独自の栄養・健康管理のシステム構築を
〜JASIS2016 ライフサイエンスイノベーション


2009年9月7日〜9月9日まで幕張メッセで分析機器、科学機器の総合展示会であるJASIS2016が開催された。同展示会セミナーよりNard Clabbers氏(TNOオランダ応用科学研究機構 栄養&ヘルスケア部門事業開発部長)の講演「個別の栄養摂取と健康管理〜今後の研究とビジネスへの応用に向けた戦略」を取り上げる。


どんな栄養素をどれだけ摂取するかによって全く違う体に

冒頭で、ナード氏はある一枚のモノクロ写真を私たちに紹介した。その写真には3匹の子豚が写っている。

ナード氏は20年以上も栄養学に携わっているが、栄養学を学び始めた当初の20年以上前に見たある1枚の写真がこの「3匹の子豚」の写真であり、この写真を未だに忘れることができないという。

というのも、そこに写っている3匹の子豚はなんと三つ子であるにもかかわらず、全くサイズが違うからだ。

20年前はまだそのような実験をすることが許されたそうだが、3匹の子豚にそれぞれ「必要最低限の食事」「栄養バランスと糖制限をかけた食事」「標準食」を1年与えて変化を観察した。

結果、最低限の子豚はとても小さく、バランスのとれた食事の子豚はミドルサイズ、そして標準食の子豚は先の2匹の2倍近いサイズにそれぞれ成長した。

その写真はまさに遺伝的要素だけでなく、個体がどんな栄養素をどれだけ摂取するかによって全く違う体を得ることになることを示した良い例の1つだと解説した。

高騰する先進国の医療費

もちろん環境や遺伝的要因は個体差や病気を作る大きな要因となる。しかし何をどれだけ、そしていつどのように食べるか、私たち一人一人が「食」を正しく選択する必要に迫られている。

例えば、ビュッフェに行き、「私が健康になるためにどれを選べばいいですか?」と質問されても、それに答えることはできない。

なぜならその人の見た目やその日の体調だけでなく、日頃の運動量やその前後に食べた、あるいはその後食べる予定の食材など、よりパーソナルな情報がなければ最適な食材を選ぶことができないからだ。

しかしそれくらいパーソナルに「何をどの程度食べるべきか」を各々が知る必要に迫られている。なぜなら医療費が恐ろしく高騰しているからだ、とナード氏。特にアメリカの医療費は桁外れであるし、これは先進国共通の課題といえる。

今求められる「個別化栄養」

この大きな問題を解決するために個人が「予防」と「予防へ実際に投資する」ことが求められている、とナード氏は指摘する。しかし健康な食事をガイドライン化することは非常に難しい。

今求められているのは「個別化栄養」だ、という。そして個別化栄養を実現させるために必要なものは3つあるという。

「栄養科学」「行動科学」「データサイエンス」である。中でも行動科学は非常に重要だ。万人向けのヘルスキャンペーンはこれまでことごとく失敗に終わり、医療費削減という問題を解決するに至っていない。

それは知識があっても行動が変わらなければ、知識の利点が得られないからだ。栄養科学の知識は当然必要だが、それを実現させるための行動の方が今求められている、とナード氏。

難しいのは「正しい買い方」

他人の行動を強制的に変えることは誰にもできない。行動を変えるには自分の意思が必要で、そのためには個別に動機付けする必要がある。

例えば、今の冷蔵庫の中身に何を加えればより良い食事をすることができるのか、個別のアドバイスがもらえたら買い物のモチベーションが変わるのではないか。

一般論ではなく、今日の消費カロリーに応じた必要摂取カロリーが今すぐわかればモチベーションが上がるのではないか。先進国であれば、安全で安心が守られた食材は簡単に手に入る。難しいのは「正しい買い方」であろう。

誰かにコーチングしてもらいながら買い物や調理ができたらどれだけモチベーションが維持できるであろうか。

アドバイスについても1つの方法を教えてくれるのが好きなタイプと、幾つかの選択肢から自分で方法を選ぶのが好き、というタイプに分かれる。そのあたりまでパーソナルにしなければ行動を変えるほどの動機付けにはならないという。

個々人が健康な食生活を自発的に持続的に行える取り組み

しかし、今はデジタルサイエンスが普及し、ウエアラブルによって個別化栄養のアドバイスを得ることが可能になりつつある。情報の垂れ流しでも、命令でもない。

個人個人が健康な食生活を自発的に持続的に行えるようにする取り組みを産官学すべての知力を結集させて実現することが、もうすぐ可能になる、とナード氏。

今年開始した共同研究プログラムでは、ナード氏の所属するTNOだけでなく、様々な企業が栄養学、行動学、ICT分野などの知見を持って集結し、消費者が最適な個別栄養やライフスタイルを選べるシステムの構築に着手し始めているという。革新的なビジネスモデルが実用化される日は遠くないであろう、と語った。


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