日本の塩、世界の塩の現状
〜公益財団法人塩事業センター公開講座2015


2015年12月2日(水)、コクヨホールで、公開講座「世界の塩、日本の塩」(主催:公益財団法人塩事業センター 海水総合研究所)が開催された。この中から、公益財団法人塩事業センター 海水総合研究所の眞壁 優美氏の基調講演を取り上げる。


年間2億8700万トンの塩が生産

日本ではさらりとしたまろやかな塩が当たり前に入手できる。しかし、世界ではどのような塩が流通しているのか。そもそも塩にはどのような種類があり、原料はどんなもので、製法にどのような違いがあるのか。

塩にはいろいろな種類がある。土地ごとの風土や気候に合わせて、岩塩や海水などを主な原料にさまざまな製法によって製造されている。また食用塩については国ごとに品質基準や制度も異なる。

眞壁氏は韓国、中国、アメリカ、ヨーロッパでどのような塩の流通、制度があるのかを調査し、報告を行った。

そもそも世界では年間2億8700万トンもの塩が生産されているという。そのうち岩塩は2/3、天日塩は1/3という割合。日本では年間100万トンの塩が生産されているが、それは世界の生産量のわずか0.3%に過ぎないという。

食用での用途が多いのは東アジアの国々

日本は塩の自給率が非常に少ないが、それに比べ中国は自給率91% 、アメリカは78%、ドイツ、インド、オーストラリア、カナダ、メキシコなどは自給率100%を超えている。

しかもそれらのすべてが食用というわけではなく、工業用やソーダー工業用という用途もある。工業用としては主に医薬品、道路の凍結防止、革製品、家畜などに使用されるという。

塩の食用においては。塩の摂取量(一日あたりの平均)が多いのは韓国や日本など東アジアの国々。ラテンアメリカや南アフリカの国々はやや少なめで、世界各国で平均すると塩の平均摂取量は約10gとなる。

ヨウ素添加塩でヨウ素不足の疾病が7億人まで減少

塩は「私たち人間が必ず毎日摂取するもの」で、「ほぼ一定量を摂取」し、「遠方に供給することができる」という3つの大きな特徴がある。またその機能性としては体内で必要な微量要素(ヨウ素、フッ素、鉄など)を運ぶ役目があり、生命維持に欠かせない。

日本や韓国では海藻を食べる食文化があるためヨウ素が不足することはほとんどない。しかし、世界では数年前まで16億人がヨウ素不足による疾病(甲状腺トラブル等)が起こっていた。

そこで「ヨウ素添加塩」の流通がはじまる。この塩の登場によりヨウ素不足の疾病が7億人まで減少したといわれるほど、塩とヨウ素、そして私たちの健康は密接に関係しているという。

日本でも栄養成分表示に塩の明記義務化始まる

ちなみに日本ではヨウ素は食品添加物として認められておらず、ヨウ素添加塩は販売されていない。しかし中国やポーランドでは食用塩にヨウ素を添加することが義務づけられている。

食品表示についてはどうか。栄養成分表示に塩を明記することは1994年アメリカでの義務化からスタートした。日本では今年2015年4月から義務化がスタートし、来年からはEUでも義務化がスタートする。

やはりどの国でも塩を「適量」摂取することと健康維持の関係は認識されるようになっている、と眞壁氏は解説。では国ごとに食塩の「扱い」にどのような違いがあるのか。

韓国では食文化に欠かすことのできない食材

【韓国の塩事情】
韓国では生産量の約8割が「天日塩」ということが挙げられる。天日塩の場合、生産量が天候に左右されやすいため、毎年生産量に数十トンという大きな差が生じる。

また、小瓶やチャック付きパックで販売されている塩も存在するが、3kg〜5kg天日塩がポリ袋に詰められて販売されているのが当たり前で、一般的にも塩は大袋で購入するという。

このような大袋が主流なのはやはり食文化と関係しており、韓国の漬け物キムチやチャガチ作りに大量の塩が欠かせいないため。大袋で販売される塩はkgあたり126円程度と価格もリーズナブルである。

一方、韓国の伝統的な塩に竹に天日塩を詰めて何度も焼く「竹塩」というものがある。これはkgあたり4,286円くらいの高級品だが、主にマッサージや洗顔、エステサロンなどで使用されることが多い。

韓国の人々にとって塩は食文化に欠かすことのできない食材であるため、価格が安く、販売量も多く、また専門店や量売り店なども充実しているという特徴がある。

天日塩より精製塩のほうが主流

【中国の塩事情】
  中国では今まさに塩事情が変わろうとしているという。2016年より塩価格の自由化がはじまり、2017年にはこれまでの専売制が廃止され新規事業の参入が認められる見通しである。

また食塩だけでなく食塩を使用する食品にもヨウ素を添加することが一部の高ヨウ素地区を除き義務づけられているという。中国は韓国と違い、天日塩より精製塩のほうが主流。

国内で生産される塩はkgあたり50円程。上海などのデパートには日本やオーストラリア、アメリカからの輸入塩も置かれているが、主に現地に駐在する外国人向け。

輸入塩は価格も数倍高いばかりか、ヨウ素が添加されていないものもあり、地元の人はなかなか使わないという。販売される国内塩の表記には「料理に火が通ってから加える」という記載があり、これはヨウ素の揮発を防ぐために明記されているが、他の国の塩には見られない中国独自の表記である。

自然の無添加塩が人気

【アメリカの塩事情】 アメリカは塩に特化した法律はなく、食塩は食品と同等の扱いだという。アジアの各国は日本も含め、食塩はポリ袋に詰められた物が一般的であるのに対し、アメリカでは瓶や筒、紙箱に詰められた物が一般的で、扱いとしてはハーブやスパイスに近く、店頭でもスパイスのコーナーに並んでいるという。

近年人気なのが「コーシャソルト」という塩。この塩はユダヤ教の戒律に沿って作られた塩で、品質や安全性が高いとされているため、オーガニックやヘルシー志向の人々からも愛用されているという。コーシャソルトに限らず、自然食、無添加塩といった商品がアメリカでは人気のようだ。

天日塩より岩塩のほうが主流

【ヨーロッパ諸国の塩事情】 今のところEUで共通して適用される塩の法律はなく、各国で制定されているものに沿って販売されているという。特徴的なのはどの国の塩も他言語での表記が行われている点である。

パッケージを見ると、だいたい英語・フランス語・ドイツ語・イタリア語で商品説明がなされている。またアメリカと同じで小瓶タイプ、紙箱タイプが多く、量も1kgくらいが最大で一般的に消費されるものは500g程度であるという。

またヨーロッパでは天日塩より岩塩のほうが原料としても主流で、ヨウ素添加塩も人気が高いという。

塩と食文化が密着している日本や韓国は、食塩の表記に「しっとり」「にがり」といった味に関する表記があるものも多いが、中国、アメリカ、ヨーロッパの汎用品にはそのような特別な記載はない。

また日本・韓国はヨウ素添加塩がないのに対し、中国・欧米ではヨウ素添加塩が人気であることが大きな違い。

来年以降は中国で専売制度が廃止されることや、EUの塩の栄養表示成分義務化によって、今後も世界の塩事情にどのような変化が起こるか注視したいtところである。


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