食品で感染症の防護や腸管免疫を強化〜東京大学食の安全研究センターシンポジウム

2017年2月22日、東京大学にて「東京大学食の安全研究センター 創立10周年記念シンポジウム〜食科学の現在と近未来」が開催された。この中から、八村 敏志氏(東京大学大学院農学生命科学研究科食の安全研究センター准教授)の講演「免疫制御による食の安全をめざして」を取り上げる。


食物アレルギーが年々増加

腸は栄養吸収のための器官であるとともに、最大の免疫器官であることが近年よく知られるようになっている。

人の腸内に棲みつく多種多様な腸内細菌が、外部から侵入する細菌やウイルスに対し、感染予防のために必要な免疫機能に大きな影響を与えていることが明らになっている。

腸管免疫系には、常に膨大な腸内細菌や微生物・共生菌が共存している。

私たちの体を守る「免疫」と大きく関係しているのが「アレルギー反応」だが、摂取した食品に過剰な免疫応答を示す「食物アレルギー」の問題が年々増加していることも報告されている。

食物アレルギーの抑制機構は「経口免疫寛容」といわれ、この機構が働くことにより、通常は過剰な免疫応答が抑制される。

さらに腸管の粘膜においては食品についた細菌による感染症を防ぐ。また、粘液中へ分泌されてバリアーとして働くIgA抗体を産生・分泌したりしている。

これらの反応は全て腸管に存在している独自の免疫細胞によって行われている。

インフルエンザに対する感染防御

八村氏らのグループは腸管免疫を利用し、「食品で感染症を防御する機能を増強できないか」、「アレルギー反応で多い皮膚症状と腸管の関係について」、「加齢と免疫機能の低下、食品による増強」などの研究を重ねてきたという。

ある種の食品を摂取することで、腸管粘膜でIgA抗体産生を増やすことができれば、全身のバリアー機能が高まり、感染症の防御機能を強めることに繋がると考えられている。

そのための食品として、以前から乳酸菌やビフィズス菌は特にIgA抗体の誘導が増強されることがいわれている。

一般的には「乳酸菌やビフィズス菌は免疫や腸内環境に効果的」と理解され、それらを豊富に含む食品の摂取が有効とされている。

八村氏のグループはL.paracaseiというヒトの腸から発見された乳酸菌が腸管の樹状細胞に作用し、IgA抗体産生をさらに増強すること、また、この乳酸菌を経口摂取することでマウス試験ではあるが、インフルエンザに対する感染防御能が高まることなどが明らかになったという。

さらに乳酸菌以外にも、多糖類のβグルカンも同様のメカニズムで腸管を刺激し、IgA抗体産生を誘導することを示したという。

アレルギー細胞が腸管から皮膚へ移動

食品に対する過剰な免疫応答が起こると、アレルギー反応を引き起こすが、特に食物アレルギーは3歳以下の乳幼児に多く見られる一般的な問題である。

通常は除去食などでアレルギー反応を起こす食品と接触しないことによる対応が求められる。

しかし、子どもによっては栄養学的な問題が生じたり、食事のバリエーションが増えないことや食事の喜びが感じられないといったストレスの原因にもなる。

また食物アレルギー反応で最も多いのが皮膚への障害である。

八村氏らは研究で、食物アレルギーが皮膚で起こる場合、対象食品を直接触ることで皮膚症状が起こること以外に、経口摂取して腸管で起こったアレルギー反応によって発生したTh2 アレルギー細胞が腸管から皮膚へ移動する反応を起こすことをマウス試験により確認したという。

加齢による腸管免疫機能の低下を回復

また、他の体の機能と同様、免疫機能は加齢によっても低下する。しかしどのようなプロセスを経て低下していくのか、詳細については不明点が多いという。

マウス試験によれば、腸管膜リンパ節樹状細胞で、通常多く発現されるはずの酵素や酵素を発現させる遺伝子活性が加齢により低下するのではないかということが示唆されてきた。

いずれにせよ、これらの遺伝子や酵素を活性するような「免疫調整機能を有する食品」を意識的に摂取することで、加齢による腸管免疫機能の低下を回復させることは不可能ではない。

また、高齢者に多い感染症なども食で防御することが可能ではないか、と期待しているという。

腸管免疫機構を解明することは容易ではないが、今後も標的を絞り明らかにしていきたいとした。


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