成長期のアスリート、食生活の問題点
〜第20回ダノン健康フォーラム


2018年9月8日(土)、よみうりホールにて「第20回ダノン健康フォーラム」が開催された。この中から、海老 久美子氏(立命館大学 スポーツ健康科学部 教授 )の講演「成長期アスリートの食生活〜実例紹介と課題についての一考察」を取り上げる。


骨密度が最大に高まるのは18歳〜20歳頃

アスリートの食事には大きく分けて3つの意味がある。まずはコンディショニングのため。食べることで日々のトレーニングに耐え、疲労からの回復力をつける。

2つ目は支配や競技に特化した能力を発揮するため。これまで培ってきた体が本番で最大のパフォーマンスを発揮できるようにする。

3つ目はスポーツに伴い生じやすい怪我や故障の予防と改善のため。このように、アスリートにとっての食事とは、「コンディショニング」「パフォーマンス」「怪我の予防と回復」に分けられる。

しかし、第二次成長期に当たる小学生高学年から中学生の時期の食事は、アスリートではなくとも非常に重要で、その質がその後の人生を大きく左右する。例えば、骨密度が最大に高まるのは18歳〜20歳頃で、以降は維持と低下の時期に入る。

多くの成長期のアスリートが栄養不足

つまり、18歳くらいまでに骨密度を十分にあげる食事をしておかなければ、将来骨粗しょう症が起こるリスクが増える。

そのため、スポーツ栄養学の中でもジュニアアスリートの成長期の食事についてはもっと考慮されるべきだと海老氏は話す。

成長期のアスリートの食事で一番の問題というと「栄養素やエネルギーの不足」である。

成長期のアスリートには、トレーニングで消耗するエネルギーと栄養素に加え、日常生活でもそれらが必要となる。しかし、多くの成長期のアスリートが栄養不足を起こしている。

特に、審美系、体重階級制、持久系スポーツでは過度なトレーニングに加え、痩身体系を過剰に求める傾向にあるため、利用可能なエネルギーが不足しがち。特に女性アスリートの場合は、無月経や骨形成抑制などが起こりやすいことが報告されている。

これに「エネルギー不足」を加えたものが女性アスリートの三主徴(FAT)と呼ばれ、専門家や研究者も警鐘を鳴らしている。

中学生の栄養教育が重要

こうしたことから、海老氏の研究グループは女子長距離選手におけるFAT発生状況とそれまでの食生活に関する考察を行った。多くのアスリートが食事日記を記録しているが、この研究も対象アスリートの食事記録をもとに行った。

それによると、高校時代にトップレベルの長距離選手でも、大学入学後にスポーツ障害(疲労骨折など)が発症することで記録が伸び悩むことが多い。

しかし、選手の多くがすでに高校時代に無月経などのFATを発症していることや、疲労骨折を受傷したほぼ全員の選手が長期にわたる減量を実施していることがわかった。

つまり、競技力向上のために早期により実施された食事制限が、結果として競技寿命を縮めたり、パフォーマンス向上を妨げている可能性が高い。

この考察から、海老氏は中学生での栄養教育が重要だと指摘。というのも、高校時代にFATを発症している人のほとんどが中学時代に食事制限を行っており、この時の習慣がその後も継続しているからだ。

中学生頃に第二次成長期を迎え、身体は急激に変化する。この時期に骨量をしっかり獲得し、FAT を起こさないように、また過激な減量が習慣とならないようにしなければ、その後のスポーツ人生だけでなく、成人した後の身体と健康状態にも悪影響を及ぼすことになる。

疲労骨折、14〜16歳の発症率が高い

また疲労骨折は14〜16歳といった成長期に発症する率が高い。これは骨が未熟な時期に過度な運動をしていることが主な原因である。

特に疲労骨折を起こしやすい部位の一つに腰椎がある。この場合、その後のスポーツ人生が絶たれてしまうこともある。

エネルギー不足(Low Energy Availability)によって起こる他の障害としては低BMI、血中ビタミンDの低下、筋肉疲労の蓄積、初潮の遅延などもある。

一方、野球などの競技の場合、男子アスリートの多くは増量を望むケースも多く、それに該当する子どもは非常によく食べるため、この場合はエネルギーを充分補っているイメージがある。

しかしバランス面が悪いことが多く、ビタミンDやカルシウムの不足により疲労骨折などの故障を起こしているケースが多数報告されているという。

また別の問題で「食トレ」といったことで「食べる」ことをノルマにしたり、無理矢理ごはんだけを「1食で3合食べるように」といった、誤った食事指導が未だなされている場合もあるという。

スポーツは人生を豊かにするアイテムの一つであるが、スポーツが食をも豊かにするのが理想ではないか、と海老氏。そのためにスポーツ栄養士の活用などを中心に、ジュニアアスリートの成長と子どもとしての権利を保護できるような食事指導が行われることが望ましいとまとめた。


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