健康サポート薬局が担う役割
〜薬業健康食品研究会「第28年度シンポジウム」


2016年6月3日(金)、主婦会館プラザエフで、薬業健康食品研究会「第28年度シンポジウム」が開催された。この中から、医薬情報研究所(株)エス・アイ・シー取締役の掘 美智子氏の講演「健康サポート薬局が担う役割〜健康長寿社会の実現に向けて」を取り上げる。


健康サポート薬局を配置

このところ「かかりつけ薬剤師・かかりつけ薬局」という言葉をメディアが頻繁に報道するようになり、その存在や役割の意義に注目が集まっている。

厚労省を中心とした関係省庁も健康サポート薬局としての役割を通達したり、患者のための薬局ビジョンについて報告書を公表している。

また今年の3月からは調剤報酬が改訂され「お薬手帳」が再注目されるなど、国として医療費削減やヘルスメディケーションの普及のために薬局・薬剤師をフル活用するよう指導や動きが活発化している。

薬事行政のビジョンとしては、2025年までに全国に1万校ある中学校区に1薬局以上の健康サポート薬局を配置することを目標としている。

すべての薬局をかかりつけ薬局にし、健康寿命延伸のための地域に密着した健康情報拠点になることを目標としているという。

各患者の管理をデータベース化

かかりつけ薬局・かかりつけ薬剤師とは、患者がかかっているすべての医療機関を把握し、一般用医薬品を含めた服薬情報を一元的かつ継続的に把握し、それらの薬歴が適切に記録管理されることが基本となる。

そしてその情報(データベース)を基に患者の残薬の管理や確実な服用になる指導を行うことが重要な任務となる。

現状、各薬局は「お薬手帳」をきっかけとした「顧客の囲い込み」にやっきになっているが、いずれ遠くない将来、各患者の管理はデータベース化され、それがマイナンバーなどと連動する見込みもある。

個人情報の一元管理ができた先には、どの薬局へ行っても患者は適切な服薬指示が受けられるようになるはずで、「お薬手帳」による情報の集約化の先を見越す必要がある、と堀氏。その未来とは、コンピューターではできない部分のサポートをする「人」ということになるだろう、という。

薬剤師の育成も重要

例えば、胃酸分泌を抑制する作用のある胃薬を飲んでいる患者がドライアイの症状を訴えた場合、眼科受診や目薬の購入を促す前に、飲んでいる胃薬によって涙の分泌が抑制されている可能性がある。

そうしたことを指摘し、まずは胃薬を変えてみるといったきめ細やかな指導は薬剤師の知恵と知識、さらに経験によってはじめてできる。

こうした薬剤師の育成も重要で、薬剤師は薬剤だけでなく要指導医薬品や健康食品についてもそれらの特性を十分理解し、適切に説明する必要に迫られている、という。

不要な薬をなくす指導も

また同時に薬剤師は適切な薬を指導するだけでなく、不要な薬をなくす指導も求められるようになってきている。例えばオランダは抗生物質の利用を減らすことに成功しているがその事例を学ぶ必要もある。

高血圧者に降圧剤を指導するのはスタンダードだが、歩行速度が遅い、または寝たきりの人に対して降圧剤はむしろ危険、という調査結果もある。

大型のスーパーやドラッグストアにはサプリメントや健康食品が多数売られていて、消費者や患者はそれらを自分で自由に選べる。

特に機能性表示食品が登場したことで消費者はリテラシーを身につける必要に迫られているが、薬剤師もそれらと医薬品の相互作用など、適切なアドバイスができるようになる必要がある。

地域に根付いた薬剤師が適切なアドバイスを

また機能性表示食品には「疾病に罹患している場合は医師に、医薬品を服用している場合は医師・薬剤師に相談してください」と必ず注意書きがなされているが、モヤシやビールなどの食品を購入する際は、そのような注意書きがあるとはだれも思わない。

しかし実際、近所のスーパーで機能性表示ビール風飲料が特価で販売され、試飲会まで大々的に行われていたケースがあった。当然箱買いする消費者も多数いる。

数日後、堀氏の薬局に「風邪でもなく食あたりでもなく、どこも調子が悪くないのに下痢気味だ」という同じような悩みを抱えた人が数人やってきた。

堀氏は機能性表示ビール風飲料との因果関係を疑い、「最近ビールを変えませんでしたか?」と尋ねたところ、いずれの人も機能性ビール風飲料に変え、しかも1日に数缶空けていたという。

その機能性表示ビール風飲料は摂取目安量として1日に1本と明記されていたが、だれも飲料の摂取目安量など気にしてなかった。そのため、現在は薬局に該当商品のパッケージを張り出し「これは1日に1本まで」と注意喚起しているという。これは薬剤師が地域に根付いた生活をし、消費者の消費行動を熟知した結果できるアドバイスである。

原点回帰し、地域に求められる薬局に

他にもイソフラボン(機能性モヤシや骨の健康をサポートするサプリメント類)やカフェイン(エナジードリンク)、ベータクリプトキサンチン(機能性表示の温州みかん)、など特に注意が必要と思われる機能性成分やそれらの表示食品についても薬剤師は理解し、薬品だけでなく食品のアドバイスや複数の選択肢を提供できる存在であることが求められている、と堀氏。

今後薬局は地域に根付いたいろいろな人の「たまり場」になることが求められている。かつての薬局はそうであったが、今は処方箋がないと入れない薬局になってしまっている。

いまこそ原点回帰し、健康情報サポート薬局になること、最新のデータベースや知識をも包括した存在になることが求められている、とまとめた。


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