1921年、アメリカのワイルダー氏は絶食より負担の少ないケトン食を考案、さらにドイツやアメリカではケトン食の肺がん・膵臓がん・前立腺がんなどへの有効性についての研究が行われた。
日本でも小児科で「難知性てんかん」患者に、ケトン食指導を行い、有効性や安全性が確認されている。
「炭水化物=糖質」という誤解
では、現在の「ケトン食」について、一体どのような誤解があるのか。まず、糖質制限は筋肉量が少ない人に効果がある、ということだ。
誰もが糖質制限をすればいいということではない。自分の体の状態を知らずに糖質制限をしても続かないケースが多い。
また、「炭水化物=糖質」も誤解である。炭水化物は食物繊維も含み、複雑な構造をしている。
低糖質食品を摂っても、その後の血糖値や健康状態を追跡しているものがほんどないことも問題である、と萩原氏は指摘する。
特に、「炭水化物=ご飯」、だからご飯を抜く、というのは日本人の場合問題である。ご飯は糖質だけでできているわけではない。日本人には日本人特有の腸内細菌叢があり、ご飯と味噌汁を腹八分目で食べている人が一番健康であることもわかっている。
「ケトン食」と「糖質制限」は別物
また、極端に糖質を減らしても血糖値が安定するわけではない、と萩原氏。
「ケトン食」と「糖質制限」はまったく別物である。糖質制限の場合、一般的に1日の糖質摂取量を100g以下に目指しているものが多い。
萩原氏らががん患者のために行なっている「ケトン食療法」では最初の1週間で糖質を10gまで減らす(糖質制限の1/10)。
さらに1週間から3ヶ月は20g、3ヶ月以降は30g、3ヶ月以降で個々人に合わせて脂質・タンパク質の量もさらに調整するというかなり厳しい方法を取っている。
これには理由があり、単なる糖質制限や低糖質ではケトン体はそれほど上がらず、ここまで制限することで最初の1週間でケトン体を急激に上げ、その上がったケトン体を維持するようにフォローしていく。
大阪大学での臨床試験ではケトン食療法に取り組んだ37人のうち25人に効果が出ており、がんのステージ4だった人でも4割くらいが生存率をあげているが、それでも全員に効果があるとは言えない、と萩原氏。
がんにおけるケトン食療法、臨床エビデンスはまだ確立していない
がんにおけるケトン食療法は有望だが、臨床エビデンスは確立しておらず、効果の発現機序もまだ不明で、ようやく今、エビデンスを構築していく段階に移行した、と萩原氏。
健康な人であっても、体の状態・筋肉量などまずは自分の体をしっかり把握した上で適切な糖質量を見極めなければ、正しい糖質制限にはならない。
病人、とくにがん患者さんは「ケトン食で治る」という情報に飛びつきたくなるが、「ケトン食療法」の安全性・有効性を確立し、標準化させることではじめて提供できる。
また、「ケトン食」で効果が出ているように思えても、ケトン食にしたことで、総合的に体のバランスが整ったことで効果が出ているということも忘れてはならない、と萩原氏。
現在、萩原氏を中心に「癌ケトン食研究会」を立ち上げ、研究成果等についても複数の特許申請を行い、ケトン食療法を行える医療関係者の育成、正しい情報発信などに力を入れているという。
1日でも早く、多くのがん患者さんや必要な人に「ケトン食療法」が実践できる環境を整えたい、と萩原氏は話した。
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