黒酢の脂肪細胞におよぼす作用
〜第5回日本黒酢研究会


2018年6月22日(金)、早稲田大学日本橋キャンパス大ホールにて「第5回日本黒酢研究会」が開催された。この中から、田中 理恵子氏(神奈川工科大学 応用バイオ科学科 助教授)の「脂肪細胞における熱産生と食品成分の機能」を取り上げる。


ベージュ脂肪細胞が研究対象に

ヒトの脂肪細胞には脂肪(エネルギー)を蓄える「白色脂肪細胞」と、脱共役たんぱく質UCP1を介して、熱産生を促す「褐色脂肪細胞」がある。

褐色脂肪細胞の体積が多いほど、BMI値が低く、褐色脂肪細胞が「抗肥満」の鍵であることが知られ、盛んに研究されるようになっている。

2012年には、白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞の共通の「前駆細胞」からも、褐色脂肪細胞と同様に熱産生機能があることが報告され、この新規の熱産生型脂肪細胞は「ベージュ脂肪細胞」と命名され、研究対象となっている。

ちなみにヒトの場合、褐色脂肪細胞は肩甲骨周りに、白色脂肪細胞とベージュ脂肪細胞は鎖骨周りに多いこともわかっている。

近年、PGC-1αと呼ばれる転写因子が、ベージュ脂肪細胞の分化と熱産生において重要な役割を果たしていることが解明された。

さらにPGC-1αは活性化型となり、細胞の核内へ移行してさまざまな転写因子と結合し、熱産生関連遺伝子の転写を活性化することがわかってきた、と田中氏。

たんぱく質の発現量、黒酢で有意に増加

鹿児島県内で伝統的な壺作りで製造されている米黒酢には、抗肥満効果や抗糖尿病効果があることが報告されているが、この黒酢に含まれる成分にもPGC-1αの遺伝子を発現誘導の可能性があることが報告されている。

田中氏らの研究グループは、黒酢が熱産生脂肪細胞の分化に与える影響についての研究を報告した。

実験では坂本醸造樺供の黒酢濃縮液(酢酸を除去して純粋に溶解した10倍濃縮液)を試料として用い、マウスの白色脂肪前駆細胞に黒酢濃縮液を濃度0〜0.1%となるように添加し、培地交換を行いながら10日間培養した。

その結果、PGC-1αとUCP1といったたんぱく質の発現量は、黒酢の添加によって有意に増加したことが確認された。

黒酢特有の成分に抗肥満作用

さらに黒酢の添加によって分化した細胞において、脂肪細胞の小型化やミトコンドリア量の増加も確認され、これらの結果から「壺作り米黒酢に含まれる成分がPGC-1αの活性化を介して、脂肪細胞における熱産生の促進を促す可能性がある」とした。

この試験報告について、会場から「黒酢ではなく酢酸(いわゆるお酢)にも抗肥満作用が報告されているが、今回の試験は黒酢特有の現象か」という質問の声があがった。

これに対し、「酢酸の抗肥満作用は一般的に交感神経を刺激することによると考えられているが、今回は酢酸を除去した黒酢濃縮液による試験であり、酢酸を抜いてもPGC-1αとUCP1の増加が見られたことから、黒酢に含まれる特有の成分によるものと考えられる」と答えた。

また現在は試験管による動物試験のみであり、ヒトの臨床試験を行った場合についても今後考察する必要がある、とした。


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