n-3系脂肪酸やイソフラボン、虚血性心疾患と関連〜第7回慶應義塾生命科学シンポジウム

2016年12月7日(水)、慶應義塾大学にて「第7回慶應義塾生命科学シンポジウム 食と医科学フォーラム」が開催された。この中から、岡村智教氏(慶應義塾大学)の講演「最新の疫学研究から見た油と健康」を取り上げる。


日本人は虚血性心疾患になりにくい?

1965年代、日本人の脳卒中(脳血管疾患)による死亡率は非常に高く、死亡原因の第1位で、がんが第2位、虚血性心疾患が第3位だった。

ところが1980年になる前にがんが死亡原因の第1位となり、脳卒中は右肩下がりで低下し2010年には虚血性心疾患の死亡者数よりも少なくなった。

いずれにせよ虚血性心疾患が1位になったことはない。虚血性心疾患で亡くなる人が非常に多い欧米からこのことが長い間注目されてきた。

特に米国では虚血性心疾患による死亡者が多いことが何年も社会問題になっており、積極的な対策がなされている。日本人は欧米人とは違い、遺伝的に虚血性心疾患になりにくいのか?

虚血性心疾患のリスクとコレステロールとの関係

日本人男性、日系アメリカ人男性、アメリカ白人男性で比較すると、日本人は確かに虚血性心疾患の罹患率が低い。

日系アメリカ人男性とアメリカ白人男性ではこれが増加することから、遺伝よりも環境要因が病気を作ると考えられている。

これに関して、さまざまな調査が行われたが、中でも有名なのが、通称「7か国調査」と呼ばれるもの。

1960年代から25年間「北米・米国・セルビア・南欧(内陸部・地中海沿岸)・日本」の7カ国に住む人のコレステロール値と虚血性心疾患死亡率の関係を追跡調査した研究である。

これによると、日本人の血中コレステロール値は残りの6か国の人と比較しても明らかに低く、この調査結果によって「コレステロールが良くないのではないか」と注目されるようになった、と岡村氏。

1980年から19年間の追跡調査でも総コレステロール値が220〜240を超えると虚血性心疾患のリスクが高まるという相関関係が見られたという。

日・米・英で日本人が最もコレステロールを摂取

食事内容を日・米・英で比較すると、食事の中に含まれるコテステロール量に大差はなく、むしろ日本人(和食)が最もコレステロールを摂取していることがわかったという。

しかしコレステロールの摂取源に違いがあり、日本人は「卵・魚介・肉」の順番でコレステロールを摂取しているのに対し、米・英人は「肉・卵・乳製品」からコレステロールを摂取していて、魚介からの摂取がほとんど無いという特徴があったという。

つまりコレステロールをどれくらい摂取するか、というより、コレストロールと一緒に摂取することになる脂肪酸が問題なのではないか、と考えられれるようになった。

1990年〜2000年、日本人のコレステロール値は上昇傾向に

この視点から日本人、米・英人の飽和脂肪酸摂取量と多過不飽和脂肪酸(必須脂肪酸)の摂取量などを調査した。

すると、米・英人の飽和脂肪酸摂取量は明らかに日本人と比べて多いことがわかり、やはりコレステロールをどの脂肪酸とともに摂取するかの方が問題視されるようになってきたという。

ちなみに1990年〜2000年にかけて、日本人の血中総コレステロール値は上昇傾向にあった。これは、バブル経済とともに食の欧米化が進んだことが背景にあると考えられている。

2000年代から現在は横ばいであるが、日本人の性別・世代別に比較すると40代男性は最もコレステロール値の高い性別・世代であり、コレステロール対策を始めた米国人の低い値にカテゴライズされる人たちと差がなくなっているという。

血動脈硬化のリスク因子、日本人が最も高い

総コレステロール値が米国人の低い人たちとほぼ同じになったからといって、日本人虚血性心疾患が増えているかといえば、実はそういうわけでもない。

「コレステロール値が高いと虚血性心疾患のリスクが増大する」というのは疫学的に嘘ではないが「絶対」でもなく、コレステロール値以外の原因があるはずだ、という。

日本人、日系米国人、米国人白人の40代男性という3つの集団を対象に頸動脈の肥厚と動脈硬化について比較した調査によると、この3グループの総コレステロール値にはほとんど差がない。

しかし、日本人以外の2つのグループでは頸動脈の肥厚と動脈硬化が進んでいて、やはりここでも遺伝ではなく環境差が推測されたという。

しかもこの3グループで喫煙率が最も高かったのが日本人で、血動脈硬化を促進するリスク因子が食事からも生活習慣からも最も高かったのがなんと日本人男性だったというのだ。

n-3系脂肪酸とイソフラボンがカギ

一方、この3グループでBMI値を比較すると日本人が平均23.6であったのに対し、残りの2グループは平均27.9と肥満グループになり、喫煙率だけでなく肥満度にも差が見られたという。

そして血中成分を比較すると日本人とそれ以外の集団で差となって現れるのが「n-3系」の脂肪酸と「イソフラボン」であった、という。

日本人の魚離れが指摘されているが、それでも40代男性は魚をよく食べている。コレステロールも欧米人と同じくらい摂取している。喫煙率については欧米人より高くなっている。

しかし、肥満度は低く、血中のn-3系やイソフラボン値が高いということが虚血性心疾患のリスクを低減させている可能性が十分あるのではないか、と岡村氏は解説。

とはいえ、栄養素や食品で比較するのは難しく、食事のパターンで調査を続けるのが望ましいとした。

2015年度の「食事摂取基準」からコレステロールの目標量が削除されたが、だからといってコレステロールの摂取を推奨したり、過剰に恐れたりするのではなく「何と一緒に摂っているか」に目を向けた方が良さそうだ、とまとめた。


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