ラクトフェリン、「脳・腸・皮膚相関」に良い影響〜内閣府 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) 公開シンポジウム

2017年11月30日(木)、有楽町朝日ホールにて「内閣府 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) 公開シンポジウム」が開催された。この中から、高山 喜晴氏(国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 畜産研究部門)の講演「脳・腸・皮膚の相互作用を利用した精神的ストレスを緩和する機能性表示食品素材の開発」を取り上げる。


脳と腸は密接に関係

精神的なストレスが消化管の機能を低下させることはよく知られている。例えば、ストレスを感じた直後に胃が痛くなったり、下痢をしたりする。

近年の研究では心理的な苦痛によるストレス反応が、交感神経や内分泌系を介し腸にダイレクトに伝達されるメカニズムがわかっている。

逆に、腹痛・下痢・膨満感といった腸管が受けた不快な感覚が中枢神経を介して脳に伝達され、それがさらにストレスを悪化させることも解明されている。

こうした脳と腸との密接な相互関係は、「脳・腸関係」と呼ばれ、多くの研究が行われている。

成人の消化管、約100兆の共生細菌が生息

腸の消化や排泄はいろいろなメカニズムで起こるが、その一つに腸内細菌の影響がある。

胎児は母体の中では無菌状態である。しかし、生まれてからは皮膚や腸管、口腔内などにさまざまな細菌が接触し、やがて定着することで細菌叢が形成されていく。

成人の消化管には約100兆、約2kgを超える共生細菌が生息、腸内細菌叢はヒトの体内において最大の細菌叢であることがわかっている。

腸管の上皮細胞や消化管内の分泌細胞から産生されるホルモンやペプチド、IgA(免疫グロビリンA)といったものが、腸内細菌の生育に影響を与え、腸内細菌叢を変動させていることも明らかになっている。

脳・腸・腸内細菌相関

また、腸内細菌の産生する短鎖脂肪酸などの代謝産物やリポポリサッカライドなどの成分は腸内間の内分泌系や腸管の免疫系を刺激することで腸の機能へ影響を与えている。

つまり、腸内細菌叢は「脳・腸相関」に影響を与えており、「脳・腸・腸内細菌相関」の捉え方のほうが正しいと考えられるようになっている。

さらに皮膚のバリア機能も精神的ストレスや腸内細菌叢の変動に影響を受け、その機能や状態が変化する。そのためこちらも「脳・腸・皮膚相関」といわれるようになっている、と高山氏。

こうした脳・腸・皮膚・腸内細菌の相互作用を利用し、精神的ストレスを緩和させる機能食品の開発ができないか、という研究を高山氏らの研究チームが行っているという。

ストレスで腸内細菌の数が減る

研究では、まずはマウスに意図的にストレスをかけ、「社会的敗北ストレスモデルマウス」を作成した。

このストレスモデルマウスの腸内細菌叢の変動を解析すると、糞便中からある種の腸内細菌が減ったり増えたりしていることが確認されたという。

ストレス軽減効果が期待できる機能性食品素材としては、母乳に多く含まれ、乳児の免疫を高める成分として知られるラクトフェリンを使った。

ラクトフェリンは細菌の増殖に必要な鉄と結合しやすい性質を持つことから、鉄が奪われた細菌は増殖することができなくなる。

そのため静菌活性や抗菌活性を示すことが知られるが、これはビフィズス菌などの善玉菌には見られない特徴である。

ラクトフェリン、精神的ストレスを抑制

そこでヒト由来の真皮培養系細胞でラクトフェリンの機能評価を行った。その結果、ラクトフェリンは細胞層のバリア機能の指標である経上皮電気抵抗値の上昇を促したり、インボルクリンやフィラグリンといった角化細胞の分化マーカータパク質の発現を促したりした。

こうしたことから、ラクトフェリンが角化細胞の分化を促し、表皮のバリア機能を更新させる機能を有することが分かったという。

この結果をもとに、ヒトにおいてもラクトフェリンがストレス軽減効果を発揮するかどうかについて、計算問題をさせるというストレスをかけた場合、ラクトフェリン摂取群とプラセボ群では唾液中のアミラーゼの濃度がどのように変化するかを調べた。

その結果、ラクトフェリン摂取群ではアミラーゼの上昇が有意に抑制され、ラクトフェリンの精神的ストレス抑制効果が示唆されたという。

まだ研究段階だが、ラクトフェリンが「脳・腸・皮膚相関」に良い影響を与える機能性成分の1つである可能性は十分に高い。

健康食品などで有効利用される可能性や有効性にも期待が持てる、と高山氏はまとめた。


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