小児栄養における魚食の重要性
〜DHA科学の国際シンポジウム


2015年11月7日(土)、海運クラブ(東京都千代田区)で「DHA科学の国際シンポジウム」が開催された。この中から、清水俊明氏(順天堂大学医学部教授)の「小児栄養における魚食の重要性」を取り上げる。


「遺伝的要因」と「環境的要因」

1989年、英国脳栄養学者のマイケル・クロフォード博士が、自著の中で「日本の子どもの知能が欧米の子どもと比べて高いのは魚を多く食べているから」とした。しかし、日本では食の欧米化により魚離れが進んでいるというのが現状だ。

「頭が良くなる」というのは「脳の機能が良くなること」とも換言できる。特に乳幼児期においては脳の機能が良くなると、知能も発達するという側面が大きい。

人の脳の発達は胎児期から幼児期にかけてものすごいスピードで進むが、胎児期から乳幼児の知能発達には「遺伝的要因」と「環境的要因」の2つが大きな影響を与えると清水氏。

母親からの影響を多大に受ける

「遺伝的要因」として、先天異常があると知能の発達に悪影響を及ぼす。明らかな異常がなくても遺伝的に親の影響を受ける。特に子供の知能の発育は母親からの影響を多大に受けていることが明らかとなっているという。

また、「環境的要因」による影響も大きい。その最たるものが「栄養状態」。母体が胎児の発達・発育を阻害する影響を受けると、そのまま胎児にも影響する。

近年は妊娠期の母体の栄養や疾患だけでなく、妊娠前の母体の健康状態も胎児の脳の成長に多大な影響を与えていることが発表されていると清水氏。

母体の栄養不良、胎児の脳のシナプス発達障害

また、出生後の胎児の栄養状態や産後の母子の「精神状態」も子供の脳の発達に大きな影響を与える。受精から生後8ヶ月までは、脳神経の発達が生涯で最も活発になり、脳のシナプスのネットワークの大部分が形成される。

生後1年で脳の重量は約2.5倍になる。脳神経や脳の発達は成人になった後も続くが、そのスピードや活性状態は胎児期から生後8ヶ月までが生涯で最大である。

胎児期前半に母体が栄養障害になると、胎児の脳神経細胞の産生が確実に阻害され、脳のシナプス発達障害が起こる。

また胎児期後半から乳児期の高度な栄養障害は髄鞘化(神経細胞の軸索の線維が髄鞘という絶縁体で包まれること)を引き起こすこともわかっているという。

脳の栄養不足、低体重児や消化器疾患を起こす

脳の発達障害が起きると知能だけでなく体の成長も阻害される。例えば、生後6ヶ月で呼吸不全で亡くなった赤ちゃんの脳をみると、脳神経の発達が非常に悪い。

他にも、早産、低体重児や消化器疾患、肝疾患、膵疾患などの症状が見られることが多い。

最近、日本で未熟児(2,500g以下)の出生が増えており、10人に一人が未熟児で誕生している。未熟児の場合、学童期以降の精神発達障害に陥るリスクが高くなることもわかりつつある。

例えば、ADHA(注意欠陥多動性障害)の子どもは、正常体重で産まれた子どもの5.7%にしか見られないが、低体重時の場合は約3倍の18.5%の子どもに見られる。

学習困難(ADHD、自閉症スペクトラム、学習障害)などの子どもも、同じく正期産児と早期産児では早期産児において発症するケースが明らかに多く、さらに超低出生体重児では約50%に学習困難が起こるとの報告もある。

これは、低栄養状態で過ごす期間が長く、特にその期間DHA、鉄、スフィンゴミエリンといった栄養素の欠乏に起因しており、網膜や視神経の発達にも障害が起こると考えられる。

脳機能改善やアンチエイジング作用

このため、母乳育児の重要性が注目されるようになった。人工乳より母乳で育った乳幼児のほうが、明らかな精神発達の向上や神経機能の発達が認められている。

これは母乳に栄養素が豊富に含まれているためで、現在の人工乳はより母乳に近づけられ、DHAや鉄が添加されている。

しかし母乳を作る母親の栄養状態が問題で、近年日本人の魚離れが進み、母乳からも必要な栄養素が減少しているという。

特に魚油に含まれる重要な栄養素にDHAとEPAがある。DHAには脳機能発達改善、向精神作用が認められる。また、EPAには抗炎症、抗アレルギー、抗血栓などの作用が認められている。

両方を摂ることで脳機能改善、抗がん作用、アンチエイジング作用などが報告されている。日本人の魚離れと乳幼児の「発達障害や問題行動の増加」はまさに正比例関係にある。

これから親になる若い世代が魚食を重視するかが、日本の未来を左右するといっても過言ではない。

魚食が少ない人ほどうつ病罹患率が高い

魚食の目安としては一週間に5〜7食。天ぷらや唐揚げにすると栄養素は50%程度になるが、煮物や焼き魚で80%の栄養素が吸収できる。

マグロ、ブリ、さんま、いわし、さばなどの含有量の多い魚を好んで食べると良い。また妊婦の場合は水銀量の少ないサンマやアジを摂取するのが望ましい。

実際に、妊娠中の魚摂取量を調査し生後42ヶ月と8歳児時点にどのような関係が起こるかを調査したところ、母体がDHAとEPSを豊富に摂取しているほうが、乳幼児の運動・行動・情緒面の発達に明らかな優位差が起こるというデータが発表されている。

近年は魚食とうつ病の研究も行われており、魚食が少ない人ほどうつ病罹患率が高いというデータもある。

日本人の魚離れは胎児、乳幼児、児童だけでなく、大人の発達障害や問題行動の増加を引き起こしている可能性が十分ある。魚食について今一度見直す必要があるとまとめた。


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