酒粕、老化抑制や脳機能活性作用
〜「次世代機能製農林水産物」シンポジウム


2016年12月5日(月)、有楽町朝日ホールで、「次世代機能製農林水産物・食品の開発」公開シンポジウムが開催された。この中から、藤井 力氏(酒類総合研究所)の講演「発酵食品「酒粕」による老化抑制及び脳機能活性化の検討」を取り上げる。


酒粕に老化抑制作用

酒粕には老化抑制作用や脳機能活性の作用などがあり、健康イメージを強く持つ麹や甘酒と関係が深い。日本人には人気の発酵食品で、他にはない機能性成分を多く持っている、と藤井氏。

酒粕とは米、米麹、水を仕込み、清酒酵母で発酵した「もろみ」を濾して残る固形物のことで、濾してできる液体が清酒になる。

製造法にもよるが「生もとづくり」と呼ばれる製造法の場合は製造過程で乳酸菌も関与するため、ヨーグルトや味噌、話題の塩麹などと同じ発酵食品である。

酒粕は麹より機能性成分が豊富

日本では年間に約4.2万トンの酒粕が作られている。この酒粕には SAM・GPC・葉酸・ポリアミン・アミノ酸といった栄養成分が豊富に含まれているのが特徴。

麹や酵母も機能性成分として知られるが、これらの成分は菌体と一緒に酒粕に移行してしまうものが多い。酒粕は麹より機能性成分が豊富に含まれることはあまり知られていない。

しかも酒粕には酵母や乳酸菌の機能性成分がさらに加わるほか(生もとの場合)、βグルカン等の菌体成分や食物繊維様活性を持つレジスタントプロテインなども追加されるという。

酒粕の機能性成分の中でも、酵母や清酒酵母が SAM(Sadenosylmethionine)を高生産することが1984年に報告されている。

このSAMは海外では処方薬やサプリメントとして幅広く流通している成分で、気分改善作用や抗肝障害作用、抗関節炎作用などが知られている。

酒粕でSAMを摂取

しかしこのSAMは食品からは摂取できない、ともいわれている。とはいえ、清酒酵母がSAMを高生産できるのであれば、酒粕にも多く含まれるのではないかと藤井氏らは着目した。

清酒造工場に協力を仰ぎ酒粕109点を分析したところ、やはりSAMの含有が酒粕100gあたり平均49mg、最大で201mgであることがわかった。

つまり、酒粕は処方薬やサプリメント以外で機能性を示してもいいほどのSAMが摂取できる唯一の食品である可能性が高いことが示された、という。

SAMと関係の深いGPC(グリセロホスホコリン)や葉酸、ポリアミンについても酒粕中の含有量を調査したところ、やはりいずれの成分の含有量も他の食品と比較して酒粕にはかなり高含有されていることがわかった。

SAMはドイツ・ロシア等では処方薬として、またカナダ・米国等では健康補助食品として利用されている。

GPCはイタリア・ロシア等で処方薬として、また米国・ドイツ等では健康食品として利用されている。

葉酸については世界82カ国で穀物等に強制的に添加されている。日本でももちろん必須栄養素として特に妊娠を希望する男女や妊娠初期の女性が摂取すべき栄養素となっている。

抗不安作用や学習記憶の向上作用

ではこれらの機能性成分がどのようなメカニズムで私たちの体に働きかけるのか。藤井氏らはSAMとGPCに着目し、これらの成分や酒粕をマウスに経口投与することで、老化や肝機能にどのように影響を与えるのか調査をした。

老化の抑制を見るには時間がかかるため、余命一年の短寿命マウスを用いて、酒粕を同量の餌に5%添加と10%添加したもので比較した。

またSAMだけの添加群、GPCだけの添加群、SAM とGPCの併用群、成分を抽出せずに10%の酒粕群で比較したところ、いずれでも老化遅延効果が見られ、他にも抗不安作用や学習記憶の向上などの作用が見られたという。

腸内細菌叢に変化

いずれも多少の差はありながらもポジティブな効果があったのに対し、違いとしては10%の酒粕群では体重増加が見られなかった。

また、握力が強くなったこと、腸内細菌叢の変化が観察され、個別成分を投与するよりも酒粕そのものを摂取させることで、老化によるQOLの低下全体の改善に役立つ可能性が示唆された、という。

現時点ではラットによる試験のみであり、また気分改善効果など確認できていない点もあるため、さらに酒粕の機能性を追求するとともに、ヒト試験、商品化などを念頭において今後も研究や準備を進めたいとした。


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