ラクトフェリンに新たな炎症抑制メカニズム〜第8回 慶応義塾生命科学シンポジウム

2017年12月6日(水)、慶應義塾大学にて「第8回 慶応義塾生命科学シンポジウム 食と医科学フォーラム〜食・運動・ごきげんでアンチエイジング」が開催された。この中から、平橋 淳一氏(慶応義塾大学医学部総合診療科 専任講師)の講演「生体内多機能物質ラクトフェリンによる新たな炎症抑制メカニズム」を取り上げる。


ラクトフェリン、寿命延伸の可能性

免疫系が間違って自分の組織を異物と認識し攻撃して起こる自己免疫疾患の一つに、自己免疫性血管炎がある。

これにより免疫系の細胞が血管を傷つけたり破いたり血栓を作ったりする。

これがループスジン炎、敗血症、深部静脈血栓症などの原因になっているが、近年では災害時などに増えるエコノミー症候群の原因としても考えられている。

この自己免疫性血管炎のモデルマウスに、炎症を抑制し寿命を延伸する物質がないかを探索した。

そしてその過程で、生体内に存在して多機能性物質と呼ばれ、既に口腔内の衛生や腸内環境の改善などに働きかけるラクトフェリンに寿命延伸の可能性があることを見出したという。

ラクトフェリン、自己免疫疾患を制御

ラクトフェリンは母乳(特に初乳)、涙、汗、唾液などの私たちの分泌液に含まれ、特に初乳に多く含まれることで赤ちゃんの免疫系を強化していることがよく知られ、好中球細胞質にも含まれることがわかっている。

では、ラクトフェリンがどのように自己免疫疾患を制御するのか。そのメカニズムを解明するため、自己免疫疾患の主役である白血球の機能の一つとされるNETs 産生にどう関与しているかに注目したと平橋氏。

NETsとは白血球の一つである好中球が刺激を受けることで、中から花火のようにスパークして放出されるDNAなどを含む核成分で、2004年に見出された新しい現象のことである。

好中球は食細胞として、あるいは脱顆粒球として殺菌を殺すことが知られていたが、NETsは刺激に反応して細胞外へ核成分を網目状に放出されるというメカニズムである。

このメカニズムそのものに非常に強い殺菌作用があり、このメカニズムこそが感染防御に働いていることが確認されている。

免疫疾炎症疾患の治療でラクトフェリンが期待

免疫疾炎症疾患の治療は、現在のところステロイドか免疫抑制剤が主流だが、副作用の問題が解決されていない。

安全性の高い炎症性疾患治療薬の登場が待たれるところで、今後ラクトフェリンに期待が集まるのではないか、と平橋氏。

ただ、NETsが過剰に産生されたり、通常働きを終えたNETsはすぐに消滅するが、何らかのエラーで分解されず体内に残ってしまう制御不全が生じると自己免疫疾患や血栓性疾患になることが報告されている。

これらの背景をもとに、好中球内でラクトフェリンがNETsとどのように関わっているかを確認する試験を行った。

  その結果、ラクトフェリンは核成分からNETsを放出する直前に核膜エリアに集まることが確認できたという。

ラクトフェリン、炎症疾患の新薬になる可能性

さらに、細胞(好中球)に事前にラクトフェリンを投与しておくと、核膜は膨張はするがNETsを放出することなく抑制されることも確認できた。これはラクトフェリンが持つプラス電化によるメカニズムである。

つまり、免疫システムとして必要なNETsだが、過剰になると血栓や自己免疫疾患の原因になる。

これについては、好中球の細胞内に元々存在しているラクトフェリンをさらに添加することで抑制できる可能性があることが見出されたという。

この一連の研究成果により、ラクトフェリンがNETsに関係する様々な炎症疾患に対する新薬になる可能性も考えられる。

そのためにもサプリメントではなく、生体に投与されたラクトフェリンが安定して薬理活性を持つようにラクトフェリシンなどのペプチドの作成などに着手しているとまとめた。


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