッとした食感を高めるという、相反する特徴がある。他にも、たんぱく質や脂質の変性を抑える。

トレハロースは砂糖よりも食品に与える機能の数が多い。現在は11種類の機能が解明されている。

水を引き込む力が強い

添加する食品中の水分量に対し、トレハロースをどれくらい配合させるかにより、トレハロースの機能はさまざまに変化する。

例えば水分量の多い食品に加えればしっとり感や柔らかさを保持するのに役立つ。これはトレハロースが他の糖質に比べても水を引き込む力が強いからと考えられている。これをトレハロースの「水和特性」という。

他の糖類と比べ、トレハロースはどのような水和特性を持っているのか。マルトース、スクロースという他の2つの糖と比較してどのような違いがあるのか。

実はこの3つの糖は同じ分子式と同じ分子量を持っているが、立体構造に大きな違いがあるため異なる親和性を示すことがわかっていると櫻井氏。

例えば、同じ量の糖水溶液を作ろうとすると、トレハロースに必要な水の量は、マルトースやスクロースの場合より少なくて済む。

このような特徴を示すのはトレハロースがいわゆる二枚貝構造になっているためだ。

トレハロースの二枚貝の下側は完全に水和するようになっていて、貝が中身を保持するように、水分をしっかりキャッチして抱え込むようにして離さない性質を持っている。

しかし一方で、トレハロースの上側には水和性を持たない疎水ポケットがある。「上側の疎水ポケット」と「下側の親水性」の「二枚貝構造」という独特の構造が、トレハロースが他の糖と違う最大の特徴といえる。

食品でよく使用される「ゲル」は水を引き込むと膨潤するが、ゲルの網目状の部分が限界になり弾性を帯びる(ゴム弾性)と膨潤はストップする。このバランスによって「膨潤度」を測定することができる。

ただの水にゲルを溶かしたものと、トレハロースを溶かした水にゲルを溶かした場合では、トレハロース入りのほうが膨潤度は小さくなることが実験からわかっている。

これはゲルよりも先にトレハロースがトレハロース内に水を引き込み、水をゲルにリーチさせないように働くためだ。

トレハロースの立体的構造は独特

そのためトレハロース入りの水の中に入れたゲルの膨潤度は小さくなる。この結果は他の2糖で同じ実験比較してもトレハロースのほうが明らかに膨潤度が低く、トレハロースの水和特性の高さを示している。

いずれにせよトレハロースの立体的構造は独特であり、水和特性についても明らかに他の糖とは異なる。

この独特の構造は、親水基のみならず疎水基との相互作用も可能とする。これによりトレハロースは他の糖にはないさまざまな性質と機能を発現させると考えられる。

トレハロースにはまだまだ知られざる機能が隠されており興味がつきない、とまとめた。


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