食中毒の原因になる魚類の粘液胞子虫
〜東京大学食の安全研究センターシンポジウム


2017年2月22日、東京大学にて「東京大学食の安全研究センター 創立10周年記念シンポジウム〜食科学の現在と近未来」が開催された。この中から、横山 博氏(東京大学大学院農学生命科学研究水圏生物科学専攻)の講演「食中毒の原因になる魚類の粘液胞子虫」を取り上げる。


ヒラメの寄生虫、ヒトの食中毒の原因に

平成21年、「謎の食中毒」に関する報道が世間を賑わせ、その2年後、原因がヒラメのクドアであることが特定された。

クドアは粘液胞子虫類と分類され魚類にのみ害を及ぼす寄生虫とされてきたが、この事件をきっかけにヒトの食中毒の原因になることがわかった。

クドアは加熱処理すれば人体に悪影響を及ぼさない、また万一食中毒が発生してもそこまで重大な健康被害は起こりにくい。

しかし、ヒラメは基本刺身で食されることや、特に洋食ヒラメにクドアが寄生すると報道されたことで、養殖ヒラメの風評被害は甚大だった。

ちなみにヒラメのクドアで起こる食中毒の症状は、数時間後に一過性の下痢や嘔吐が発生するが軽症で回復も早く予後は良好、胞子の摂取量に依存性がある、ことがわかっている。

食材自体に問題

ヒラメがどれくらい汚染されているかによるが、重度に汚染されているヒラメであれば一切れでも食中毒が起こることもある。

しかし、汚染の進んでないヒラメであれば、食べても何も起こらない可能性も十分ある。

ちなみに加熱だけでなく冷凍でも無毒化には効果的である。

こうした特徴からクドアは人体に感染しても体内では増えずに死滅することや、死んだ魚の体内では増えないことも推測でき、ヒラメの調理や保存によってクドアが発生するのではなく、食材自体に問題がある場合に食中毒が起こるといえそうだ。

簡易診断法が開発

これらのことから、厚労省は、現在国内のヒラメ種苗生産場では砂濾過処理と紫外線照射した飼育水で稚魚を育成することや、養殖場で顕微鏡やPCR検査(妊娠検査薬のようなもの)を使用して感染群を除去するといった方策をとっている。

これにより、国産養殖ヒラメによる食中毒事例は著しく減少傾向にあり、この施策は成功したといえそうだ。

ただ、養殖の現場に携わる人が顕微鏡を使って調査を行うのは難しい。

またPCR検査ではヒラメを30尾以上も殺す必要があり、検査方法に改善が求められている。

最新の検査方法として簡易診断法が開発され、誰でも簡単に、飲食店の調理場でもチェックできるようになっている。

こうした努力や技術の進歩により、今や養殖のヒラメのほうが天然物のヒラメに比べて、安全といえる状態までになっている。

しかし、日本のヒラメは韓国から輸入されるものも多い。これについては検査体制が不十分で、依然としてクドアが検出され、それが直る気配もない。

他にもメジマグロ(クロマグロの幼魚)に寄生するムツボシクドアのヒトへの毒性が報告されている。

しかしヒラメのクドアと比較すると、生食してから発症するまでの潜伏時間がやや長く、また、発症するにはヒラメのクドアの10倍以上の胞子を摂取する必要があることなど、症状や発症メカニズムに違いがあることも分かっている。

科学的かつ定量的に評価

養殖マグロは飼育経過月数に伴い胞子が急激に減少することや天然マグロは冷凍処理されていることなどから、出荷時にはほとんど問題にならないことも分かっている。

またマグロは産業的な影響が大きいため風評被害が起こらないよう、情報公開にも慎重な姿勢が求められている。

カンパチにもユニカプスラという毒性の疑われる粘液胞子虫の一種が寄生しているが、感染源そのものが分かっていない。

従来は魚の寄生虫でヒトには何の影響もないと思われていた粘液胞子虫がヒトの健康に影響を与える可能性があり、その実例が報告されたり認識されたりするようになっている。

しかし食中毒として発生する度合いを科学的かつ定量的に評価し、消費者を混乱させないようにする必要性がある。

またこれらの寄生虫をいたずらに恐れることなく、適切な検査や対処ができるよう、養殖や調理に関わる人が安全に、最小の負担で処理や検査ができる方法を提案することが重要だとした。


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