ワカメに含まれるモリンにサルコペニア予防作用〜「次世代機能製農林水産物」シンポジウム

2016年12月5日(月)、有楽町朝日ホールで、「次世代機能製農林水産物・食品の開発」公開シンポジウムが開催された。この中から、二川 健氏(徳島大学医学部医科栄養学科 教授)の講演「海藻廃棄物からの次世代サルコペニア予防食の創製」を取り上げる。


ワカメに含まれるモリン、サルコペニア予防の可能性

ここ数年、機能性成分としてフラボノイドの研究が盛んに行われている。中でもフラボノイドの「抗がん作用」には特に注目が集まっている、と二川氏。

実はワカメなどの海藻類はフラボノイドが豊富、かつ新規のフラボノイドも多い。

海洋資源の豊富な日本ならではの次世代機能性成分の1つ、海藻由来フラボノイドから見つからないか、と着目したところ、「ワカメに含まれるモリン」にサルコペニア予防の可能性があることがわかった、という。

サルコペニアとは老化に伴う筋力の減少全般の減少を指す。中でもがん患者のサルコペニアはがんの治療効果を上げるためにも阻止したい症状の一つであるという。

ワカメの上部、モリンが豊富

そもそもなぜがんになると筋萎縮が起こりやすくなるのか。それはがんが進行することで代謝異常が起こるため。

この代謝異常により筋萎縮が進むと当然体重は減少し、体重が減少すると体力や抵抗力なども同時に低下してしまう。

そのため抗がん剤など、がんの投薬への抵抗性も弱くなることが問題で、治療に時間がかかったり、治療方針を変えるなど、がんの進行スピードに負けてしまうことも起こる、と二川氏。

北海道、宮城、徳島、長崎など、国内で採取される主要なワカメそれぞれを集めて、貝などが付着しやすいワカメの上部の主にゴミとして破棄される部分を解析した。

その結果、フラボノイドが非常に豊富で中でも「モリン」という成分が豊富であることが確認されたという。

がんや老化による筋萎縮、モリンが抑制

モリンはケルセチンに構造がよく似ている物質だという。実はケルセチンもフラボノイドであり、ケルセチンにはすでに抗筋萎縮作用が認められている。

そのためモリンにも同様の効果があるのではないか、と「モリンのサルコペニア予防作用」の研究がはじまったという。

マウスによる試験では、肺がんモデルのマウスにモリンを投与したところ重量減少への抵抗性を示した。

特に筋肉の中でも「速筋(瞬発力にすぐれた筋肉)」の萎縮に対する抵抗性が見られた、と二川氏。

また同様に、線虫でも試験を行った。線虫は30度といった厳しい条件で飼育すると早期に筋萎縮が起こり老化現象が生じる。

そのため、早期老化モデル線虫にもモリンを投与したところ、マウス同様に筋細胞の分解抑制作用が見られたという。

いずれもヒト試験ではないが、がんや老化による筋萎縮をモリンが抑制することを示している。

エビデンスが揃えば実用化も可能

この研究で用いたワカメは普段破棄されているものであり、根底には廃棄物を活用する、という狙いもある。

そのため、コストパフォーマンスに優れているだけでなく、エビデンスが揃えば実用化も早々に可能であろう、と二川氏。

しかも廃棄ワカメからがんによるサルコペニアにも有効な成分が抽出できる、となれば健康科学や医学、薬学の分野にも大きなインパクトを与えることになる。

ただし、医薬品にするには事前のコストや時間がかかりすぎる。

また医薬品になった途端廃棄物であったワカメでさえ高値になることは十分考えられ、健康食品としての開発がいいのか、機能性表食品としての展開がいいのか、展開の仕方についても十分に検討する必要があるとした。


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