新規バイオマーカー探索と機能性食品の開発〜第2回ウエルネスフードジャパンセミナー

2017年7月25日(火)、東京ビッグサイトで、第2回ウェルネスフードジャパンが開催された。同展示会のセミナーから、久保 明氏(東海大学医学部 客員教授)の講演「新規バイオマーカー探索と機能性食品の開発・展開〜新規バイオマーカーと明日の臨床医学創造」を取り上げる。


新しいバイオマーカーが次々に発見

バイオマーカーという言葉を聞いてどんなイメージを持つであろうか。

臨床が主な活躍の場である久保氏は、バイオマーカーにも色々な立場があり、大きくは2つに分類できると説明。1つが「新しいバイオマーカーを創造する立場」。

これは研究の領域であり、最新のゲノムや遺伝子研究の進化とともに日進月歩で新しいバイオマーカーが次々に発見されているという。

そして久保氏のように臨床の側に立つと「バイオマーカーをいかに適切に活用するか」が重要であり、「バイオマーカーを使う立場」になるという。

超高齢化社会の日本において、生活習慣病、認知症、フレイル、ホルモン障害、免疫感染、腸、メンタルコンディション、がん、血管障害、といったさまざまな健康課題を解決し、それを「解明」していくことは非常に重要なことである。

「がん」などの予防で、バイオマーカーを有効利用

いずれの症状疾病もある日突然起こるのではなく、日々生活していく中で徐々に進行したり(時に良くなったり)しながら動態を変え、最終的に「疾病」となって現れる。

バイオマーカーはこの「病態」が「疾病」に変化していくまでのかなり初期の段階で「リスクを確認する指標」となる。

例えば、従来から良く知られるマーカーに「血糖」「HbA1c」「LDL」「中性脂肪」「体重」「BMI」などがある。これらの以前から用いられているマーカーはもちろん現在も臨床や健康診断などの場面で有効活用されている。

さらに、続々登場する新規マーカーがある。例えば血管内皮前駆細胞を調べる「EPC」や酸化ストレスの市場となる「8OHdG」、真の悪玉コレステロールと注目される「sdLDL」など。

また、サロゲートマーカーといって中間的指標となる「内臓脂肪面積」「骨密度」「血管年齢」「頸動脈IMT」「CACS冠動脈石灰化指数」なども、臨床では有効なマーカーといえる。

これらの初期のマーカーや中間マーカーを活用することで最終的な疾病である「脳血管障害」「新血管障害」「がん」などを予防できればバイオマーカーが有効に利用できた、ということになる。

経年変化を追うことが難しい

バイオマーカーについては研究がどんどん進んでおり、各国から有効な論文がたくさん出ている。

例えば、腎臓の機能低下を調べるマーカーである「クレアチニン」。このクレアチニンが低い人は入院中の死亡率が高い、という論文も出ている。

また、筋肉を構成するタンパク質のひとつである「トロポニン」。このマーカーが「腎障害マーカーに利用できる」という論文も発表されている。

バイオマーカーの面白い点は、「多面的に活用できる可能性が高い」ことだが、現時点では「経年変化を追うことが難しい」という側面もある。

近年「GDF2」が注目

「アンチエイジング」がここ数年のテーマでブームだが、そもそも自分の本当の「エイジング度合い(加齢度合い)」を知らずして、正しい「アンチエイジング」はありえない、と久保氏。

そしてエイジンングを理解するためのマーカーとして近年「GDF2」が注目されているという。

GDF2は心臓や脳、筋肉に働きかけ老化を抑制する物質で、血中から測定する。

そのため、すでに臨床で活用している例も国外ではある。また最近話題の「テロメア」の長さの測定もエイジングマーカーのひとつといえる。

アディポネクチン、マイナス面が解明

老化といえば「血管年齢」が重要で、かつては血液がどれくらい「凝固」しているかが疾病リスクやエイジングのマーカーとなった。

しかし、今は血管そのものがどのくらい「炎症」を起こしているかに注目することが主流となっている、と久保氏。

またアディポネクチンもエイジングのマーカーとして利用できるという。

一般的に女性の方が男性よりも長寿であることは、アディポネクチンが女性の方が高いからということが考えられるが、なぜ女性の方が高いのかまではわかっていない。

そしてアディポネクチンは超善玉ホルモンと考えられてきたが、近年はそのマイナス面についても徐々に解明されつつある。

AGEが高い人ほど筋肉量が少ない

近年、美容面で話題になっている「AGE」。これは皮膚のバイオマーカーといえる。

韓国では、AGEが高い人ほど筋肉量が少ないという10年の研究調査による論文発表が行われている。

また、バイオマーカーの中には欧米人には有効でも日本人では有効な結果が出ずにあまり活用できないようなものもある。バイオメーカーを正しく臨床で活用するのは簡単ではない、と久保氏。

アルツハイマーの危険因子、日本人に保有率が高い

アルツハイマーの危険因子として知られるアポリポ蛋白E(ApoE4)はそもそも日本人に保有率が高いことがわかっている。

つまり日本人であるというだけアルツハイマー型認知症リスクが高いとも言えるが、このリスクにどう立ち向かえば良いか。

ビタミンE、ビタミンD、イチョウ葉エキスが有効だという論文は多数出ている。しかし大事なことは、個人個人の遺伝子やバイオマーカーを調べ、個人に合わせた投与をすることではないか。

サプリメントもそういう時代に入っている、と久保氏。また若い人にも多い「うつ」もバイオマーカーで予防するという流れも起こりつつあるという。

予防医学に大いに役立つ

このようにバイオマーカーの進化と最新研究、そして臨床の間にはギャップがありそれを埋めていくことは容易ではない。しかしバイオマーカーの研究には臨床の力も必要である。

どのバイオメーカーを選び、どれくらいの規模で、どれくらいの期間研究をするのか。研究も根気がいる。カテーテルを使わずに動脈の石灰化がわかったり、採血をせずとも血糖がわかったりすることは患者さんの負担を減らすだけでなく予防医学にも大いに役立つ。

またそれらがAIに生かされる日も遠からず来るであろう。ウエアラブルも進化している。久保氏自身は臨床で有効活用することを一番に、最新のバイオマーカーに注目し続けたいとまとめた。


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