生活の中で使われる塩のさまざまな働き
〜Salt & Seawater Science Seminar 2016


2016年11月29日(火)、コクヨホールにて「Salt & Seawater Science Seminar 2016」が開催された。この中から、清水徹氏(公益財団法人塩事業センター研究調査部主任主事)の講演「塩のさまざまな働き」を取り上げる。 


かたちを変えて働く塩の用途が大半

塩の用途は大きく3つに分類することができる。「食用として働く塩」「性質を利用してはたらく塩」「かたちを変えて働く塩」の3つ。「食用」としては味付け、発酵の手助け、グルテンの形成、防腐剤の役割などが主なところ。

しかし「性質を利用して働く塩」と「かたちを変えて働く塩」も非常に重要で、ぜひ知って欲しい、と清水氏はいう。

実際、塩の全量からそれぞれの用途でどのくらい使用されているかを調べると「かたちを変えて働く塩」が全体の3/4を占め、残りの1/4をちょうど二分する形で「食用として働く塩」「性質を利用してはたらく塩」の利用となっている。

生活のあらゆるものに塩素が使用

「かたちを変えて働く塩」とは別名「ソーダ工業用」であり、平成27年度の国内の消費量は584万トン。ソーダ工業とは輸入の天日塩が加工されたもので、その後に「電解ソーダ工業」と「ソーダ灰工業」に分類される。

さらに電解ソーダは水を加えることで電気分解が起こり「塩素」「水素」にかたちを変える。

塩素だけでも用途は多岐にわたる。自動車部品や接着剤といった、一見それが含まれているとは想像もできないようなところでも使用されている。身近なところでは「水道水」「漂白剤」や「プールの殺菌剤」など。

他にも医薬品、洗剤、石鹸、塗料、香料、防虫剤、衣類、防音材、インキ、家具、プラスチックなど、私たちの生活を支えるあらゆるものに塩素が使用されており、塩素に関わらずには生きていくことができないといわれるほどである。

塩が日本の基幹産業を支えている

2015年のソーダ工業総生産額は国内だけで3.321億円に達し、2次・3次利用や製品まで含めるとさらに膨大な金額になる。安価で大量に生産され、安定供給が可能な塩は日本の基幹産業を支えているといえる、と清水氏。

食用以外のもう一つの用途が「性質を利用してはたらく塩」。具体的には「融氷雪用」「軟水化用」「塩水選」「塩ストレス」「鉱塩」などがある。

常温で26%程度の非常に濃い食塩水はマイナス21度でも凍らないという特徴がある。

この性質を「氷点降下」というが、これを利用して道路に塩水を散布し路面が凍結を防ぐのが「融氷雪用」。世界ではおよそ3.500万トン(2012年)が融氷雪用として使用されている。

例えば、米国ではこのおかげで交通事故が88%、負傷者が85%減少している。凍結しては通れない道が通れるようになることで経済効果も1日最大700ドルはある。ちなみに「氷点降下」の性質はカツオなどの魚介類の冷凍などにも使用されているという。

水の軟水化にも塩が活躍

日本は軟水の国として知られるが、世界には超硬水のエリアも多い。硬水とはカルシウムなどのミネラルが豊富に含まれている水で、アメリカ、中国、ドイツ、ケニア、オーストラリアなど硬水の国は多い。

硬水は水垢がこびりついたり、ボイラーの故障になったり、石鹸の泡が立たないといったデメリットがある。

そのため、水を軟水化するためにイオン交換樹脂とナトリウムを使用した軟水化装置で水を軟水化する。つまりここでも塩が不可欠となる。

塩水選とは種もみを選別するための手法で、塩水の中に種もみを入れて沈んだものだけを選別することである。

塩水に浮く種もみは身が詰まっておらず、収穫量が低い種もみだが、塩水に沈む種もみは詰まっていて収穫量が高くなるものだと分かるという。収穫量の高い米が生産されるよう、塩が役立っている。

塩ストレスで適度な負荷

塩ストレスとは野菜を育成させる際、土壌に適量の塩を撒く手法で、この適度な負荷をかけて栽培することで野菜の糖度がぐっと増すという。

鉱塩とは草食動物の家畜にナトリウム補給することで、これにより私たちは美味しい牛乳や牛肉を楽しむことができる。

このように塩には食用だけでなく、私たちの生活全般に直接関わるさまざまな働きがある。塩がどれほど生活必需品かについて理解を深めると同時に、安心安全な生活用塩の安定供給や備蓄が非常に重要であることを知って欲しいとまとめた。


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