ローズマリー由来のカルノシン酸の機能性〜東京工科大学先端食品セミナー

2017年8月25日(金)、東京工科大学蒲田キャンパスで、「東京工科大学先端食品セミナー-機能性表示食品の現状と未来-」が開催された。この中から、佐藤拓巳氏(東京工科大学応用生物学部教授)の講演「ローズマリー由来のカルノシン酸の機能性研究」を取り上げる。


アンチエイジングに欠かせない植物

ローズマリーは肉料理の香辛料として頻繁に使用され、ハーブの中でも知名度が高く人気がある。成分が揮発することにより独特の香りが楽しめ、精油としても人気が高く、アロマセラピーの材料としてよく使用される。

ローズマリーに健康効果があることは諸外国でもよく知られ、一部の国では医療の分野でもよく使用されている。ちなみにローズマリーの和名は「万年郎」で「永遠の若さ」という意味を持つ。

ローズマリーは化粧品成分としても使用され、「若返りの水(ハンガリアンウォーター)」といわれている。

ローズマリーをアルコールにつけて蒸留した化粧水で、ハンガリー王妃が好んで使用したという逸話もあり、まさにアンチエイジングに欠かせない植物としてよく知られている。

アルツハイマー型認知症に期待

つまり、ローズマリーは食べても塗っても体に良い作用をもたらす植物であるということだ。

このような特徴を持つローズマリーは、ベルベノン、ロズマリン酸、ルテオリン、ゲンクワニン(フラボノイド)、カルノシン酸などによって構成されている。

中でもカルノシン酸は脳細胞を保護する働きがあることが知られている、と佐藤氏。

カルノシン酸はローズマリーの最も主要な有効成分の一つだが、カルノシン酸そのものに活性はなく、生体内に入ることではじめて活性型に変化する。

そのため毒性が現れにくく、薬効が現れやすいと佐藤氏。2008年に、佐藤氏らの研究グループは、脳のKepa1/Nrf2という経路をカルノシン酸が活性することを報告している。

それ以来、アルツハイマー型認知症にローズマリー由来のカルノシン酸が有効に働くのではないかと、臨床も含めて多くの研究が行われている。

カルノシン酸の脳保護機構

カルノシン酸を体内に投与すると、実際に脳に到達し、脳神経を保護することがマウス実験ですでに解明されている。

体内に入ったカルノシン酸は、体内で酸化してキノン型カルノシン酸になり、さらにキノン型カルノシン酸によってグルタチン酸の代謝活性が行われ、脳保護に繋がるという機序である。

例えば、脳梗塞を起こしているマウスに、カルノシン酸を投与すると、梗塞を起こしている部分が有意に小さくなっていくことが報告されている。

しかし、ヒトに対しては脳にまで到達させるのは容易とはいえない。カルロシン酸の薬剤を作ることが一番簡単だが、これでは合成になってしまう。

またローズマリーの乾燥葉を摂取するとなると、基本的にはそのままでは苦くて食べられない。

また脳細胞での薬効・吸収率・乾燥葉に含まれるカルノシン酸の量を考慮すると1日に5gのローズマリー乾燥葉を摂取しなければ効果が得られない計算になる。

1日に5gのローズマリー乾燥葉とは市販のローズマリー香辛料1本と同じサイズであまりにも現実的でない。となると、ローズマリー抽出物(脂溶性分画したもの)が有効となる。

脂溶性分画したローズマリー抽出物であれば、1日0.5gの摂取(一般的なカプセルや錠剤にすれば1日4粒程度)で済む計算になり、現実味を帯びてくる。しかし有機溶液を使用せず、コストを抑えて脂溶性分画を行うには相当の技術と努力が必要であり、今は実現していない。

またこれが実現したとしても新たな食品添加物としての登録の必要性など新たな課題も多くある、と佐藤氏。

P62というタンパク質の誘導に関与

それでもローズマリー由来のカルノシン酸の脳の保護機能については、新たなメカニズムも解明され、期待が寄せられている。最も注目されるのがP62というタンパク質の誘導に関与していることがわかったこと、と佐藤氏。

P62は、オートファージを活性するタンパク質で、これにより異常なタンパク質が除去される。正常なタンパク質がストレスなどによって変性し異常タンパク質に変化すると、通常はオートファージのメカニズムによって除去される。

しかしこの異常タンパク質の除去が何らかの理由で間に合わず蓄積されると凝集体になり、また毒性を持つため、周囲の細胞や神経にも異常を引き起こす。

アルツハイマー型認知症の原因ともされるβアミロイドもまさにそれで、変性したタンパク質の凝集体であるβアミロイドは老人斑とも呼ばれ、ニューロンの変性などを引き起こす。P62タンパク質はこれらの変性タンパク質の除去に働きかける。

このP62タパク質がしっかり発生すれば、オートファージが活性し、蓄積や神経変性と言った悪影響を低減させることにつながる。カルノシン酸には、まさにこのP62の誘導作用があることが解明された、と佐藤氏は解説。

リウマチや美白などへの作用も

またカルノシン酸はtauのリン酸化を阻害することで、記憶力の低下を抑制する働きも示唆されるという。

2003年ごろから、アルツハイマー型認知症だけでなく、U型糖尿病や、あらゆる老化現象が「慢性炎症」が原因、といわれるようになってきているが、カルノシン酸は血中のサイトカインに対する抑制作用があるため、いわゆる「炎症」を抑える働きがあるのではないか、ともいわれている。

他にもカルノシン酸を摂取した肥満マウスが体重減だけでなく、脂肪肝の顕著な改善などが見られている。

特にアルツハイマーについては社会的関心が高く、ローズマリーを用いたアロマテラピーが効果的といわれているが、実はカルノシン酸には揮発性はない。

そのため匂いを嗅ぐことはできないし、嗅ぐことで体内に吸収されることもない。塗るか食べるかのいずれかではじめて体内に入るのでそこは注意して欲しい、と佐藤氏。

他にも、リウマチへの塗布の効果、また美白作用が高いことなどもある。ただし、健康機能を保証できる濃度のカルノシン酸を摂取、あるいは塗布するためには、やはりローズマリーの脂溶性分画の方法を開発するしかない、とまとめた。


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