ヨウ素の多彩な用途、ヨウ素研究の最前線
〜CPhI japan 国際医薬品開発展


2018年4月18日〜20日、東京ビッグサイトにて「CPhI japan 国際医薬品開発展」が開催された。同展示会セミナーから海宝 龍夫氏(千葉大学客員教授)の講演「ヨウ素利用研究の最前線」を取り上げる。


日本はヨウ素の資源国

ヨウ素が、実際にどのように私たちの生活に役立っているかはあまり知られていない。

特に近年は「放射性ヨウ素」が話題となっており、ネガティブなイメージを持っている人もいるかもしれない、と海宝氏。

しかし、ヨウ素は放射性ヨウ素だけでなく幾つかの種類がある。実は日本はヨウ素の資源国だということを知らない人も多い。

このヨウ素という資源をいかに利用するか、海宝氏は日々その研究をしているという。

そもそもヨウ素は1811年にフランスで発見された。原子番号は53番で元素記号は「l」。ナポレオン戦争の際に硝酸カリウムが大量に必要となり、海岸で海藻の灰を作り、ヨウ素を生産していたのが始まりであった。

そうした過程で、クールトアというフランスの科学者によりヨウ素が発見された。常温ではヨウ素は黒から紫がかった結晶の形をしているが、温めると紫色の蒸気が発生するという。

「かん水」を原料にヨウ素が作られる

ヨウ素の特徴としては、比重が4.9と重く金属に近い。また、融点が113.7度と低めである。フランスで発見されたヨウ素だが、その後ヨウ素の主要生産地はスコットランドやアイルランドといった海藻がたくさん取れるところに移動していった。

長い間、ヨウ素は焼却炉で海藻を燃やして生産されるのが一般的で、日本では1889年頃から千葉や神奈川、三重などで海藻を原料としてヨウ素の製造wを開始。これがのちの味の素、昭和電工といった化学企業のルーツになった。

その後、現在の最大のヨウ素生産国であるチリで「チリ硝石」の中にヨウ素が発見され鉱石から採取する方法が開発された。また、天然ガスと一緒に汲みあげる方法も日本やロシアで開発された。

塩分を多く含んだ水を「かん水」と呼ぶが、これにヨウ素が多く含まれており、日本では「かん水」を原料にヨウ素が作られている。

日本での生産増は困難

日本では江戸時代、千葉県大多喜町で天然ガスが見つかり、天然ガスから汲みあげる方法も採用された。

1935年頃にはかん水からヨウ素が「胴法」という方法で製造されるようになり、その後さらにいろいろな採取方法が研究開発され、現在は「ブローアウト法(揮発)」と「イオン交換樹脂法(吸着)」が主要な製造方法になっている。

世界ではヨウ素は年間3万トン以上生産されているが、日本が30%、チリが60%の生産を担っている。

チリのヨウ素は鉱山から採取されるが、日本はかん水から生産されるため、地盤沈下の問題が指摘されるようになり、生産量が増えなくなっている。

しかしチリでももちろん、産出に必要な大量の水の調達の問題を抱えており、いずれの産地でも急激に増産することが難しいという。

ちなみに日本国内では千葉が国内生産量の75%を占め、宮崎と新潟が千葉に主要生産地になっている。

医薬品から偏光フィルムまで多彩な用途

貴重な資源のヨウ素だが、現在は量産の課題があるため、リサイクルヨウ素にも注目が集まっているという。

ヨウ素の用途として最も知られるのが「X線造影剤」に使われるもので、全体の22%を占めている。次にヨウ素の高い殺菌効果が利用された抗菌薬・防カビ薬などでの利用が14%。

また、よく知られる「イソジン(うがいぐすり)」にも10%のヨウ素が含まれている。

他に医薬品としては全体の12%(甲状腺ホルモンや目薬、不整脈の治療剤として)、さらに農薬などでも使われ、近年は液晶テレビやPCで使われる偏光フィルムとしての用途が12%と伸びているという。

また、知られていないところではタイヤの安定剤としても使われており、まさに私たちの日常生活を支える存在だと海宝氏。

近年は「超原子価ヨウ素酸化剤」に注目が集まっているが、金属触媒に比較して毒性が低く安全であること、化合物によっては回収やリサイクルができるという特徴がある。また医薬品などに使っても毒性が低いため人気となっているという。

高付加価値ヨウ素製品を開発

また、「ハロゲン結合のヨウ素」も新しい研究分野になっている。甲状腺ホルモンにも「ハロゲン結合」が関与しており、この結合が「抗がん剤」に利用できると海宝氏。

このハロゲン結合の研究が進むにつれ、ヨウ素を利用した医薬品や農薬の開発がますます広がる。そして、最も注目されているのが「リビングラジカル重合触媒」というヨウ素の新たなあり方だという。

これは「ペロブスカイト太陽電池」という新たな太陽光電池に利用されており、この発見をした桐蔭横浜大医用工学部の宮坂力特任教授は2017年のノーベル賞の受賞有力候補として話題になった。

市販の太陽電池のエネルギー変換効率は現在約25%となっているが、ペロブスカイトでも22%と追随する勢いで研究開発が進んでいる。

既存の太陽電池とは異なり、ガラスなどに塗膜することで簡単に太陽電池ができるため、コストや効率の観点からも新たなエネルギーとして期待されている。ヨウ素の新たな用途として今後注目してほしいと海宝氏。

千葉ではヨウ素が天然資源としてたくさん採取できるため、この資源を国産技術でさらに効率的に生産していくとともに、高付加価値ヨウ素製品を開発。

そして、ヨウ素回収技術(リサイクル)の開発も高める目的で、2018年の5月にヨウ素関連研究センターが新しく作られるという。

日本の資源の一つであるヨウ素について、一般の人にも理解してもらいたいと海宝氏はまとめた。


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