病気の根源、「胎児期」に由来する可能性
フランスを代表する画家の一人ポール・ゴーギャンの作品の一つに「我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこへ行くのか」という有名な作品がある。まさに脳の研究はその答えにつながるのではないか、と大隅氏。
受精の瞬間から始まる脳の正常な進化や発育についての研究は、近年「病気の胎児プログラム説」という観点からも関心が集まっている。
「病気の胎児プログラム説」とは2008年頃から注目されている説で、小児期だけでなく成人期や老年期に罹患する病気も、その根源は「胎児期」に由来する可能性が十分ある、というもの。
脳細胞の「神経新生」、栄養が重要
その一例として、第二次世界大戦中の大飢饉時に胎児だった集団の成人してからの統合失調症の発生率は、通常に比べて2倍以上にもなることや、やせ型妊婦の低体重児において糖尿病罹患率が高いことなどが知られている。
つまり胎児期から、いや受胎する以前の母体の状態から十分に心身を整えておくことが後世に命を繋いでいく上で重要な鍵となるというわけである。
そしてそれは、脳の発育についても同じことがいえそうだと大隅氏はいう。
脳には無数の神経が巡っているが、脳の神経発生のポイントの一つに「脳の神経新生」がある。
これは「脳には脳神経の元となる神経幹細胞が存在し、大人になると脳の神経細胞は減るのではなく、大人になっても神経幹細胞から「神経新生」という現象が起きていて新しい神経が作られる」、というものだ。
つまり脳内にある神経幹細胞のおかげで脳神経は年齢に関わらず生み出されるというのである。しかしそのためには栄養素が重要であると大隅氏。
脂質は脳に重要な栄養素
そもそも脳は非常に油っぽい組織であり、乾燥重量の60%が脂質によって構成されている。体を健康に維持するためにどんな栄養素も欠けてはならないことはいうまでもないが、脳にとってもそれは同様である。
そして脳の構成物質の60% が脂質である以上、やはり脂質は重要な栄養素であるといえる、と大隅氏。脳の神経細胞には、他の体を構成する細胞と大きな違いがあることについても知って欲しいという。
それが細胞の形である。体を構成する細胞は楕円形や蜂の巣状だが、脳神経細胞には多くの突起があり、それは規則正しいものではなく、不規則かつ複雑なものになっている。
脳の60%が脂質
突起が多いということは、楕円形の細胞より表面積が多くなるということだが、この突起の表面(細胞の表面)は全て細胞膜で覆われており、しかもこの細胞膜は「リン脂質」で成り立っている。
リン脂質は、水と油の両方の構造を持ち、細胞膜として単に細胞と細胞の間切として存在するだけでなく、栄養の吸収や老廃物の排泄、情報伝達など生命維持に欠かせない働きを担っている重要な膜である。
脳の構造の60%が脂質である理由は、脳に存在する無数の神経細胞が突起構造で、表面積の多い構造をしているためで、その表面こそ脂質に分類される「リン脂質」から成るため、という。
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