健康・機能性食品の基原植物を網羅〜「健康・機能性食品の基原植物事典」出版記念講演会

2016年12月12日(月)、イイノホール&カンファレンスセンターにて「健康・機能性食品の基原植物事典」出版記念講演会が開催された。この中から、正山 征洋氏(長崎国際大学薬学部教授 九州大学名誉教授)らによる講演「健康食品の基原植物〜写真で見る形態と食経験」を取り上げる。


14年の歳月を費して刊行

「健康・機能性食品の基原植物事典」が出来上がるまでになんと14年の歳月が費やされた、と正山氏。

この事典には、厚労省が出している食薬区分リストのうち「非医」、すなわち食品として扱われる植物821品目が網羅されているという。

編纂するにあたり、まず厚労省のリストに載っている植物が「何であるか」を決めることからはじめた。

つまり「基原植物名」をまず先に決定させ、その後日本で正式に植物名として採用されている「和名(カタカナ表記)」、そして学名の順に植物を同定していったという。

さらに学名は1753年にカール・フォン・リンネにより発表された「植物の種」に基づき、「ラテン語での属名」「種名」「命名者名」までを網羅し、「科名」「属名」までを調査し記した。

写真については、できるだけ花や果実も含む全体像がわかるようなものを集めて掲載し、1つの植物について幅広い情報が収集できるように編纂した。

また利用区分についても「食品」「スパイス」「民間薬」「漢方配合生薬」「医薬品」「医薬品原料」「毒草」「乱用薬物」と分類し、より調べやすくなるように配慮した。

植物の二次代謝産物、人の健康にも役立つ物質

また、黒柳 正典氏(静岡県立大学食品栄養科学部 客員教授)は、基原植物の多彩な有機化合物について述べ、

植物は古くから香辛料や香料、食品としてだけでなく疾病治療のために用いられてきたいわゆる「生薬」もあるが、植物には多彩な有機化合物(二次代謝産物)が蓄積されている。

これは植物にのみ見られる特徴であり、この有機化合物が私たちの栄養面だけでなく、健康面にも恩恵を与えることで注目され利用されるようになっている、と解説。

植物が光合成を行いながら移動することなく生存し続けるためには、外部からの攻撃や環境ストレスから自らを守るために二次代謝産物を作る必要がある。

その結果できた物質、中でもポリフェノールやカロテノイドなどは私たちの健康面にも役立つ物質として非常に期待されている。しかし、アルカロイド類など非常に生理活性が強いものもあり、それらは医薬品に使用される物質も多い。

マイナス情報も同時に知ることが大切

植物に含まれる二次代謝産物の中でも「機能性物質」と呼ばれるものは現在では主に健康食品として使用されるようになっている。

しかし、自分の摂取している健康食品にどのような成分が含まれているかを知ることが、非常に重要で、過剰な評価や過剰摂取などの問題がなくなるようになるのが望ましいと黒柳氏。

特に安全性情報だけでなくマイナスの影響が出た場合の情報も同じくらい必要である。

自分の知っている、あるいは摂ろうとしている物質がどのような植物のグループに属しているのかもこの本では調べることができるし、食品や機能性成分の安全性を決めるのは原材料に含まれる成分であることを忘れないでほしい、と話した。

食品の本質を探る

和仁 皓明氏(西日本食文化研究会)は本書の食経験の記載概要について述べた。

その食品や成分が安全かどうかは食経験がどれくらいあるかによっても推測することができる。

食経験を探索する方法として「遺跡からの食資源遺物や記録の出土」といった考古学的検証、「文字による食行為や食資源存在の記録」といった文献史学的検証、「民俗的な行事や食行為の伝承や記録」といった民俗学的検証、と大きく3つの探索方法があることを解説。

しかし食に関しての残存記録は多くなく、また食行動には「ハレとケ」が存在し、特に日常の「ケ」の場面に関する食の記録は乏しいことや、社会階層・階級差による差、また現存する記録の多くが上層階級の食に偏っていることなどの配慮が必要であるとした。

日本人の食でいえば「縄文時代」「弥生から古墳時代」「6〜16世紀」「16世紀」「19世紀」「20世紀」と大きく6回に分けて世界各地から食資源が伝来してきて、現代の食事はこれらの重層的な積み重ねから成り立っているという。

機能性食品の原材料の探索は今後ますます発展していくと推測されるが、食品の本質を探るにはやはり食経験を探索することも同じくらい重要だ、と話した。


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