時間栄養学と食品の機能性との関わり〜第6回シンポジウム「次世代の食品機能性と自然免疫」

平成29年3月24日(金)、笹川記念会館にて「戦略的イノベーション創造プログラム第6回シンポジウム 次世代の食品機能性と自然免疫」が開催された。この中から、柴田 重信氏(早稲田大学 先進理工学部 教授)の講演「時間栄養学と食品機能性」を取り上げる。


時計遺伝子、すべての細胞に存在

私たちの体には体内時計が備わっており、その体内時計には幾つか種類がある。例えば、睡眠と覚醒のリズムを司るウルトラディアンリズム、女性の月経周期を司るサーカルーナリズム、そして1日24時間を刻むサーカディアンリズム。

体内時計は生体に周期変動をもたらし、周期の短いものから長いものまである。

これらの体内時計の中でも、時計遺伝子が発見されたことによりメカニズムが解明されているのはサーカディアンリズムだけである。

近年の大発見は、この時計遺伝子が光刺激を感知する「眼」や朝食刺激を受ける「腸」にあるだけでなく、すべての細胞に存在していることがわかったことであろう、と柴田氏。

薬の摂取、「いつ、どのように」が焦点

体内時計ができるだけ正確に刻まれ続けることが健康維持の最も基本的なことである。

実際に時計遺伝子が狂うと、不眠症・さまざまな腫瘍・感情障害・メタボリックシンドローム・アレルギー・炎症といった不調が生じやすくなり、放置しておくと深刻化してしまう。

また、春は花粉シーズンだが、日中よりも花粉飛散量の少ない朝に症状が出やすいと感じる人も多い。

他にも偏頭痛が起こりやすい時間、皮膚過敏が起こりやすい時間などがある。これらは体内時計が狂っていなくても体内時計によって起こる生体変化によるもの、と柴田氏。

体内時計が発見されてから「時間生物学」という観点で生活習慣や栄養摂取、薬の摂取について考え、「いつ、どのように」というポイントに焦点が当てられるようになり、さまざまな研究がなされているという。

深夜の激しい運動、時計遺伝子を狂わせる

時間生物学は「時間運動学」「時間栄養学」「時間薬理学」から成る。

「時間運動学」はいつ、どのような強度の運動をすればより効果的か、という観点から研究が行われている。

近年、24時間フィットネスが流行っているが、深夜に激しい運動を行うことは時計遺伝子を狂わせる要因になることが解明されつつある。

また減量目的の運動は朝方に行った方が効果的であることもわかっている。

機能性成分の摂取にも適切なタイミングがある

「時間薬理学」は誰にでも経験があることで、例えば、処方箋に記載されている「摂取時間」のこと。

抗コレステロール薬の「スタチン」は夜に摂取するのが効果的であることがわかっていて、処方箋にもそのように指示がある。

薬については、基本的にいつ飲めばより効果的かが解明されているためそれに従えばよいが、問題はトクホや栄養機能食品である、と柴田氏。これらには摂取時間を表記してはいけないことになっている。

しかし、食品に含まれる機能性成分にも適切な摂取タイミングはあり、その時間に摂取することがより望ましい。これも「時間栄養学」である。

例えば、夜間にコーヒーを摂取すると体内時計を乱す、という米国の研究が2015年9月に発表されている。寝る前にコーヒーを摂取すると、予定の就寝時間に眠りにつくのが難しくなり、朝起きるのが辛くなる。

これはカフェインにより体内時計が乱されているからである。

フレイル(筋脆弱)状態、朝食のタンパク質摂取量が少ない

他にも、現時点でわかっているのは、「絶食後の食事(=朝食)は体内時計をリセットしやすい」「夜遅い食事は体内時計を遅らせるが、夜早い時間に分食することで解消できる」。

また、「食事内容はインスリンを上げやすい食事の方が体内時計をリセットしやすい」「カフェインは体内時計をリセットさせやすい」など。

他にも、時計遺伝子の研究では1日1食より1日2食の人の方が太りにくく、さらに朝食にウエイトを置いた方が太りにくい。

朝食のカフェインやコーヒーは抗肥満作用を示すが(マウス実験)、夕方のカフェインやコーヒーは抗肥満作用を示さないだけでなく、体内時計リズムを狂わせ悪影響である。

また、フレイル(筋脆弱)状態にある人は朝食のタンパク質摂取量が少ないことが解明されているという。

納豆やカルシウム、夕食時の摂取が効果的

タンパク質の適切な摂取は高齢化社会におけるサルコペニアやロコモティブ対策にも大切だが、朝食にタンパク質の摂取量を増やすことは筋合成に効果的である可能性が高い。

また、夕方以降の余剰なタンパク質摂取は筋合成には利用されない、朝の時間帯に骨格筋へ負荷を掛ける運動は夕方よりも筋萎縮を抑制しやすいため、朝の食事内容や運度内容が重要であることがわかってきている、という。

一方、同じサルコペニアやロコモティブ対策の食品でも、納豆や大豆製品、カルシウムは夕食時の摂取の方が効果的であることもわかってきている。

つまり、同じ目的でも異なる食材を上手に使い分けることがより効果的ではないか、と柴田氏。

健康な生活を送るためにはどんな食品を摂取して、どんな運動を行うか、という従来の考え方から一歩前進し、体内時計を活用して「いつ」を加えることでより実り多い生活が送れるのではないか、とまとめた。



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