お米が健康作りの基本、「糖質制限」に疑問符〜業界活性化特別セミナー

2019年2月7日(木)、主婦会館プラザエフにて「業界活性特別セミナー」が開催された。この中から、柏原ゆきよ氏(一般社団法人 日本健康食育協会代表理事管理栄養士)の出版記念講演「疲れない体をつくる疲れない食事」を取り上げる。


日本は超高齢化社会という問題を抱えているが、解決策の見通しがなかなか立たない。「健康寿命」と「平均寿命」の間に十年の乖離があることもよく指摘されている。

しかし、この乖離も縮まらず、健康へのさまざまな取り組みがさほど成果を上げていないのが現状だ。

とはいえ、私たち一人ひとりができるのは、やはり基本となる「日々の食事」で「健康を作る」ことしかない、と柏原氏。

食や健康の情報は人気が高く、マスメディアでも多く流れている。しかし、情報が多い分、真逆のものもあり、正しい情報なのか判断が非常に難しくなっている。

中でも人気の「糖質制限」は日本人のソールフードである「お米」をも制限するよう指導しており、そのことに柏原氏は疑問を感じているという。

「お米をもっと食べること」を強く推奨

というのも、柏原氏はさまざまな食に関わる活動の中で、「お米をもっと食べること」を強く推奨しているからだ。

高齢者が寝たきりになる原因の1位は脳卒中で、2位が認知症である。つまり脳が健康でなくなった時に寝たきりになる可能性が高いが、脳の健康維持に「食」が大切であることはあまり知られていない。

3位以降には、転倒や体力・筋力の低下といったことが挙がってくるが、筋力や体力が低下する最大の理由は「食が細くなり、しっかり食べられなくなる」ためだ。

脳の健康維持、筋力や体力の維持のためにも、年齢を重ねるほどに「しっかり食べる必要がある」と柏原氏はいう。

もちろん、何かを食べてすぐに脳や筋肉が元気になるわけではない。そのため、「長期的な食の取り組み」が大切だが、すぐに結果が出るもの、目に見えて効果が感じられるものばかりが注目され、「食べない」「カットする」「節制する」といったダイエット法や食事法ばかりが流行りがちである。

ブドウ糖の摂取を減らすと、糖尿病になりやすい

そもそも、脳の健康を維持するのに一番必要な栄養源は「ブドウ糖」であることは誰もが知っていること。

最近、糖質制限の世界ではブドウ糖ではなく「ケトン体」が使われることが啓蒙されている。これは事実であるが、ブドウ糖が体内で枯渇した時の緊急事態のメカニズムであり、脳にとっての最善で安定したエネルギー供給源ではない、と柏原氏。

ブドウ糖が足りていないと、体は筋肉を分解して糖を作り出そうとする。つまり炭水化物のカットは筋肉量や代謝量の減少を招くことになる。

脳にブドウ糖が足りていない状態が続くと、脳に優先的にブドウ糖を供給するために、体の他の組織でブドウ糖を取り込むことを避けようとし、インスリン抵抗性が増えてしまう。

つまりそれだけ糖尿病のリスクが増えることになる。

日本人は米(=炭水化物)を主食としてきた民族だが、米をしっかり摂っていた頃は糖尿病の問題はほとんどなく、むしろ米をあまり食べなくなったあたりから、糖尿病が増えている。それも体のメカニズムと関係しているためだ。

お米、実はタンパク質の供給源

しかも厚労省の調査によると、日本人の一人当たりの摂取カロリー量(日)は、年々減少している。ここ数年は戦後よりも摂取カロリー量が少ない。

この理由は2つある。一つは「一日3食、食べない人が増えている」こと、もう一つは「米の摂取量が大幅に減少している」ことである。

お米はしっかり量を食べると「ブドウ糖」だけでなく、タンパク質の供給源にもなる。実は、タンパク質の供給源の25%は穀類というデータもある。

お米1粒あたりやグラムあたりで見るとタンパク質はさほど含まれていないが、お茶碗1〜2杯食べると、しっかりタンパク質が摂れるようになっている。

しかも肉や魚と違い、お米を多く摂取しても脂質の摂取量が増えることはほとんどない。糖質を増やさずにタンパク源になるのがお米である。

メタボ指導、医療費の抑制には全く繋がっていない

カロリーばかりを考え、ローカロリー=ヘルシーとする傾向が業界全体に蔓延しているが、私たちの周りを見ても、よく食べる人が細かったり、あまり食べていない人が体格が良かったり、必ずしもカロリーと体型は一致していないことが多い。

また健康で長寿な人の多くが「びっくりするほどよく食べて」「楽しく食べている」傾向がある。2008年からスタートした「メタボ指導」により保健指導を受けている人も多いが、残念ながら医療費の抑制にはほとんど繋がっていない。

お米の生産量や流通量が減少したり、価格が崩れていることに危機感を感じるが、これからも「お米をしっかり食べる」「楽しく食べる」ことが「健康を作り、寿命を高める」ことであることを伝えていきたいと柏原氏。

日本人のソールフードである「お米」から健康づくりを考えること、正しい情報を発信すること、そしてお米や食の業界全体を活性させることが日本人の健康につながるのではないか、とまとめた。


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