認知症対策に有益な天然食品成分〜シンポジウム「次世代機能性農林水産物・食品の開発」

2015年12月16日(水)、有楽町朝日ホールで、公開シンポジウム「次世代機能性農林水産物・食品の開発」が開催された。この中から、小林 彰子氏(東京大学大学院農学生命科学研究科 准教授)の「認知症発症遅延に有効な天然食品成分の探索とその機能性」を取り上げる。


65歳の4人に1人は認知症とその予備軍

現在、日本は世界一の高齢化社会となっている。2012年の厚労省の調査によると65歳の4人に1人は認知症とその予備軍で、うち6〜7割がアルツハイマー病であることがわかっている。

アルツハイマー病は発病までは非常にゆっくりだが、徐々に加速度的に進行する。脳が萎縮し記憶障害を中心に認知機能が低下していく。

現在、アルツハイマー病の治療薬として主なものは2種類ある。1つが「ドネペシル」で、年間3500億円以上の売上げがある。もう一つが「メマンチン」で、ドネペシルと併用されることが多い。

しかしいずれも進行を遅延させることしかできず、治療薬も治療法も患者にとって満足度の低いものになっている。

ポリフェノール、アルツハイマー病のリスクを低下

アルツハイマー病は早期発見、早期治療、そして予防が大切だが、実は発症する20年ほど前から、脳内に変化が起こり始めることがわかっている。

その変化とはシナプス障害やアミロイドβ(Aβ)の蓄積である。そのため日々の食事で発症を遅延させることも可能と考える研究者も少なくない。

小林氏らのチームはそうしたアルツハイマー病を遅延させる機能を有する食品を模索するなかで「ポリフェノール」に着目したという。

というのも、例えば疫学的にポリフェノールを多く含むワインを飲用したり、カレーをよく食べる人には、アルツハイマー病が少ないことや発症のリスクが低いことが報告されているからだ。

ポリフェノールは緑茶にも多く含まれるが、石川県中島町で金沢大学の研究の一貫で行われた「なかじまプロジェクト」で、5年間緑茶を1日1杯以上飲む群とそうでない群との追跡調査を行ったところ、緑茶を飲んでいる群は認知機能の低下リスクがそうでない群の1/3も少なかったことが報告されている。

こうした研究などからも、アルツハイマー病の発症原因については、脳内のAβの沈着によるもの、ということが明らかになりつつある。

実際に、脳内のAβの凝集・沈着をポリフェノールが抑制しているのか?小林氏らは数多くあるポリフェノールの中から、さまざまなデータ解析によりAβに効果的と予測される4つのポリフェノールを選択したという。

ポリフェノールで、優位にAβの増加が抑制

その4つが「クルクミン/フェルラ酸/ミリセチン/ロスマリン酸」である。まずはシソ科の植物に多く含まれるロスマリン酸で動物実験による検証を行った。

すでにAβが脳内に沈着したマウスをコントロール群とポリフェノール食群(ロスマリン酸添加食)に分けて10ヶ月育成し、脳内のAβ量に変化がないかを調べた。

その結果、ポリフェノール食群では優位にAβの増加が抑制されていることが判った。その後、臨床試験を行うため、乾燥したレモンバーブからロスマリン酸製剤を作製し二重盲検法で11人の被験者に試験を行ったところ、Aβ抑制の優位性が見られたという。

遺伝子になんらかの変化が起きている

ただ、ポリフェノールは腸管での吸収が低いため、経口投与で脳に達するかどうかはまだわかっていないという。

おそらく摂取により遺伝子になんらかの変化が起こっていることが考えられるが、そのあたりのメカニズムについて引き続き調査が必要だとした。

しかしポリフェノールは非常に安全性の高い成分であるため、今後も認知症予防や抑制に役立つメカニズムが解明されるよう研究や遺伝子発現調査を続けたいとした。


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