にがり成分を含んだ食塩による減塩達成
〜ソルト・サイエンス研究財団研究発表会


2016年7月26日(火)、公益社団法人ソルト・サイエンス研究財団主催による「平成27年度 助成研究発表会」が開催された。この中から、石川 匡子氏(秋田県立大学生物資源科学部)の「にがり成分を含んだ食塩を活用することによる減塩達成の可能性調査」を取り上げる。


食塩の過剰摂取は生活習慣病の一因

食塩は味付けだけでなく、野菜を脱水させたり浸透させたりする作用、肉や魚のタンパク質に働きかけ身を引き締める作用などあり、食感へ果たす役割が大きく、調理には欠かせない調味料である。

しかし食塩の過剰摂取が健康に与える影響については問題視されており、とくに日本人は塩分摂取量が多いため、いかにおいしく減塩するかが食の課題の一つになっている。

現在、厚生労働省は1日の食塩の摂取目標量を男性8g、女性7gと定めている。しかし、これを守っている人は多いといえない。

食塩の過剰摂取は増え続ける生活習慣病(高血圧、糖尿病、脂質異常症など)の一因にもなっている。そのため、一人ひとりが意識して減塩に取り組む必要がある。

にがり成分を多く含んだ食塩に着目

近年、さまざまな減塩法が推奨されているが、うまくいかない人や続けられない人が多い。これは減塩することで味付けが物足りなく感じるためである。しかし、実は味だけでなく食感にも物足りなさが生まれることはほとんど指摘されていない。

ほとんどの減塩法が味付けを損なうか、食塩以外のものを代用する方法が多く、食塩によって獲得される食感をカバーする方法はほとんどない。

しかし食品の味だけでなく食感を損ねない減塩調理法について検討する必要がある。それが達成できてこそ減塩が続けられる。

そこでにがり成分を多く含んだ食塩で味と食感の両方を損なわない減塩調理ができないか石川氏は着目し研究したという。

にがり成分に含まれるマグネシウムイオンやカルシウムイオンは、通常の食塩の脱水浸透作用とは異なるメカニズムを持つといわれているからだ。

にがり含有塩は引き締まってぱりっとした食感

にがりとは、ナトリウムを取り出した後のマグネシウムやカルシウムが濃縮したもので、主成分は塩化マグネシウムである。このにがりをほどよく残した塩は「まろみ」や「こく」があるとされている。

このにがりを含んだ食塩を使用することで家庭調理で簡単に減塩を実現できないか、以下のような実験を行ったという。

にがり含有塩3種類とナトリウムのみの食塩の4種類を10×25×25oに裁断したダイコンのテストピースの表面にそれぞれふりかけ、15分、30分、1時間、3時間、6時間、24時間静置して比較。

所定時間経過後に、それぞれの塩を取り除き、浅漬けダイコンになったテストピースサンプルを比較対象物として使用した。評価項目としては「脱水率」「弾力」「ペクチン組成分析」「官能評価」とした。

その結果、脱水率については、いずれの時間においてもにがり含有食塩をふりかけたサンプルのほうが高くなった。つまりナトリウムのみの食塩よりもにがり含有塩を振りかけた方が、引き締まってぱりっとした食感の浅漬けに仕上がるということだ。

にがり含有塩のほうが弾力性が上回る

つぎに弾力については、ナトリウムのみの食塩よりもにがり含有塩のほうが、わずかに弾力性が上回ったが大幅というわけではなかった。

塩蔵後1時間、3時間経過時のテストピースにおけるペクチン組成量を調べた所、1時間経過時点ではナトリウムのみの食塩でできた浅漬けはまったく塩漬けしていない未処理ダイコンのペクチン組成とほぼ変わらなかったが、にがり含有塩で塩蔵したものはすでにペクチン組成が変化していた。

つまりナトリウム単体の食塩よりにがり含有塩のほうが早く浸かりはじめる(組織に変化を起こせる)ということがいえるという。

にがり含有塩のほうが塩味もまろやか

最後に3時間塩浸けした浅漬けを実際に食べて「官能調査」をしたところ、にがり含有塩のほうがよく浸かっている、との回答が多数得られ、塩味もまろやかで長続きするという評価が得られたという。

これらの結果から、にがり成分を含有した食塩のほうが浅漬けに加工するのにはより適している可能性がある。浸ける時間を短縮することと、食塩中のナトリウム量を減らすことで減塩に役立つことが示唆されるという。

味も食塩だけで浸けるよりまろやかになるため、ナトリウム単体食塩よりにがり成分含有食塩のほうが浅漬けや漬け物の調理に適している可能性も高い。にがり含有塩を使用した減塩調理法がもっと研究されれば、味つけだけでなく食感を損なわない減塩が達成できるのではないか、とまとめた。


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