腸内細菌、ストレスで変容し疾患へ
〜第18回ダノン健康栄養フォーラム


2016年10月8日(土)、有楽町朝日ホールで、「第18回ダノン健康栄養フォーラム」が開催された。この中から、福士 審氏(東北大学大学院医学系研究科行動医学分野 東北大学病院心療内科)の講演「腸内細菌とストレス」を取り上げる。


過敏性腸症候群(IBS)が増加

腸内細菌の状態が健康を左右していることが年々明らかになっている。近年増えている過敏性腸症候群(IBS)も、腸内環境と密接に関係していることが分かってきているという。

人の体には多くの微生物が棲んでおり、特に皮膚や気管、生殖器に多く存在している。とりわけ消化器官は微生物に左右されているといえるほど微生物の在り方と深く関係している。

心療内科では鬱や不安などで悩む神経障害の患者が多いが、ストレスによって起こる身体的不調と心理的不調の両方を見ていく必要がある。

そうした中でも身体的不調でIBSを訴える患者は増えており、これは日本だけではなく世界的に増加傾向にあるという。

アジアや北米、10人に1人が発症

IBSはアジアでは10人に1人、北米も同様の発症比率といわれる。世界ではIBSが8.8%ともいわれ、世界規模の問題といえる。ちなみにIBSには世界共通の診断基準があるという。

その基準とは「腹痛が、3ヶ月のうち1週間に少なくとも1日以上生じ、その腹痛が、@排便に関連する、A排便頻度の変化に関連する、B弁形状の変化に関連する、の2つ以上の症状を伴うもの」で、さらに便の外観から「便秘型、下痢型、混合型、分類不能型」とIBSを4型に分類するという。

世界のIBS患者の割合はこの診断基準を満している人をカウントして算出した統計だが、潜在的にはもっと多い可能性が高い。

腸の疾患、ストレスと関連

なぜIBSという腸の疾患がストレスによって引き起こされるのか。

原因は、「ストレスにより腸内細菌が変容し、種類が減る」ことが考えられるという。つまりIBSは今では代表的なストレス性疾患の1つと考えられている。

さらに、IBSになると認知症やうつ病、など別の病気になるリスクが増大し、最近では死亡率に関係することも指摘されるようになっている。ただの腹痛として見逃すことはできない。

では具体的にストレスが腸にどのような変容や影響を与えるのか。イギリスで、インドに渡航し感染性腸炎になった人たちを対象に腸炎の治癒に関する調査を行った。

すると腸炎になった後、治癒が早かったグループは治癒が遅かったグループに比べストレスのないグループであることが分かったという。

高齢者より若年者の方がなりやすい

しかしこの感染性腸炎になった人たちは感染性腸炎になったことのない人たちに比べ、7倍くらいIBSになりやすいことも分かっている。

こうした調査から、ストレスがかかると腸内細菌が乱れたままで腸炎が回復しにくいこと、一度感染性腸炎になると腸内細菌が乱れIBSになりやすくなってしまうことが示唆されているという。

またストレスと腸内細菌の乱れが両方同時に起こるとIBSにより罹りやすくなることや、男性より女性の方がなりやすいこと、年齢的には高齢者より若年者の方がなりやすいこと、喫煙者と非喫煙者では非喫煙者の方がなりやすいことも分かったという。

ストレスホルモンの増加で粘膜が弱くなる

体がストレスによって負荷を受けると、まずホルモンが影響を受ける。いわゆるストレスホルモンと呼ばれる幾つかのホルモンが増加する。ストレスホルモンが増えると、身体中の粘膜が弱くなり、あらゆるウイルスが体内に侵入しやすい状態になる。

もちろん腸の粘膜でも同じことが起き、粘膜透過性が亢進することにより内臓が知覚過敏を起こす。粘膜透過性の亢進と内臓の知覚過敏がIBSの特徴的な病態ともいえる。

IBS患者と健常者で比較すると、IBS患者の腸内細菌にはラクトバチルスとベイヨネラが多い。また、酢酸、プロピオン酸、有機酸の濃度が高く、これらが高値であるほど症状が重篤化の傾向にある。

特にプロピオンさんが過剰だと失感情症と言って、自分や他者の感情がよく分からない、理解できないという状態にもなりやすいことが分かったという。失感情症のような状態になるとストレスはますます亢進するが、ストレスによって内臓の知覚過敏は進行するため悪循環になりやすい。

内臓の知覚過敏を改善する必要

このような悪循環から抜け出しIBSを解消するために、まずは内臓の知覚過敏を改善する必要がある。

薬品では肝臓疾患でよく用いられるリファキシミンという非吸収性の抗菌薬が効果的であることが知られており、アメリカではすでに治療の際に用いられているという。

さらにそこにラクトバチルスアシドフィルス(いわゆる乳酸菌L-92)を加え、腸内細菌を変容させると脳内でオピオイドが増えることが分かったという。オピオイドとは天然の鎮痛剤あるいは脳内モルヒネともいわれ、痛みを感じにくくさせる働きがある。

腸内環境の変容で脳機能の変容も

他にも腸内細菌を良好な状態に変容させることで、体内で作られるマリファナ様物質ともいわれるカンナビノイド受容体も脳内に増えることがわかっている。

ちなみにプロバイオティクスはラクトバチルスだけでなくビフィドバクテリウム(通称ビフィズス菌)も有効。

消化管から起こるシグナルが脊髄の中を通り、脳内で様々な反応を起こす。この「腸から脳へ、脳から腸へ」のルートはかなり直接的であることが近年のブレインサイエンスでも解明されつつあるという。

腸内環境を変容させることが脳機能も変容させる可能性が示唆されている。腸内細菌とストレスに関する今後の更なる研究の進歩が期待される、とまとめた。


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