高齢者の健康と食酢摂取の関係
〜第6回日本黒酢研究会


2019年6月21日(金)、日比谷コンペティションホールにて「第6回日本黒酢研究会」が開催された。この中から、叶内 宏明氏(大阪府立大学 地域保健学或総合リハビリテーション学類 栄養療法学専攻)の講演「垂水研究から見える高齢者の健康と食酢摂取の関係」を取り上げる。


高齢者の医療や栄養を探索するコホート研究

運動・栄養・医療の介入が高齢者の身体機能や認知機能、生活にどのような影響を与えるのか。

これを明らかにするため、とくに高齢化の進む鹿児島県垂水市にて長期観察(垂水研究)が行われている。

垂水市は高齢化率が40%以上で、国内でも高齢者の割合が高い。垂水研究では鹿児島大学と垂水市が協力し、多種職のスペシャリストが集結している。

例えば、問診・血圧・心電図などの医師部門、体組織・運動機能・認知機能などの理学療法部門、口腔内の評価を行う歯科部門、食事内容・カロリーや塩分などを評価する栄養部門、さらに薬の内服状況などを見る薬剤部門がある。

多種職で高齢者の生活状況をリサーチし、高齢者に必要な医療や栄養を探索する、これまでに類を見ない前向きコホート研究になっている。

黒酢摂取と血圧の関係

垂水研究で叶内氏は研究代表者の1人として主に「食事調査」を担当している。

食酢の摂取はヒト介入試験で血圧効果作用を示すことが報告されている。しかし、横断的に食酢の摂取状況と血圧の関係を報告した論文は無い。

そこで研究では高齢者を対象に、食酢および黒酢の摂取状況と血圧の関係について解析することを目的の1つとした。

2017年度に、垂水市に在住する65歳以上の高齢者に呼びかけ、参加した380名を対象にプレ調査を実施。食事調査は簡易型自記式食事歴法質問表(BDHQ)で行なった。

食酢の摂取については、酢飯などの主食から、主菜(酢豚など)、副菜(酢の物)、サラダ(ドレッシング)などをどれくらいの頻度で摂取しているか、また黒酢飲料の利用の有無や摂取頻度について調査を行なった。

また調査とは別に医師による身長、体重、血圧測定などの調査結果と合わせて健康状態を確認した。

すると、鹿児島の特徴なのか、60%以上が「酢」を好む傾向や、女性では「調味料として黒酢を利用する」割合が高いことが分かった。

そして、週に2回以上黒酢飲料を摂取している男性が75%、女性が52%、そして副菜からの食酢の摂取頻度と黒酢飲料の摂取頻度の高い男性において血圧が低いという関係が明らかになった。

副菜(酢の物)の摂取と血圧の関係

また、2018年7月から2019年12月まで垂水市内各地で、計20回にわたる調査において、男性420名、女性371名の合計791名が参加した。

この参加者に、食酢、黒酢の摂取と血圧についてのさらなる調査を行なった。

すると、食酢を用いた副菜(酢の物)の摂取は降圧剤を使用していない男性の血圧(特に上の血圧)と関係していることが見出され、副菜(酢の物)を週に1回以上摂取している男性の血圧はそうでない人と比べて低いという関係が見出された。

これは、副菜を摂取している人の方がカリウムの摂取量が自ずと多くなっていることと関係しているかもしれないという。

黒酢摂取、骨格筋量が多い

さらに細かく調査をすると、酢の摂取(酢の物、飲料)は、週に1度以上の摂取であっても血圧低下との関係性が見出された。

しかし、2017年の調査と同様、男性にのみ有意差が出て、女性には関係性が見えないという結果となった。なぜ、女性の食酢の摂取と血圧の関係が見出せないのか、その原因についてはまだわかっていない。

さらに、2018年度の研究では、黒酢を飲用している人はそうでない人に比べ、骨格筋量が多いという結果も出た。また、骨格筋量が多いことが影響しているのか、黒酢を飲用している人の方が歩行速度が早いという結果も出たという。

この黒酢と骨格筋の関係については引き続き検討・調査が必要とした。


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