食と健康、国連・持続可能社会目標〜日本学術振興会 先導的研究開発委員会「食による生体恒常性維持の指標となる未病マーカーの探索戦略公開シンポジウム」

2018年7月20日(金)、東京大学において先導的研究開発委員会「食による生体恒常性維持の指標となる未病マーカーの探索戦略公開シンポジウム」が開催された。この中から、有本建男氏(政策研究大学院大学 科学技術イノベーション政策プログラム教授)の講演「国連・持続可能社会目標(SDGs)と食・健康のイノベーション」を取り上げる。


国連総会で、17の目標(SDGs)設定

2015年の国連総会において、「持続可能な開発目標」が参加している193カ国のすべての国の合意によって決議された。

この「持続可能な開発目標」のことをSustainable Development Goals=『SDGs』という。

途上国と先進国が一緒に、17の目標を達成しようという、21世紀人類全体に共通する壮大なビジョンである。合意された具体的な17の目標とは次の通りである。

1. 貧困をなくそう、 2. 飢餓をゼロに、 3. すべての人に健康と福祉を、 4. 質の高い教育をみんなに、 5. ジェンダー平等を実現しよう、 6. 安全な水とトイレを世界中に、 7. エネルギーをみんなに そしてクリーンに、 8. 働きがいも経済成長も、 9. 産業と技術革新の基盤をつくろう、 10. 人や国の不平等をなくそう、 11. 住み続けられるまちづくりを、 12. 作る責任・つかう責任、 13. 気候変動に具体的な対策を、 14. 海の豊かさを守ろう、 15. 陸の豊かさも守ろう、 16. 平和と公正をすべての人に、 17. パートナーシップで目標を達成しよう

有本氏はSDGs達成のために設けられた国連の「科学技術イノベーションSDGsフォーラム」に2016年の第1回フォーラムから参加し、市民・政治・経済・教育などの各セクターの役割を考案している。

そして、それぞれの目標達成に向けたロードマップの作成や事例を共有するプラットフォームの整備などに携わっているという。

2030年までにあらゆる栄養失調を撲滅

今年6月に3回目のフォーラムが開催、有本氏はそこにも参加し、いよいよ「議論から実行へ」と、行動段階に入りはじめたこと、そして各国の政府や学術界、産業界が本格的に取り組みを実行することが必須であることを感じた、という。

17の目標の中で「健康」に関しては目標の3番目で掲げられているが、2番目の「飢餓をゼロ」にするという目標も大きく関与している。

この大きい目標の下にはそれぞれ個別目標が設定されているが、「飢餓ゼロ」の具体的な目標の一つに「2030年までにあらゆる栄養失調を撲滅し、若年女子、妊婦・授乳婦、および高齢者の栄養ニーズへの対処を行う」というもの。

健康リスクの早期警告

また、「食料適正価格の実現」「小規模食料生産車の所得倍増」などが盛り込まれており、「健康」の中でも「健康リスクの早期警告」「リスク管理のための能力強化」などが掲げられている。

日本学術振興会が提唱する「未病マーカー戦略研究」はこうしたSDGsの目標と深く関与している、と有本氏。

「未病マーカー戦略研究」とは、これまでは病気と未病の境界領域である人へのマーカーが主流であったが、これからは幼児から高齢者まですべての人々において「自覚症状はないけれど身体・心理状態に異常な兆候があるかどうか」をより的確に把握するための指標を研究し、確立するというものだ。

この戦略研究が推進されれば、21世紀の人の健康維持と増進には大きな貢献ができるだけでなく、SDGsの目標達成も叶うであろう。

高齢化は世界的な課題であり、「健康寿命」ではなく「健康労働寿命」を伸ばすことが急務とされているが、そのためにも人の持つ生体恒常性に注目し、恒常性維持の指標となる未病マーカーについてボトムアップで学術研究を行い、エビデンスを蓄積していくことは極めて重要である、と有本氏。

新たなイノベーションが期待

SDGsは地球規模の問題を解決するだけでなく、それによって各国の科学技術のイノベーションシステムやこれまでの常識を覆すような推進力になることも期待されているという。

例えば、大学では学部の垣根を超えた研究が必要となるし、国としては政治のトップダウンではなく、企業や市民からのボトムアップによる相互協力が不可欠であろう。

これからはSDGsの時代といわれる。SDGsのゴール達成に向けて、食と健康、医学と農業、企業と市民が連携し、新たなイノベーションが起こることが期待されている、とまとめた。

Copyright(C)JAFRA. All rights reserved.