ホップ苦味成分の機能性研究と食品素材としての開発〜東京工科大学先端食品セミナー

2017年8月25日(金)、東京工科大学蒲田キャンパスで、「東京工科大学先端食品セミナー-機能性表示食品の現状と未来-」が開催された。ここではキリン(株)R&D本部 健康技術研究所 主任研究員 形山幹雄氏の講演「ホップ苦味成分の機能性研究と食品素材としての開発」を取り上げる。


生薬としても知られる

ホップは、ビールに爽やかな苦味や特徴的な香りをもたらす成分で、私たちにとって非常に身近な存在である。

ビールの魂といわれるだけあって、ホップがなければビールは成り立たないほどだが、そもそもホップとは植物であり、ヨーロッパではビールの成分としてよりハーブとして知られている。

さらにこのホップにはさまざまな健康価値があることが古来より知られている。国によってはハーブというより生薬として知られているほどだ、と形山氏。

日本でも栽培されており、3月頃に苗を植え、ゴールデンウイークあたりに芽が大きく成長し、つるが伸びてくる。成長したホップは松ぼっくりのようなグリーンの「毬花」と呼ばれる実をつけ、この毬花がビールのホップとして使用される。

最終的には8月のお盆頃に収穫されるため、秋にビールの新商品が多く出ることとも関係している。ホップの健康効果はよく知られている一方で、それはあくまで伝承レベルであり科学的な研究は残念ながらあまり行われてこなかったという。

そのためキリンが先陣を切って研究をスタートさせたという経緯がある。

脂質代謝を改善する可能性

そもそもホップには苦味がある。苦味は一般的に人間が好まない味である。しかしビールの苦味は例外的に好まれる苦味であり、この特徴がヒントとなり研究がスタートしたという。

ホップの毬花の真ん中にはルプリン腺と呼ばれる場所があり、そこにα酸や香り成分が含有されている。

α酸はビールの苦味成分であるイソα酸に変換されるが、このα酸または変化したイソα酸に特異的な機能性がないかを調べた。

その結果、イソα酸には細胞内代謝に関わるPPARαとPPARγレセプターの活性作用があることがマウスの試験で認められた。

また市場でも「体脂肪低減」関連のニーズが高いことから、試験官試験を繰り返したところ、イソα酸にはインスリン停滞性の改善、脂質代謝を改善する可能性が示唆されることが示されたという。

その後マウスによる動物実験でも、U型糖尿病のマウスの血中遊離脂肪酸の低下、血糖値の低下、体重減などが見られた。

さらに軽度のU型糖尿病患者のヒト試験によっても白色脂肪細胞のサイズの縮小や体重減少が見られた(ヒト試験は1日32mgの摂取を12週)。

ただし皮下脂肪については有意差は見られなかったという。

体脂肪を減少する作用

イソα酸の機能性を生かした商品展開を考えたいところだが、有効と考えられる32mg/日を摂取するのはまず「苦い」ということがある。

また成分としても安定性が悪いなど、課題が山積みであったという。

しかし古くなったビールは苦いが非常にまろやかになることに着目し、ホップを熟成させると機能性にどう変化が起こるか、というところで研究を続けた。

すると熟成させ水抽出した「熟成ホップエキス」は苦味が大きく、また製造法も「熟成→水抽出→遠心分離→濃縮→殺菌→充填」と極めてシンプルで、抽出された成分は酸化仕切っているため安定性も非常に高いことがわかったという。

そこでこの「熟成ホップエキス」を「熟成ホップ由来苦味酸(MHBA)と命名し、マウスと人による「体脂肪低減作用」について調査を行った。すると意外なことがわかったという。

ビールに含まれるイソα酸には細胞内代謝に関わるPPARαとPPARγレセプターの活性作用があり、代謝を活性することが引き金となり体脂肪減少作用が起こる、という作用メカニズムが明らかとなっている。

しかし、MHBAの場合、PPARαとPPARγの活性は見られず、また摂取してもほとんど体内に吸収されていないにもかかわらず、体脂肪を減らす現象が認められたという。

MHBA、自律神経を活性

さらにこれについて調査を行ったところ、MHBAは自律神経を活性させていることがわかり、その結果、体脂肪低減作用が起こっていることが推測された。

実際、MHBAを摂取したヒト試験では、MHBA摂取群は褐色脂肪細胞の燃焼などに関わる交感神経を活性していることがわかった。

また最終的には12週のヒト試験で内臓脂肪、腹部脂肪、トータルの体脂肪減少の作用が見られたという。

ビールはアルコールが入っているため、イソα酸が入っているがその機能は発揮されず摂取しても体脂肪減やダイエットにつながることはない。

しかし、熟成させた抽出成分であれば、製造方法もシンプルでそのため安価で安定した成分供給も可能となる。今後サプリメントや食品での展開を期待して欲しいとまとめた。


Copyright(C)JAFRA. All rights reserved.