腸内細菌と免疫調整の関係〜第27回腸内フローラシンポジウム

2018年10月26日(金)、ヤクルトホールにて「第27回腸内フローラシンポジウム」が開催された。この中から、Christopher A. Lowry氏(コロラドボルダー大学 アメリカ)の講演「ディスバイオーシス、腸内フローラ・脳・腸連関とメンタルヘルス」を取り上げる。


ストレスと腸内フローラとの関係

病気を治すことではなく、予防することの意義については十分に知られるようになり、情報も研究も進んでいる。

しかし、病気の中でも「精神疾患」や「メンタルヘルス」に関する分野についてはまだまだ研究も情報も少ないとローリー氏。

ローリー氏は人がストレスにさらされた時、腸内フローラはどのような影響を受けているのか、腸内フローラのディスバイオーシスは精神疾患やメンタルヘルスにどのような影響を与えるかについて研究を重ねているという。

またこの研究成果を、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症した退役軍人の免疫調整に役立てる臨床試験も行っている。

今や、特に先進国で精神疾患に悩まさている人々は増加の一途のため、他の疾病と同じように、予防や根治につながるメカニズムを確立させたいとローリー氏はいう。

精神疾患、「免疫調整不全」が起こりやすい

精神疾患といっても、さまざまで、不安障害、摂食障害、うつ病、PTSDなど、それぞれ症状も治療法が異なる。

しかしどの精神疾患を発症しても共通して「免疫調整不全」が起こりやすいとローリー氏。

精神疾患を起こしやすいリスクファクター(要因)としては、遺伝的要素・生活環境(近代化、抗生物質の乱用)など。

そして幼少期の経験(虐待やトラウマ的な出来事など)など複雑だが、免疫調整不全は幼少期に「どれだけバクテリアに曝露しているか」がその発症の鍵となると考えられている。

さまざまな共生菌により精神面の健康維持

特に幼少期、例えば帝王切開による出産や抗生物質の乱用などの経験があり、腸内細菌の種類やバランスがうまく保たれていないと、全身に慢性炎症が起こりやすくなる。そしてその際、精神疾患の発症リスクも高くなることが近年解明されつつある。

衛生状態がそれほど良くない途上国においても、精神疾患を起こしている人は免疫不全による炎症を起こしているという論文や研究もある。

私たちはさまざまな菌とあえて共存共生しなければ精神面の健康も維持できないことが推測されるようになってきている。

そのため、ローリー氏らは微生物(さまざまな共生菌)を「オールドフレンド」と捉え、古来より私たち人間の免疫システムを担ってくれている大切な友人なのだ、と解説する。

炎症性の腸内細菌の増殖を抑制

体内で慢性的な炎症が起こると、精神障害の発症リスクを高めるが、炎症の軽減により、精神障害の予防や治療の可能性がある。

ローリー氏らの研究チームは、ストレスモデルマウスを使った試験で、心理的・社会的ストレスが腸内細菌叢を撹乱し、病原性微生物を増殖させたり、宿主の炎症を誘導することを見出しているという。

また腸内のディスバイオーシスが制御性T細胞を活性化し、抗炎症性サイトカインの産生を増加させることも見出した。

しかし一方で、免疫を調整する生物製剤(乳酸菌由来)であるMycobacterium Vaccae(Mバッキー)の加熱死菌体をストレスモデルマウスに接種すると、PTSD様の症状の進展が抑制されたことも観察された。

Mycobacterium Vaccae接種は、ストレスによって増殖する炎症性の腸内細菌の増殖を抑制したのではないか、という。

免疫を高め精神疾患を予防できる乳酸菌

また、Mycobacterium Vaccae接種は腸内細菌叢に働きかけるだけでなく、脳の海馬にも影響を与えることもわかっている。海馬は不安や恐怖に関連しているため、腸脳相関についてはさらなる研究が必要だという。

私たち現代人は、生活様式を大きく変えてしまったことで、オールドフレンドとの接触機会を失っている。

特にこの50年、オールドフレンドとの共存共生の機会を大きく失ったことと、精神疾患が先進国で急増していることと無関係とは言えないだろう、とローリー氏。

Mycobacterium Vaccae以外にも接種することで、免疫を高めて精神疾患を予防できるような乳酸菌や細菌が見つかる可能性は高い。

また、今社会から求められている「精神疾患の予防法の確立」についても、腸内細菌のディズバイオーシスを解決することが糸口となりそうだ、とまとめた。


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