食のブランド作りで消費者を引きつける
〜第9回慶應義塾生命科学シンポジウム


2018年12月12日(水)、慶應義塾大学三田キャンパスにて「第9回慶應義塾生命科学シンポジウム 食と医科学フォーラム」が開催された。この中から、岩崎 邦彦氏(静岡県立大学 経営情報学部 マーケティング研究室 教授)の講演「顧客を引きつける食のブランドづくり」を取り上げる。


新しい時代の食のマーケテイング

岩崎氏はマーケティングやブランドづくりを専門としているが、今まさに「食」の分野に新たなマーケティングとブランドの構築が求められている、と指摘する。

飽食の時代になり、食の機能性や健康に関する研究も進み、安心・安全・付加価値のある食品はもはや当たり前となった。

「この食品のここが素晴らしいから買ってください!」というやり方では、もはや差別化できず、売り上げ増は見込めないのではないか、と指摘。

では新しい時代の食のマーケテイングとはどういうものか。答えは「引く力=引力」にあると岩崎氏はいう。

これまでの食のマーケティングは「これは美味しい!」「ぜひ食べて!」「健康になるよ!」という「押す力」で行うことがほとんどで、これは企業側の発想であった。

しかしこれからの食のマーケティングは、「食べたい!」「食べてみたい!」と消費者側の立場になって「引く力」で勝負すべきだ、と説明。すでにこれは「観光地」で使われている戦略だという。

ブランドは人の心を動かすエモーショナルなもの

例えば、「京都に来てください」では押す力はない。「そうだ、京都行こう」と消費者の立場に立って引力で勝負しているのが、日本一の観光の街、京都のやり方である。

しかしながら引く力で勝負するには、商品の引力を高める必要がある。ちなみに引力とはブランド力とも言い換えられる。

アップル製品、京都、沖縄、北海道。これらに共通していることは「売り込みが不要」ということ。それぞれブランド力=引力が高いため、放っておいてもマーケット=消費者が動く。

では、ブランドはどのようにして作られるのか?
ブランドというのは、「品質」「機能」「安全性」といったものを超える「何か」で、それは人の心を動かすエモーショナルなものだ、と岩崎氏はいう。

その一つがイメージかもしれない。
例えば、アップル製品といえば「おしゃれ」「スタイリッシュ」「シンプル」「スティーブ・ジョブスの哲学」といったことが消費者の心にパッと浮かび、製品の良し悪しではなくその消費者のイメージによって購買意欲が掻きたてられる。

北海道といえば「大自然」「豊富な食材」「美味しいものがたくさん」といったイメージが消費者の心にパッと浮かぶため、どこで「北海道物産展」をやっても集客に困らない。

一方、例えば「埼玉」「佐賀」「群馬」といって何を思い浮かべますか?とアンケート調査すると大多数が「何も思い浮かばない」と回答するそうだ。

県名としては北海道も埼玉も同じ知名度である。しかし、イメージが浮かぶものと浮かばないものでは雲泥の差が生じてしまう。

「強いブランド」にするための4条件

つまり、イメージがパッと浮かぶものはブランド力があるということで、消費者にスムーズに選ばれる。このことはこれからブランドを構築する上で重要なヒントになる、と岩崎氏。

さらに「強いブランド」にしていくためには4つの条件があるという。以下のようなものである

1、コンセプトが明確でイメージが明快
2、感性に訴求する、心に訴求する
3、他と違う独自のポジション
4、低価格ではない

岩崎氏は現在アメーラトマトというトマトのプロデュースをしているが、トマトといえば「デルモンテ」とか「カゴメ」というすでに強いブランドがあり、「トマト」という広いワードで勝負することはできないと考えたという。

そこで「グルメトマト」というカテゴリーを自ら作り出し、その範囲で1番になるように意識しているという。

つまり、「美味しいトマト」という漠然としたコンセプトではなく「最高品質の高糖度トマト」というより明確なコンセプトを打ち出し、さらに「グルメトマト」という独自ボジションで1番になることを意識してブランディングしているという。

もちろんこのコンセプトやポジションからすれば、アメーラトマトは低価格である必要はなく、プラスティックの宝石箱のようなケースにパッキングすることで、消費者の心にも訴求しているという。

どんなふうに1番になりたいか

このように、コンセプトが明確で、どこでどんなふうに1番になりたいかを決めておくと、生産者側にブレがなくなる。売れないから低価格にしよう、新商品を開発しようという発想にはならない。

お茶の産地として静岡は有名だが、なぜ「京都福寿園 伊右衛門」の方が選ばれるのか。味も品質も変わりないのに、ブランド力のある「京都福寿園」の方が圧倒的に力のある商品だ。

これも「京都」に「美味しい」「抹茶」「和菓子」といったイメージがついているからであろう。

例えば、以下の公式の○○の部分に何を入れれば売れる商品になるか考えてみてほしい。

「商品+○○=満足」
「お茶+○○=満足」
「トマト+○○=満足」

この○○の部分に「美味しい、安全、機能性、低価格」とった言葉を思いついたのであれば、まだ生産者側の発想から抜けていない。

「売る」から、「選ばれる」「引力のある」に

例えば、お茶+「和菓子」=満足、トマト+チーズ=満足という発想ができるようになると、消費者側の視線に立てたことになり、消費者=マーケットニーズを満たすマーケティングができるようになる。

静岡のお茶も販促の鍵はこの発想にあるのではないか。このマーケティング方法は、おそらく食品だけでなくあらゆる場面で活用できるであろうと岩崎氏は語る。

これからの時代は「売る」のではなく、「選ばれる」「引力のある」商品を作る、あるいは商品はそのままでもブランディングをする必要がある。

そして、ますますシンプルなものが強くなっている。わかりやすい。すぐに心に響く。シンプルは最もパワフルでパーフェクトである。

この辺りを心に留めて、今ある商品を真似されないブランド力のある商品、選ばれる商品に高めてほしいとまとめた。


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