子どもの健康と食事・栄養
〜第19回ダノン健康フォーラム


2017年9月9日(土)、有楽町朝日ホールで、「第19回 ダノン健康フォーラム」が開催された。今年は「子どもの健康と食事・栄養」をテーマに4人の専門家による講演が行われた。この中から、女子栄養大学 講師の衛藤 久美氏の講演「学童期・思春期の食生活と心の健康」を取り上げる。


食生活の質、学童期や思春期の子どもに大きく影響

衛藤氏は学生時代からコミュニケーションに関する研究を専門で行っていたという。

中でも家族間のコミュニケーションに強い関心を寄せており、家族のコミュニケーションに欠かせないのが「共に食事をする時間」であったという。

そのことをテーマに論文を書く際、出会ったのが足立乙幸氏の『知っていますか?子どもたちの食卓』という書物であった。

この中で、「一人食べをしている子どもは、イライラするなどの自覚症状を訴えるケースが多い」といったことが報告されていた。

とくに学童期や思春期の子どもにとって、食事内容はもちろん、食生活の質が心身の成長や健康状態に大きな影響を与えることを知るきっかけになった、という。

精神的に不安定になりやすい時期

ここでいう学童期・思春期とは小学校高学年から中学生を指す。この時期、子どもたちはまさに成長期で、筋肉・骨格・内臓・永久歯などが発達し、運動機能も著しく発達するだけでなく、第二次性徴も出現する。

また精神的にも依存心と自立心の芽生えの間で葛藤し、反抗期を迎え、そうでなくとも精神的に不安定になりやすい時期でもある。

子どもの心の健康と一口に言っても、その捉え方も様々である。

文部科学省が平成12年に実施した『児童生徒の心の健康と生活週間に関する調査』では、「自己効力感(やればできると思うプラスの気持ち)」「不安傾向(心配が多いといったマイナスの気持ち)」「身体的訴え(疲労感や腹痛)」「行動(よく喧嘩をするなど)」の4つの指標を用いている。

また、公益財団法人日本学校保健会が2年ごとに実施している『児童生徒の健康状態調査』では「抑うつ・多動・情緒・行為・仲間・向社会性・自尊感情・抑制不安」といった指標を用いており、いずれも「心の健康」を多角的に捉えようと試みている。

朝食の欠食、集中力や運動力を低下

これらの調査の分析で、心の健康状態が良くない児童生徒の割合は小学生から中学生にかけて増加傾向にあること、また心の健康状態と身体の健康状態は密に関係している、ということが分かっている。

例えば、心の健康状態に問題がある児童ほど、腹痛や疲労感など身体的訴えを自覚することが多い。

実際に複数の論文をレビューすると、子どもの心の健康状態と食生活は密接に関連することが見て取れると衛藤氏。

例えば、朝食を毎朝食べる子どもは、時々欠食する(週に6回以下)子どもに比べて「集中力が足りない、素早く動けない」と回答する割合が低い。

さらに、朝食の内容でも「主食・主菜・副菜」を毎日食べている場合、そうでない子どもに比べ「集中力が足りない、素早く動けない」と回答する割合が低いことなどが報告されている。

また、夜食や間食の頻度が多い子どもの方が、少ない子どもに比べて「疲労感」や「忍耐力」といった自覚症状を訴える子どもが多いことも報告されている。

共食で、子供は良好な精神的健康状態に

さらに、家族と食事を共にしているかどうか(共食)も重要なポイントであることがわかっているという。

子どもの良好な精神的健康状態は、家族と一緒に食事を食べる「共食」の回数が多い方が正の関連がみられる。

一方、一人で食事をする「孤食」の回数が多い方は負の関連がみられることがわかっているという。

しかし、共食であってもその時間や雰囲気が子どもたちにとって安らげるものでない場合、共食で得られるメリットは少ない。

実際、「家族との食事が安らぎの場ではない」と回答した中学生は「安らぎである」と回答した中学生に比べ、「イライラ感、根気のなさ、登校忌避感」がある割合が多いことが報告されている。

安らぎと心地良さを与える食事の場を作る

このように、食事のリズム、内容、誰とどんな雰囲気で食事を食べるかが、子どもの心の健康と密接に関係し、さらに心の健康が身体的健康状態をも左右するといえる。

そのため、学童期から思春期の食習慣はその後の人生にも深く影響を及ぼすことも見逃してはならないと衛藤氏。

例えば、この時期から朝食を欠食する子どもは、大人になってからも朝食が食べられなくなるケースがほとんどという。

学童期や思春期の子どもの心の健康は、体、行動、精神、発達と色々な側面から理解する必要があるが、この時期の子どもたちにとって食事は単なる栄養補給だけでなく、心の安らぎを感じられる内容や場であることが重要である。

またこの時期に正しい食育を行うことで「楽しく食べる」ことが身につき、それが生涯にわたるQOLの向上や社会的、精神的健康にもつながる、と衛藤氏。

食事の内容はもちろん、安らぎと心地良さを与える食事の場を作ることが、成長期の子どもたちにとって最も大切なことではないか、とまとめた。


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